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会長視点3
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会長視点
「冬馬」
「ん? なに。辰巳」
律葉が書記に立候補し、合宿を行うことが決まったあと、生徒会と風紀委員の合同会議終わりに、龍一郎は辰巳に呼び止められた。
「お前、最近雰囲気変わったか?」
「えぇ? そんなことはないと思うけどな」
「いや。勘違いなら良いんだ。だが、もしかしたら恋でもしているんじゃないかと思ってな」
「恋? ぷっ、あはははっ。恋って、辰巳からそんな言葉を聞くなんて思わなかったな」
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭う龍一郎を、辰巳は意に返した様子もなく、ジッと見つめた。
「俺も大概鈍感だが、あまり鈍感すぎると大切なものを失うことになるかもしれないぞ」
「なにそれ。意味深だなぁ」
中等部からの付き合いではあるが、それなりに仲良くしていた辰巳が、こんな意味深なことを言うのを聞いたのは初めてで、龍一郎は不思議な気持ちだった。
「律葉」
ポツリとつぶやかれた名前に、龍一郎はピクリと体を震わせた。
それを見て、辰巳は「ほらな」と微かに笑った。
「なにがほらな?」
「さっきの会議中もそうだが、お前、律葉の名前が出るたびに様子がおかしいなと思ったんだ」
確かに、ストーカーの件や書記候補の件で、会議中は律葉の名前も何度か上がっていた。
だが、そのことに龍一郎は反応なんてした覚えはない。
「自覚がないのか? 言っておくが、律葉のことが好きならちゃんと大切にした方が良い。それに律葉には好きな人が居るそうだ」
「好きな人……? だったら、俺が大切にしたって無駄でしょ」
「そう思うか?」
辰巳は龍一郎よりも少し背が高い。
とは言え、今までその差をそこまで感じたことがなかったのに、今は辰巳の圧を強く感じた。
「本当に好きな奴を、自分ではない人間が守り、愛して、幸せに過ごす姿を、想像したことがあるのか」
「辰巳?」
「俺はそんなのは絶対にごめんだ。ダサいところを見られても良い。あいつが俺の前から居なくならないでくれるなら、足元に縋ったって良い。冬馬も拗れる前に好きだと告げた方が良いぞ」
「何でそんなことを言ってくるの?」
不思議だった。
辰巳は100パーセント善意、というような顔はしていなかったが、当然悪意をもたれるような関係でもないし、そもそも辰巳が悪意を持って人と関わるような人間じゃないことくらい知っている。だが、龍一郎の好きな子に対してお節介を焼かれるような覚えもないのだ。
「俺は、自分の気持ちに鈍感だったからな。自分は律葉が好きなんだと思っていた時期があったんだ」
「はっ!?」
声を上げた龍一郎に、辰巳は冷静な顔で片手を上げた。
「安心してくれ。もう俺は振られているし、そもそも本当は道が好きだったんだ。いや、冬馬は道のことは知らないか。道というのは律葉の友達だ」
律葉の友達というのは多分あの子だろうと言うのがわかる。
校内で律葉を見かける時、律葉はほとんど同じ子と並んで歩いているから。
「ああ、多分分かるよ。よく見かける。可愛いと言うよりも綺麗って感じの子だよね」
「そうだ」
頷いた辰巳は、心底幸せそうな顔をして笑った。
そんな顔は見たことがなかったので、度肝を抜かれたし、若干鳥肌がたった。
「それが何で俺にお節介を言ってくることに繋がるの」
「そんなの決まってるだろう。道の友人である律葉が幸せになれば道も喜ぶからだ」
「……お前すごいね。俺の知ってる辰巳とは全然違う気がするんだけど」
「そうか? だが、俺は生きてきた中で今が一番楽しいぞ」
「ふぅん」
頭の中を巡るのは、律葉が好きだと言う相手と、律葉が仲睦まじくしている様子。相手の名前も顔も知らないので、勝手な想像しかできないが、それでも龍一郎はその光景を思い浮かべるだけでフツフツと黒い感情が湧き上がり、律葉の幸せを願うこともできなかったし、相手の存在を許せなかった。
「……俺さ。ここだけの話、外国に会社を立ち上げているんだよ。それも軌道に乗っている」
「ああ」
「だから、今更冬馬家になんて別に従わなくたって良いんだよ」
「そうか」
「ただ、俺自身が勇気がなかっただけで。でも、そうか。確かに辰巳の言う通り、律葉くんが俺以外の奴とって想像してみたら絶対に許せないと思ったよ」
「だろうな。俺だって道が俺以外の奴と、と考えただけで何をしでかすか分からない。まぁ、道は俺を好きだし、俺は何があっても道を離さないから良いんだが」
「影から見守るなんて、絶対無理。律葉くんに好きな人がいるなら、気持ちを俺に向かせるだけだ」
龍一郎の気持ちを整理するような言葉にも、辰巳はいちいち返事をよこした。
それも、返事と見せかけてとびきり惚気と取れるようなものも入っていた。
けれど、それにいちいち反応を示している余裕は、今の龍一郎には1ミリもなかった。
龍一郎はそれから、律葉を手に入れるための行動を始めた。
「冬馬」
「ん? なに。辰巳」
律葉が書記に立候補し、合宿を行うことが決まったあと、生徒会と風紀委員の合同会議終わりに、龍一郎は辰巳に呼び止められた。
「お前、最近雰囲気変わったか?」
「えぇ? そんなことはないと思うけどな」
「いや。勘違いなら良いんだ。だが、もしかしたら恋でもしているんじゃないかと思ってな」
「恋? ぷっ、あはははっ。恋って、辰巳からそんな言葉を聞くなんて思わなかったな」
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭う龍一郎を、辰巳は意に返した様子もなく、ジッと見つめた。
「俺も大概鈍感だが、あまり鈍感すぎると大切なものを失うことになるかもしれないぞ」
「なにそれ。意味深だなぁ」
中等部からの付き合いではあるが、それなりに仲良くしていた辰巳が、こんな意味深なことを言うのを聞いたのは初めてで、龍一郎は不思議な気持ちだった。
「律葉」
ポツリとつぶやかれた名前に、龍一郎はピクリと体を震わせた。
それを見て、辰巳は「ほらな」と微かに笑った。
「なにがほらな?」
「さっきの会議中もそうだが、お前、律葉の名前が出るたびに様子がおかしいなと思ったんだ」
確かに、ストーカーの件や書記候補の件で、会議中は律葉の名前も何度か上がっていた。
だが、そのことに龍一郎は反応なんてした覚えはない。
「自覚がないのか? 言っておくが、律葉のことが好きならちゃんと大切にした方が良い。それに律葉には好きな人が居るそうだ」
「好きな人……? だったら、俺が大切にしたって無駄でしょ」
「そう思うか?」
辰巳は龍一郎よりも少し背が高い。
とは言え、今までその差をそこまで感じたことがなかったのに、今は辰巳の圧を強く感じた。
「本当に好きな奴を、自分ではない人間が守り、愛して、幸せに過ごす姿を、想像したことがあるのか」
「辰巳?」
「俺はそんなのは絶対にごめんだ。ダサいところを見られても良い。あいつが俺の前から居なくならないでくれるなら、足元に縋ったって良い。冬馬も拗れる前に好きだと告げた方が良いぞ」
「何でそんなことを言ってくるの?」
不思議だった。
辰巳は100パーセント善意、というような顔はしていなかったが、当然悪意をもたれるような関係でもないし、そもそも辰巳が悪意を持って人と関わるような人間じゃないことくらい知っている。だが、龍一郎の好きな子に対してお節介を焼かれるような覚えもないのだ。
「俺は、自分の気持ちに鈍感だったからな。自分は律葉が好きなんだと思っていた時期があったんだ」
「はっ!?」
声を上げた龍一郎に、辰巳は冷静な顔で片手を上げた。
「安心してくれ。もう俺は振られているし、そもそも本当は道が好きだったんだ。いや、冬馬は道のことは知らないか。道というのは律葉の友達だ」
律葉の友達というのは多分あの子だろうと言うのがわかる。
校内で律葉を見かける時、律葉はほとんど同じ子と並んで歩いているから。
「ああ、多分分かるよ。よく見かける。可愛いと言うよりも綺麗って感じの子だよね」
「そうだ」
頷いた辰巳は、心底幸せそうな顔をして笑った。
そんな顔は見たことがなかったので、度肝を抜かれたし、若干鳥肌がたった。
「それが何で俺にお節介を言ってくることに繋がるの」
「そんなの決まってるだろう。道の友人である律葉が幸せになれば道も喜ぶからだ」
「……お前すごいね。俺の知ってる辰巳とは全然違う気がするんだけど」
「そうか? だが、俺は生きてきた中で今が一番楽しいぞ」
「ふぅん」
頭の中を巡るのは、律葉が好きだと言う相手と、律葉が仲睦まじくしている様子。相手の名前も顔も知らないので、勝手な想像しかできないが、それでも龍一郎はその光景を思い浮かべるだけでフツフツと黒い感情が湧き上がり、律葉の幸せを願うこともできなかったし、相手の存在を許せなかった。
「……俺さ。ここだけの話、外国に会社を立ち上げているんだよ。それも軌道に乗っている」
「ああ」
「だから、今更冬馬家になんて別に従わなくたって良いんだよ」
「そうか」
「ただ、俺自身が勇気がなかっただけで。でも、そうか。確かに辰巳の言う通り、律葉くんが俺以外の奴とって想像してみたら絶対に許せないと思ったよ」
「だろうな。俺だって道が俺以外の奴と、と考えただけで何をしでかすか分からない。まぁ、道は俺を好きだし、俺は何があっても道を離さないから良いんだが」
「影から見守るなんて、絶対無理。律葉くんに好きな人がいるなら、気持ちを俺に向かせるだけだ」
龍一郎の気持ちを整理するような言葉にも、辰巳はいちいち返事をよこした。
それも、返事と見せかけてとびきり惚気と取れるようなものも入っていた。
けれど、それにいちいち反応を示している余裕は、今の龍一郎には1ミリもなかった。
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