(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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期限の日

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そうして俺は、幸せな幸せな1週間を先輩と過ごした。
初めてのヒートによる倦怠感と緩い発情が続いていたため1週間の間、1回も学校には行かなかった。

義母さんとは何度か電話をした。
俺がどんな状況になっているのか知っているのか分からないけど、いつもよりも感謝を口にする俺に、義母さんたちは「私たちは道を見捨てたりしない」「道を本当に大切な家族だと思ってる」「不安があるなら口に出しなさい」「私たちの子供なんだから、何があっても守るから」と何度も言ってくれた。
けれど、それを言うなら俺だって、義母さん達に迷惑をかけたくなかった。義母さんたちを大切に思っているからこそ、何も口にはしなかった。

父から伝えられた期限の日。
先輩が登校して行ってから、俺は少ない荷物をまとめ始めた。
先輩からもらった猫の絵と、この1週間の間俺へのちょっとした伝言のために残された先輩が描いた絵がついたメモ帳を財布の中に大事にしまった。よくよく考えたら、俺の必要なものはそれくらいで、まとめると言うほど荷物がなく、すぐに終わってしまった。
先輩の昨日脱いだシャツを1枚取って、それを身につけて、俺は先輩の部屋を出た。
先輩とは体格差があってかなりぶかぶかで、しかも、こんなことをしてもどうせ先輩の匂いもきっと数日で消えてしまうだろう。
けれど、父のもとに向かうのに、何か勇気が必要だった。

重い足で寮の出入口に向かう。
いつもなら3分もあれば寮の管理人室を通過できるはずなのに、今はかなりの時間を要した。

「道」
「え……義母さん……? はるみさん? なんで……」

寮の出入口にやっとたどり着いた俺を出迎えたのは、義母さんたちだった。

「っ、なんで何も言ってくれないの。本当……。あなたって子は」
「義母さん?」
「道なりに、私たちのことを想ってのことなんでしょう。けど、道。困ったことがあったら、大人を頼りなさい。子供に頼られたら。道に頼られたら、私たちは安心するし、嬉しいんだから」
「はるみさん」

義母さんたちは2人も目の下に隈があったし、すごく疲れているみたいだった。

「どうしてここに居るの……?」
「あなたをあのクズの元に向かわせないために決まってるでしょう」
「でも、俺……」

俺が行かないと義母さんたちが。

「大丈夫。道の彼氏は本当よく頑張っていたし、私たちも……」

はるみさんが道路側を見てフッ笑った。

「道っ」
「……先輩っ?」

先輩が駆け寄ってきて、俺をバッと抱きすくめた。

「先輩……っ、どうしたんですか。その傷」

先輩の腕には切り傷があって血が出て白いシャツを赤く染めていた。

「これはちょっと。でも今は全然痛くないんだ。道が無事でよかった」
「ちょ、痛くないはずないよ! そんな血が出てるのに。あ、アドレナリンとか、そういうのでしょ? 救急車呼ばなきゃ!!」

どうしてそんな傷が出来たのかは後回しにして、とりあえず先輩を病院に連れて行かないとと焦った。

「道。彼は私たちの車で連れて行くわ。ついてくるでしょ?」
「当たり前だよ!!」
「俺は平気だ」
「ダメに決まってる!」

先輩がなおも俺にくっつくのを制止して義母さんの車に押し込んで、その後に自分も乗り込んだ。
はるみさんが運転席に、義母さんが助手席に乗って、車が発進した。

病院について診察してもらうと、先輩の傷は刃物の傷で、けれど浅いところを長く切られただけだから、かすり傷みたいなものだと診断された。絵を描くにしても影響は出ないだろうと太鼓判を押されて、俺はやっとホッと息を吐いた。

けれど、父親のことを忘れていたことを思い出して、俺は勢いよく立ち上がった。

「道?」
「先輩、俺、行かなきゃ」
「ダメだ」
「でも」

先輩に腕をとられ、引き止められた。

「大丈夫。道の父親は今警察に捕まっている」

穏やかな声だった。

「え……?」
「俺に対する傷害罪だ……、いや、『殺してやる』と言っていたから殺人未遂だな。その様子は録画済みだし、もう道の前には現れない」
「その傷、父さんが……、ごめん、いや、すみません……先輩、俺のことに、巻き込んじゃって」

先輩はゆるく首を振った。

「違う。俺が道を助けたかったんだ。道にそばに居て欲しかったからやったんだ。だから、俺はごめんじゃなく……」

じっと俺を見る先輩に、俺は泣き出す寸前のような喉の締め付けを感じた。

「……ぁ、あ、ありがとう、先輩。俺を助けてくれて、ありがとう」
「ああ」

先輩は頷いて嬉しそうに蕩けるような顔で微笑んでくれた。

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