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律葉視点 律葉の恋12
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「律葉くんは?」
「え?」
「怖いもの。俺はさっき言ったようにぐいぐい来られるのは怖いけど、律葉くんって意外と物怖じしない感じだから、怖いものが想像つかないな」
ペラリと会長が書類をめくる音がする。
そして、窓の外で降る大粒の雨の音。
「……僕は、雷が怖いです。特にトラウマがあるとかそういうことはないんですけど、光るのも、大きな音がするのも、恥ずかしいとは思うんですけど怖くて」
「へぇ。じゃあこの季節とか結構大変じゃない?」
「そうなんです。だからこの季節って好きじゃないんですよね」
「じゃあ、怖くなったら俺の部屋に来ると良いよ。この学園は、寮は全部1人部屋だもんね」
台風が近づいている影響か外は風が強いし雨は大粒だけど、それでも雷は鳴っていない。
だから僕は先輩のその社交辞令に、笑って応えることができた。
「ははは……。じゃあ、その時はお邪魔しちゃいます」
「うん。律葉くんだったらいつでも大歓迎だよ」
こんなことを言っているくせに、本当に僕が行ったら困るんだろう。
ぐいぐい来られるのが苦手だと言うくせに、簡単に付け込まれる様なことを言うんだから。
けれど僕はもう勘違いしたりはしない。
会長の周りに引かれた透明で見えづらい境界線を、間抜けな顔で踏み越えたりなんかしない。
「律葉、当選おめでとう。めちゃくちゃ頑張ってたもんね。すごいね」
「へへ、ありがとう。道」
僕たちの生徒会入りが掲示板に貼り出され、道は速攻祝ってくれた。
それが僕は本当に嬉しかった。
僕のことを認めてくれてる人は、書記候補生だった4人だけじゃない。
道はずっと僕と仲良くしてくれているし。ちょっと世間知らずで抜けてるところもあるけど、可愛いと思う。
けれど、外は相変わらず悪天候で、上がっていた気分もどんより下がり、小さく息を吐いた。
「にしてもすごい雨だね。気が滅入っちゃうよ」
「本当。街に行くバスもこの雨で減便して、俺たちずっと寮ばっかだしね」
僕の言葉に、道も同調して気怠そうに机に肘をつけて頬杖をついた。
その時、ピカッと外が明るくなりドーンと大きい音が鳴った。
またピカッとなりそうなのが怖くなってギュッと目を瞑って、音にも耐える。
「律葉?」
頭上から心配そうな道の声が降ってきて、僕は恐る恐る目を開いた。
「っ、ごめん……高校生にもなって恥ずかしいんだけど、雷が怖くてさ」
「怖いものに年齢なんて関係ないよ。俺だって幽霊怖いし」
道は僕の雷嫌いを馬鹿にすることはなく、自分の怖いものまで教えてくれて、慰めてくれた。
確かに、道は時たま幽霊を怖がっている節があったのを、どこか冷静な自分が思い出していた。
「あ、じゃあさ。今日は俺の部屋に泊まりに来る? 一緒にいたら怖さも半減するかもしれないし」
「え、いいの?」
道の提案はとても魅力的で、僕はもうとても嬉しくなった。
「もちろん。何だったら、台風とか嵐の度に全然来てよ!」
「ありがとう」
道の頼もしさに惚れそうになりながらもホッと胸を撫で下ろした。
それなのにその日、老朽化が進んだ寮は大雨の影響で1階部分が浸水し僕の部屋も道の部屋も人が寝泊りできるような状態ではなくなってしまった。
校内放送で全校生徒が集められた体育館でその話を聞いて、道は項垂れて申し訳なさそうに肩を竦めた。
「ごめん、律葉……」
「道のせいじゃないじゃん。心配しなくても僕は大丈夫だよ。だって、しばらく2、3年生の部屋に居候させてもらうってことは1人じゃないってことだから」
そりゃ道と一緒のほうがくっつけるだろうし安心できただろうけど。1人で部屋にいるよりはマシだ。
「それもそうだけど。でも、律葉は学校一可愛いし、心配だよ……。あ、そうだ!」
学校一可愛いなんて、道の自己紹介だろと思うけど、道があまりにも嬉しそうに叫ぶので僕はそっちの方が気になった。
「なに?」
「律葉は、辰巳先輩の部屋に泊めてもらえば良いんだ!」
道は、どんな思考でそうなってしまったのか分からないようなことを、“めっちゃ良い安思いついた!!”というような顔で叫んだ。
「え、何言ってんの……? 正気?」
僕が最大限のドン引きを込めた顔で道を見ても、道は“当然!”というように大きく頷いた。
「先輩だったら律葉のこと襲わないし。あ、違うよ。今は別に先輩と律葉が付き合えば良いなんて1ミリも思ってないよ。先輩、俺のこと大切にしてくれてるし」
「だったら」
「だからこそだよ。先輩ほど安全だって分かってる2、3年生なんていないんだから」
もう何と言えば良いのか分からず黙っていると、道の後ろに辰巳先輩が現れたので、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「ダメに決まってるだろう?」
「っ、先輩っ」
辰巳先輩は道の耳元でささやいて、道はそれを顔を真っ赤にして受け入れてる。
目の前でイチャイチャが始まった時、人はどうするのが正解なんだろうと、意識を飛ばしかけていると突然僕の名前が聞こえてきて、意識が戻った。
「……安心しろ。律葉が泊まる部屋はもう決まってる。律葉が安全かは知らないが、まぁ、そいつの部屋なら律葉本人も満更でもないだろうからな」
僕が満更でもない相手で、上級生。上級生にはあまり知り合いがいないから、どれだけ頭の中で候補を探しても、全部会長に行き着いた。
会長かは分からないのに、絶対会長だと決めつけている自分がいて、ドキドキと心臓が跳ね始めた。
「え?」
「怖いもの。俺はさっき言ったようにぐいぐい来られるのは怖いけど、律葉くんって意外と物怖じしない感じだから、怖いものが想像つかないな」
ペラリと会長が書類をめくる音がする。
そして、窓の外で降る大粒の雨の音。
「……僕は、雷が怖いです。特にトラウマがあるとかそういうことはないんですけど、光るのも、大きな音がするのも、恥ずかしいとは思うんですけど怖くて」
「へぇ。じゃあこの季節とか結構大変じゃない?」
「そうなんです。だからこの季節って好きじゃないんですよね」
「じゃあ、怖くなったら俺の部屋に来ると良いよ。この学園は、寮は全部1人部屋だもんね」
台風が近づいている影響か外は風が強いし雨は大粒だけど、それでも雷は鳴っていない。
だから僕は先輩のその社交辞令に、笑って応えることができた。
「ははは……。じゃあ、その時はお邪魔しちゃいます」
「うん。律葉くんだったらいつでも大歓迎だよ」
こんなことを言っているくせに、本当に僕が行ったら困るんだろう。
ぐいぐい来られるのが苦手だと言うくせに、簡単に付け込まれる様なことを言うんだから。
けれど僕はもう勘違いしたりはしない。
会長の周りに引かれた透明で見えづらい境界線を、間抜けな顔で踏み越えたりなんかしない。
「律葉、当選おめでとう。めちゃくちゃ頑張ってたもんね。すごいね」
「へへ、ありがとう。道」
僕たちの生徒会入りが掲示板に貼り出され、道は速攻祝ってくれた。
それが僕は本当に嬉しかった。
僕のことを認めてくれてる人は、書記候補生だった4人だけじゃない。
道はずっと僕と仲良くしてくれているし。ちょっと世間知らずで抜けてるところもあるけど、可愛いと思う。
けれど、外は相変わらず悪天候で、上がっていた気分もどんより下がり、小さく息を吐いた。
「にしてもすごい雨だね。気が滅入っちゃうよ」
「本当。街に行くバスもこの雨で減便して、俺たちずっと寮ばっかだしね」
僕の言葉に、道も同調して気怠そうに机に肘をつけて頬杖をついた。
その時、ピカッと外が明るくなりドーンと大きい音が鳴った。
またピカッとなりそうなのが怖くなってギュッと目を瞑って、音にも耐える。
「律葉?」
頭上から心配そうな道の声が降ってきて、僕は恐る恐る目を開いた。
「っ、ごめん……高校生にもなって恥ずかしいんだけど、雷が怖くてさ」
「怖いものに年齢なんて関係ないよ。俺だって幽霊怖いし」
道は僕の雷嫌いを馬鹿にすることはなく、自分の怖いものまで教えてくれて、慰めてくれた。
確かに、道は時たま幽霊を怖がっている節があったのを、どこか冷静な自分が思い出していた。
「あ、じゃあさ。今日は俺の部屋に泊まりに来る? 一緒にいたら怖さも半減するかもしれないし」
「え、いいの?」
道の提案はとても魅力的で、僕はもうとても嬉しくなった。
「もちろん。何だったら、台風とか嵐の度に全然来てよ!」
「ありがとう」
道の頼もしさに惚れそうになりながらもホッと胸を撫で下ろした。
それなのにその日、老朽化が進んだ寮は大雨の影響で1階部分が浸水し僕の部屋も道の部屋も人が寝泊りできるような状態ではなくなってしまった。
校内放送で全校生徒が集められた体育館でその話を聞いて、道は項垂れて申し訳なさそうに肩を竦めた。
「ごめん、律葉……」
「道のせいじゃないじゃん。心配しなくても僕は大丈夫だよ。だって、しばらく2、3年生の部屋に居候させてもらうってことは1人じゃないってことだから」
そりゃ道と一緒のほうがくっつけるだろうし安心できただろうけど。1人で部屋にいるよりはマシだ。
「それもそうだけど。でも、律葉は学校一可愛いし、心配だよ……。あ、そうだ!」
学校一可愛いなんて、道の自己紹介だろと思うけど、道があまりにも嬉しそうに叫ぶので僕はそっちの方が気になった。
「なに?」
「律葉は、辰巳先輩の部屋に泊めてもらえば良いんだ!」
道は、どんな思考でそうなってしまったのか分からないようなことを、“めっちゃ良い安思いついた!!”というような顔で叫んだ。
「え、何言ってんの……? 正気?」
僕が最大限のドン引きを込めた顔で道を見ても、道は“当然!”というように大きく頷いた。
「先輩だったら律葉のこと襲わないし。あ、違うよ。今は別に先輩と律葉が付き合えば良いなんて1ミリも思ってないよ。先輩、俺のこと大切にしてくれてるし」
「だったら」
「だからこそだよ。先輩ほど安全だって分かってる2、3年生なんていないんだから」
もう何と言えば良いのか分からず黙っていると、道の後ろに辰巳先輩が現れたので、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「ダメに決まってるだろう?」
「っ、先輩っ」
辰巳先輩は道の耳元でささやいて、道はそれを顔を真っ赤にして受け入れてる。
目の前でイチャイチャが始まった時、人はどうするのが正解なんだろうと、意識を飛ばしかけていると突然僕の名前が聞こえてきて、意識が戻った。
「……安心しろ。律葉が泊まる部屋はもう決まってる。律葉が安全かは知らないが、まぁ、そいつの部屋なら律葉本人も満更でもないだろうからな」
僕が満更でもない相手で、上級生。上級生にはあまり知り合いがいないから、どれだけ頭の中で候補を探しても、全部会長に行き着いた。
会長かは分からないのに、絶対会長だと決めつけている自分がいて、ドキドキと心臓が跳ね始めた。
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