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登校

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先輩と付き合うことになった翌日学校に向かおうとドアを開けると、ドアの前に先輩が待っていた。

「おはよう、道」
「え、お、おはようございます。どうしたんですか?」
「一緒に登校したくて待っていた。良いか?」
「も、もちろん。嬉しいです!」

最近一緒に登校していた藤井は、あんなことになってしまって、今日からは1人で登校かと寂しく思っていたところだった。

「昨日いろいろあって聞くのを忘れていたが、テストの結果はどうだった?」
「あ、はい。先輩のおかげでいつもよりはかなり良かったです」

そう告げると先輩は自分のことのように嬉しそうに笑って俺の頭に手を置いた。

「そうか。よくがんばったな。俺は結局1日しか教えられていないから、1人で相当がんばったんだろう? えらいな」
「へへ。あんまり自慢できる点じゃないんだけど、褒めてもらえて嬉しい」

先輩と歩く学校までの道は、楽しすぎて一瞬で終わった。
下駄箱で別れ教室に向かうと俺の席に律葉がやってきた。

「道……」

俺は立ち上がって律葉に向かって頭を下げた。

「律葉、昨日はごめん。それに最近はずっと避けてて……ごめん」

俺が謝ると律葉はハッと顔を上げた。

「道。僕の方こそごめん。ストーカーのことで僕、いっぱいいっぱいで、悪い方に悪い方に考えちゃって、それで、怖くて道に話しかけられなくなってた」
「悪い方にって?」
「今まで道に我儘ばっかり言って困らせてたから、とうとう愛想をつかされちゃって、嫌われちゃったんだって」
「そんなことない! 俺、律葉のお願いごと聞くの好きだよ。だから愛想尽かすなんてない。俺は、自分のことばっかり考えて律葉を避けてただけなんだ。ごめん……。本当は俺、辰巳先輩のことが好きだったんだ。でも先輩は律葉が好きだって知ってたから、先輩と律葉が付き合えばいいって思ってた。そんな風に自分で立ち回ったのに、いざ2人が付き合ってるって噂が流れたら俺、応援するなんて無理だったって後悔して……。先輩と付き合い始めたって、面と向かって報告されるのが怖くて律葉と話すのも怖くなってた」
「そうだったんだ……。僕のこと、嫌いじゃないってこと?」

まだ心配な顔をして俺を見る律葉に、俺は何度も縦に大きく首を振った。

「もちろん。むしろこんな俺のこと、律葉は嫌いになった?」
「そんなわけないじゃん。僕は道が大好きだよ」
「そっか……良かった」

ホッと息を吐いた。
仲直りしたタイミングでちょうどよくチャイムが鳴り、授業が始まった。
教室にはもちろん藤井は居なかったが、誰も藤井の話題を出すものも居なかった。
被害者である律葉への配慮で、何があったのか伏せられているのかもしれないなと思った。

昼のチャイムが鳴ってから、今日は学食で食べようかなと考えていると、教室の入り口あたりがざわついた。

「道」
「え? 先輩?」
「道、おいで」

先輩が呼ぶので近づいていくと、先輩に群がった人だかりがささっと避けていった。

「道。弁当を作ってきたから一緒に食べよう」
「え、先輩が? 作ってくれたんですか?」
「ああ」

先輩がやや自慢げに弁当を掲げ持ち微笑んだ。
それから先輩に連れて行かれたのは今は使われていない空き教室で、先輩は教室の鍵を開けて俺を中に促した。

「どうしてこんなとこの鍵持ってるんですか?」
「ん? ああ。俺は風紀委員長だからな」
「それ、職権濫用じゃ?」
「細かいことは気にするな。人の目があると食べ辛いだろう?」

先輩はそう言いながら俺の前に弁当を広げた。
小さめの3段の重箱におにぎりや卵焼きやウィンナーなどが入っていた。

「わぁ、俺の好きなものばっか。やっぱ弁当ってこういうの憧れるよね! あ! ウィンナー、たこさんだ。かにさんもいるし! すごい!」
「道はこういうのが好きか。可愛いな。たくさんあるから、好きなだけ食べてくれ」
「っ、うん。あ、ありがとう」

可愛いなんてさらっと言ってくれるから、恥ずかしくて、まだ何も食べていないのに、食べ物が喉に詰まったみたいになった。

「っ、これ、美味しい! なんか普通の卵焼きと違うよ。この唐揚げも……、すごい。すごい美味しい……」

今まで何度も食べたことがあるメニューだと言うのに、先輩の作ったお弁当は美味しすぎてまるで始めて食べたもののように、感動した。

「はは。口についてるぞ。小学生みたいだな」

先輩はそう言って困った様に笑って、ハンカチで俺の口元を拭ってくれた。
付き合い始めて昨日の今日で、しかもあんな始まりだったから、こんな展開になるとは全く想像しておらず、俺の心臓はドキドキしっぱなしだった。
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