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先輩の話
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「道を想って行動したのは、実は俺だけじゃないんだ」
診察が終わったとの待ち時間、先輩はそう言った。
「え」
「道のご両親……、凜子さんとはるみさんも、道を助けるために沢山手を貸してくれたんだ」
病院の待合室は人がいっぱいで、大勢で居ると迷惑になるからと義母さんたちは車で待ってくれている。だから、義母さんたちはこの場には居ないけど、先輩は駐車場の方に目を向けながらそう教えてくれた。
「ごめんな。道にヒートが来た日に、道のスマホにかかってきた電話を勝手に取った」
「え?」
「その相手が、凛子さんだったんだよ」
「義母さんが」
確かに、メッセージや電話をかなりかけてくれていた。
その1つが先輩と繋がっていたのだということに先輩に言われる今の今まで気がつかなかった。
「情けないことに、俺だけで道を救えるか不安だった。だから凜子さんとお話をさせていただいて、協力してくれるということになったんだ。というか、まぁ。『頼まれなくったって、道を助ける方向に動くに決まってるでしょ!!』と怒られはしたんだが」
「え、っと。なんだか、すみません」
「いや……。俺は、道を想ってくれている人が居て嬉しかったから」
「そ、そっか」
「それで、凛子さんとはるみさんは、会社を経営しているだろう?」
「え……はい」
義母さんたちは業務用のクリーニング会社を経営している。
父は義母さんたちの会社を小さな会社だと馬鹿にしたが、関東に8工場と地方に5工場を持ち、今も成長を続けている立派な会社だ。
「道にはあまり聞かせたくない話だが、この国の上層部の年寄りは腐った考えを持った人間が多い。いまだにアルファ優位で物事を考えている」
「えっと。うん。それは……分かるよ」
先輩は国の不条理さを思ってか、不愉快そうに眉を潜めながら頷いた。
「ああ。だから、俺たちはそれを逆手に取って行動した」
「逆手に?」
それはどういうことなのだろうか。
首を傾げると、先輩は少し言い澱んだあと、話し始めた。
「凜子さんもはるみさんもベータだそうだが、お二人の取引先の方やお知り合いにはアルファの方も多いそうで、お二人は文字通りあちこちに飛び回って今回のことを訴えたんだ」
「訴えたって」
でも、そんなことをして意味があるのだろうか。
「若い世代の起業家や有識者は第二性への差別を持たない人が多い。むしろそういった差別に嫌悪する人たちも多いんだ」
「そう、なんだ」
それは知らなかった。
先輩はともかくアルファはみんな傲慢でオメガやベータを馬鹿にして悠々自適に過ごしているだけだと思っていたから。けれど、先輩の言っていることが本当なら俺自身にこそアルファに対する偏見があったのかもしれない。
「凜子さんやはるみさんが掛け合った方達の中には、国の上層部の人間すらも頭が上がらないような人たちも居て、これ以上、道のようなオメガを増やそうものなら上層部の連中を全て更迭するか、それが無理なら全員で他国に移り住むぞと脅してくれたんだ」
「え……すごい」
馬鹿みたいだが、本当に「すごい」と言う言葉しか出てこなかった。
だって、国の上層部相手に脅すなんて。
でもさすが義母さんたちはやっぱりパワフルだ。
俺を守ってくれたんだと、嬉しくなって、同時に素直に助けを求めなかったことに罪悪感を覚えた。
「そして、今回、国がアルファだからと見逃した道の父親は、アルファであり、国が絶対に国外に逃したくない企業であるだろう辰巳製薬と私立病院協会の仁辰会会長の息子の俺を害した……。アルファ優位の考えを持つ上層部がこれからどう動くか知らないが、まぁ、彼らはもう破滅するしかないだろうな」
なんだか俺を救うためだけに途方もない話になっていて、理解が追いつかなかった。
「俺……、なんて言ったらいいか。本当に、もう諦めてたから。嬉しい……これからも、先輩と一緒に居てもいいってこと、だよね」
「ああ。そうしてもらわないと困る」
こんな幸せなことがあって良いのかと、信じられない気持ちで胸がいっぱいになった。
「道を助けようと思っても、俺1人じゃどうにもならなかった。結局母親の会社と父親の名前を使って脅すことになったしな」
「ううん。そんなことない。先輩が俺のために動いてくれたのは事実だし、助けを求められなかった俺を助けるために怪我までして助けてくれて。俺、先輩が居てくれて本当、よかった」
そう伝えて、精一杯笑った。
診察が終わったとの待ち時間、先輩はそう言った。
「え」
「道のご両親……、凜子さんとはるみさんも、道を助けるために沢山手を貸してくれたんだ」
病院の待合室は人がいっぱいで、大勢で居ると迷惑になるからと義母さんたちは車で待ってくれている。だから、義母さんたちはこの場には居ないけど、先輩は駐車場の方に目を向けながらそう教えてくれた。
「ごめんな。道にヒートが来た日に、道のスマホにかかってきた電話を勝手に取った」
「え?」
「その相手が、凛子さんだったんだよ」
「義母さんが」
確かに、メッセージや電話をかなりかけてくれていた。
その1つが先輩と繋がっていたのだということに先輩に言われる今の今まで気がつかなかった。
「情けないことに、俺だけで道を救えるか不安だった。だから凜子さんとお話をさせていただいて、協力してくれるということになったんだ。というか、まぁ。『頼まれなくったって、道を助ける方向に動くに決まってるでしょ!!』と怒られはしたんだが」
「え、っと。なんだか、すみません」
「いや……。俺は、道を想ってくれている人が居て嬉しかったから」
「そ、そっか」
「それで、凛子さんとはるみさんは、会社を経営しているだろう?」
「え……はい」
義母さんたちは業務用のクリーニング会社を経営している。
父は義母さんたちの会社を小さな会社だと馬鹿にしたが、関東に8工場と地方に5工場を持ち、今も成長を続けている立派な会社だ。
「道にはあまり聞かせたくない話だが、この国の上層部の年寄りは腐った考えを持った人間が多い。いまだにアルファ優位で物事を考えている」
「えっと。うん。それは……分かるよ」
先輩は国の不条理さを思ってか、不愉快そうに眉を潜めながら頷いた。
「ああ。だから、俺たちはそれを逆手に取って行動した」
「逆手に?」
それはどういうことなのだろうか。
首を傾げると、先輩は少し言い澱んだあと、話し始めた。
「凜子さんもはるみさんもベータだそうだが、お二人の取引先の方やお知り合いにはアルファの方も多いそうで、お二人は文字通りあちこちに飛び回って今回のことを訴えたんだ」
「訴えたって」
でも、そんなことをして意味があるのだろうか。
「若い世代の起業家や有識者は第二性への差別を持たない人が多い。むしろそういった差別に嫌悪する人たちも多いんだ」
「そう、なんだ」
それは知らなかった。
先輩はともかくアルファはみんな傲慢でオメガやベータを馬鹿にして悠々自適に過ごしているだけだと思っていたから。けれど、先輩の言っていることが本当なら俺自身にこそアルファに対する偏見があったのかもしれない。
「凜子さんやはるみさんが掛け合った方達の中には、国の上層部の人間すらも頭が上がらないような人たちも居て、これ以上、道のようなオメガを増やそうものなら上層部の連中を全て更迭するか、それが無理なら全員で他国に移り住むぞと脅してくれたんだ」
「え……すごい」
馬鹿みたいだが、本当に「すごい」と言う言葉しか出てこなかった。
だって、国の上層部相手に脅すなんて。
でもさすが義母さんたちはやっぱりパワフルだ。
俺を守ってくれたんだと、嬉しくなって、同時に素直に助けを求めなかったことに罪悪感を覚えた。
「そして、今回、国がアルファだからと見逃した道の父親は、アルファであり、国が絶対に国外に逃したくない企業であるだろう辰巳製薬と私立病院協会の仁辰会会長の息子の俺を害した……。アルファ優位の考えを持つ上層部がこれからどう動くか知らないが、まぁ、彼らはもう破滅するしかないだろうな」
なんだか俺を救うためだけに途方もない話になっていて、理解が追いつかなかった。
「俺……、なんて言ったらいいか。本当に、もう諦めてたから。嬉しい……これからも、先輩と一緒に居てもいいってこと、だよね」
「ああ。そうしてもらわないと困る」
こんな幸せなことがあって良いのかと、信じられない気持ちで胸がいっぱいになった。
「道を助けようと思っても、俺1人じゃどうにもならなかった。結局母親の会社と父親の名前を使って脅すことになったしな」
「ううん。そんなことない。先輩が俺のために動いてくれたのは事実だし、助けを求められなかった俺を助けるために怪我までして助けてくれて。俺、先輩が居てくれて本当、よかった」
そう伝えて、精一杯笑った。
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