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律葉視点 律葉の恋1
しおりを挟む「人に優しくしなさい」「人には良いところも悪いところもある。悪いところを許せる人になってね」「○○くんが謝ってるよ。いいよって出来るよね?」「人に優しくしているとそれが巡り巡って自分に返ってくるんだよ」「優しい人は損をするなんて言う人がいるけどね、お母さんはそうは思わないな」
両親は、2人とも本当に優しい人だったと思う。
僕もあまり何も考えずに両親のいう通りにしていたら、周りは僕のことを良い子だとか優しい子だとか言ってくれる様になって、それが幼心に嬉しくて、だから僕は幼い頃から人を許すということに慣れたんだと思う。
だけど、両親は僕が小学校に上がる前に2人揃って交通事故で死んでしまった。よそ見をしていた若者の運転する車が対向車線からはみ出してきたことが直接の原因だった。けれど、即死ではなかった両親は、そのよそ見運転の車に乗っていた若者たちを優先して救急車に乗せてあげてくれと言い残して、去っていったんだそうだ。
人はそれを美談として語る。けれど僕はそうは思えなかった。
人に優しくしていたところで、巡り巡って自分に返ってくるなんてことはない。だって、僕の両親は死んでしまった。優しい人たちだったけど、簡単に命を奪われてしまった。優しいからこそ死んだも同然だと思った。
親戚に引き取られた僕は、オメガであることが判明してから厄介者扱いされて家の中では肩身の狭い暮らしをしていた。セクハラ発言や軽くこずくなんてこともされた。きっと世の中にはもっと辛い子供もいる。けれどされたことの大小じゃない。僕だけが他人の家で生活するその家の中は幼い頃の僕にはかなりストレスだった。だから中学受験は全寮制の男子校を選んだ。
『邪険にして、その……色々言ったりしてすまなかった』
『悪気があったわけじゃないの』
『……悪かったな』
僕が寮に入ることになり、冷静になったのか僕を引き取った親戚のおじさんも、おばさんも、その家の息子も、形ばかり申し訳なさそうな顔をして、僕を見送った。許したくないと思った。だけど僕はそれを頷いて許した。
幼い頃からの癖だ。なんでも条件反射で頷いて許してしまう。
けれど僕は、両親のように優しくして自分が損する人生なんてまっぴらだと思った。
性格が悪いと罵られても良い。
だから、僕は代わりに、周りの人に頼み事をするようになった。
瓶の蓋が開かないとか、お弁当のおかず1つちょうだいとか、ノート写させてとか。高いところにある物をとってとか。
そういうことを、周りに頼んでみた。
そしたら案外みんなあっさりと、僕を許してくれた。
僕の頼み事を引き受けてくれた。
なんとなく、存在を許されている気がして、嬉しくて、人にものを頼むことは、僕の日常になっていた。
高校に上がってすぐ、放課後はたまに道に用事があって居なかったので1人で高校の中の探検をしていた。空き教室とか、理科室とか。放課後はあまり生徒の来ない様な教室を回ってみると、静かで少しホラーで、なんとなく楽しくて、隅々まで回っていた。
少し暗くなってきて、遅くなってしまったことに少し焦りながら歩いていると、1つ明かりの付いている部屋があることに気がついた。中を覗き込むと、入学式の時に生徒会長として挨拶していた先輩が机に突っ伏して寝息を立てていた。
少し肌寒そうにしていて、可哀想だなと思って、そっと部屋の中に忍び込んで、自分の着ていたジャケットを脱いで、その人にかけてあげた。机には書類が散乱しているし、顔を覗き込んでみれば、うっすらと隈ができていて、相当忙しいんだろうということが分かる。
「ん……ん?」
「えっと、起こしちゃいましたね?」
起きてしまったその先輩に声をかけると、先輩は怪訝そうな顔で僕を見た。初対面の、それも年上の人と話すのは少し緊張して、声が若干上擦った。
「あぁ。これかけてくれたの、君かな?」
「え? はい。寒そうだったので」
「そう……。気持ちはありがたいけど、俺には必要ないかな」
口元に貼り付けた様な笑みでジャケットを返されて僕は渋々それを受け取った。
「君、見たことあるな」
「え?」
「よく周りの生徒に頼み事しているのを見る。そうでしょ?」
首を傾けてそう言った先輩の顔は、嫌に整っている。
「あ……はい」
「あんまり頼み事ばかりしていると、周りから人が居なくなっちゃうんじゃないかな?」
「え……」
ドキリとした。周りから人が居なくなってしまうかもなんて、考えたこともなかったから。
「あー、いや。ごめんね。なんでもない。寝ぼけちゃったのかな。あ、外もこんなに暗い。もう帰らないと。送っていくよ」
先輩は失言だったと思ったのか、頭の後ろをかきながらそう言った。
「や、大丈夫です。1人で帰れます。失礼しました」
「あ、待って待って。大丈夫じゃないでしょさすがに。送っていくから。えーっと、ジャケットのお礼。あぁ、でも、ちょっとこの辺片すの手伝ってもらえるかな?」
魔の抜けたような話し方は、その場の緊張を溶かすみたいで、机を片してA棟の寮まで送ってもら間に、僕は先輩と話すことに緊張をしなくなっていた。
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