29 / 61
先輩の話
しおりを挟む
「道を想って行動したのは、実は俺だけじゃないんだ」
診察が終わったとの待ち時間、先輩はそう言った。
「え」
「道のご両親……、凜子さんとはるみさんも、道を助けるために沢山手を貸してくれたんだ」
病院の待合室は人がいっぱいで、大勢で居ると迷惑になるからと義母さんたちは車で待ってくれている。だから、義母さんたちはこの場には居ないけど、先輩は駐車場の方に目を向けながらそう教えてくれた。
「ごめんな。道にヒートが来た日に、道のスマホにかかってきた電話を勝手に取った」
「え?」
「その相手が、凛子さんだったんだよ」
「義母さんが」
確かに、メッセージや電話をかなりかけてくれていた。
その1つが先輩と繋がっていたのだということに先輩に言われる今の今まで気がつかなかった。
「情けないことに、俺だけで道を救えるか不安だった。だから凜子さんとお話をさせていただいて、協力してくれるということになったんだ。というか、まぁ。『頼まれなくったって、道を助ける方向に動くに決まってるでしょ!!』と怒られはしたんだが」
「え、っと。なんだか、すみません」
「いや……。俺は、道を想ってくれている人が居て嬉しかったから」
「そ、そっか」
「それで、凛子さんとはるみさんは、会社を経営しているだろう?」
「え……はい」
義母さんたちは業務用のクリーニング会社を経営している。
父は義母さんたちの会社を小さな会社だと馬鹿にしたが、関東に8工場と地方に5工場を持ち、今も成長を続けている立派な会社だ。
「道にはあまり聞かせたくない話だが、この国の上層部の年寄りは腐った考えを持った人間が多い。いまだにアルファ優位で物事を考えている」
「えっと。うん。それは……分かるよ」
先輩は国の不条理さを思ってか、不愉快そうに眉を潜めながら頷いた。
「ああ。だから、俺たちはそれを逆手に取って行動した」
「逆手に?」
それはどういうことなのだろうか。
首を傾げると、先輩は少し言い澱んだあと、話し始めた。
「凜子さんもはるみさんもベータだそうだが、お二人の取引先の方やお知り合いにはアルファの方も多いそうで、お二人は文字通りあちこちに飛び回って今回のことを訴えたんだ」
「訴えたって」
でも、そんなことをして意味があるのだろうか。
「若い世代の起業家や有識者は第二性への差別を持たない人が多い。むしろそういった差別に嫌悪する人たちも多いんだ」
「そう、なんだ」
それは知らなかった。
先輩はともかくアルファはみんな傲慢でオメガやベータを馬鹿にして悠々自適に過ごしているだけだと思っていたから。けれど、先輩の言っていることが本当なら俺自身にこそアルファに対する偏見があったのかもしれない。
「凜子さんやはるみさんが掛け合った方達の中には、国の上層部の人間すらも頭が上がらないような人たちも居て、これ以上、道のようなオメガを増やそうものなら上層部の連中を全て更迭するか、それが無理なら全員で他国に移り住むぞと脅してくれたんだ」
「え……すごい」
馬鹿みたいだが、本当に「すごい」と言う言葉しか出てこなかった。
だって、国の上層部相手に脅すなんて。
でもさすが義母さんたちはやっぱりパワフルだ。
俺を守ってくれたんだと、嬉しくなって、同時に素直に助けを求めなかったことに罪悪感を覚えた。
「そして、今回、国がアルファだからと見逃した道の父親は、アルファであり、国が絶対に国外に逃したくない企業であるだろう辰巳製薬と私立病院協会の仁辰会会長の息子の俺を害した……。アルファ優位の考えを持つ上層部がこれからどう動くか知らないが、まぁ、彼らはもう破滅するしかないだろうな」
なんだか俺を救うためだけに途方もない話になっていて、理解が追いつかなかった。
「俺……、なんて言ったらいいか。本当に、もう諦めてたから。嬉しい……これからも、先輩と一緒に居てもいいってこと、だよね」
「ああ。そうしてもらわないと困る」
こんな幸せなことがあって良いのかと、信じられない気持ちで胸がいっぱいになった。
「道を助けようと思っても、俺1人じゃどうにもならなかった。結局母親の会社と父親の名前を使って脅すことになったしな」
「ううん。そんなことない。先輩が俺のために動いてくれたのは事実だし、助けを求められなかった俺を助けるために怪我までして助けてくれて。俺、先輩が居てくれて本当、よかった」
そう伝えて、精一杯笑った。
診察が終わったとの待ち時間、先輩はそう言った。
「え」
「道のご両親……、凜子さんとはるみさんも、道を助けるために沢山手を貸してくれたんだ」
病院の待合室は人がいっぱいで、大勢で居ると迷惑になるからと義母さんたちは車で待ってくれている。だから、義母さんたちはこの場には居ないけど、先輩は駐車場の方に目を向けながらそう教えてくれた。
「ごめんな。道にヒートが来た日に、道のスマホにかかってきた電話を勝手に取った」
「え?」
「その相手が、凛子さんだったんだよ」
「義母さんが」
確かに、メッセージや電話をかなりかけてくれていた。
その1つが先輩と繋がっていたのだということに先輩に言われる今の今まで気がつかなかった。
「情けないことに、俺だけで道を救えるか不安だった。だから凜子さんとお話をさせていただいて、協力してくれるということになったんだ。というか、まぁ。『頼まれなくったって、道を助ける方向に動くに決まってるでしょ!!』と怒られはしたんだが」
「え、っと。なんだか、すみません」
「いや……。俺は、道を想ってくれている人が居て嬉しかったから」
「そ、そっか」
「それで、凛子さんとはるみさんは、会社を経営しているだろう?」
「え……はい」
義母さんたちは業務用のクリーニング会社を経営している。
父は義母さんたちの会社を小さな会社だと馬鹿にしたが、関東に8工場と地方に5工場を持ち、今も成長を続けている立派な会社だ。
「道にはあまり聞かせたくない話だが、この国の上層部の年寄りは腐った考えを持った人間が多い。いまだにアルファ優位で物事を考えている」
「えっと。うん。それは……分かるよ」
先輩は国の不条理さを思ってか、不愉快そうに眉を潜めながら頷いた。
「ああ。だから、俺たちはそれを逆手に取って行動した」
「逆手に?」
それはどういうことなのだろうか。
首を傾げると、先輩は少し言い澱んだあと、話し始めた。
「凜子さんもはるみさんもベータだそうだが、お二人の取引先の方やお知り合いにはアルファの方も多いそうで、お二人は文字通りあちこちに飛び回って今回のことを訴えたんだ」
「訴えたって」
でも、そんなことをして意味があるのだろうか。
「若い世代の起業家や有識者は第二性への差別を持たない人が多い。むしろそういった差別に嫌悪する人たちも多いんだ」
「そう、なんだ」
それは知らなかった。
先輩はともかくアルファはみんな傲慢でオメガやベータを馬鹿にして悠々自適に過ごしているだけだと思っていたから。けれど、先輩の言っていることが本当なら俺自身にこそアルファに対する偏見があったのかもしれない。
「凜子さんやはるみさんが掛け合った方達の中には、国の上層部の人間すらも頭が上がらないような人たちも居て、これ以上、道のようなオメガを増やそうものなら上層部の連中を全て更迭するか、それが無理なら全員で他国に移り住むぞと脅してくれたんだ」
「え……すごい」
馬鹿みたいだが、本当に「すごい」と言う言葉しか出てこなかった。
だって、国の上層部相手に脅すなんて。
でもさすが義母さんたちはやっぱりパワフルだ。
俺を守ってくれたんだと、嬉しくなって、同時に素直に助けを求めなかったことに罪悪感を覚えた。
「そして、今回、国がアルファだからと見逃した道の父親は、アルファであり、国が絶対に国外に逃したくない企業であるだろう辰巳製薬と私立病院協会の仁辰会会長の息子の俺を害した……。アルファ優位の考えを持つ上層部がこれからどう動くか知らないが、まぁ、彼らはもう破滅するしかないだろうな」
なんだか俺を救うためだけに途方もない話になっていて、理解が追いつかなかった。
「俺……、なんて言ったらいいか。本当に、もう諦めてたから。嬉しい……これからも、先輩と一緒に居てもいいってこと、だよね」
「ああ。そうしてもらわないと困る」
こんな幸せなことがあって良いのかと、信じられない気持ちで胸がいっぱいになった。
「道を助けようと思っても、俺1人じゃどうにもならなかった。結局母親の会社と父親の名前を使って脅すことになったしな」
「ううん。そんなことない。先輩が俺のために動いてくれたのは事実だし、助けを求められなかった俺を助けるために怪我までして助けてくれて。俺、先輩が居てくれて本当、よかった」
そう伝えて、精一杯笑った。
65
お気に入りに追加
894
あなたにおすすめの小説



雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。



捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる