(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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お試し交際

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「道の失恋相手は結局誰なんだ」

俯いていた先輩が、そろりと顔を上げてそう言った。

「や……、えっと」

まさか、先輩だなんて言えるはずもなく、俺の目は勝手に泳ぎまくり、天井の隅に今まで気がついたことのなかったシミが付いていることに気がついてしまうほどだった。

「道は……、可愛いからな」
「へ?」
「さっきの話を聞いた感じだと、その相手には、道の気持ちを直接伝えていないんだろう?」
「え、まぁ……、はい」

先輩は俺の返事に微かに笑った。

「なら、伝えてみると良い。俺は直接伝えて、直接振られて、それは結果的に良かったと思っている。伝えないまま終わるのは、心に蟠りを残すことになるんじゃないか?」
「でもどうせ振られるのに。俺、先輩みたいに勇気でないです」
「どうせ失恋するなら、とことん失恋したほうが諦めもつくかもしれないし。無理にとは言わないが、もしも振られたら俺が慰めてやるから」

先輩から振られると言うのに、先輩に慰められるって、考えただけでもゾッとする状況だ。
振られた人を慰める時ってどんなこと言うんだっけ。「お前を好きにならない奴なんて、早く忘れて次にいけ」とか? いやいや流石に、そんなん先輩に言われたら何て返して良いか分からない。

「道?」
「いや、俺は……」

俺はこのままでいい。そう続けようと思った。
でも。
先輩も失恋しているわけだし。
ショックは受けていないなんて言ってるけど、もしかしたら付け入る隙があるかもしれない。
セフレにしてもらった時も、なんだかんだ先輩は受け入れてくれたし、今回も丸め込んでみたらなんとかなるんじゃないか、なんて、俺の中の悪魔が囁きかける。なんなら、振られるにしてもこんなタイミングで告白などすれば、先輩は俺のことを一生忘れることはないだろうと悪魔が続ける。そして今、俺の中には天使は不在だった。

「俺の好きな人、知りたいですか」
「ああ。どんな奴だ」

先輩は素直に頷いて首を傾げて俺を見た。
緊張で喉がカラカラに枯れている。
けれど、俺は意を決して先輩を見つめた。

「俺の好きな人は……俺よりかなり低い声で身長高くて男前で、頭も良くて運動もできて、不器用だけど優しい人です。それに、絵がとても上手で、俺はその人の絵が大好きです」
「そうか。それはすごいな……。絵がうまいということは美術部のつながりなのか。俺は幽霊部員で顔を出さないからな。学年は?」

ふふっと声が漏れる。
本当、自分だとはかけらも思っていないみたいだ。

「2年生ですよ。先輩」
「俺と同じ学年か。それで美術部だと……」

俺の好きな人の条件に当てはまる先輩の同級生を思い浮かべているのだろう。先輩は胸の前で組んだ腕の片方で顎を触って目線を左に流した。
その仕草さえもセクシーでドキリと胸が跳ねる。

「先輩」
「ん?」
「俺の好きな人は辰巳先輩です」
「……俺……?」

先輩は惚けた声を出しポカンとした表情で俺を見た。
その顔が面白くて、今なら振られても笑っていられるかもしれないと思った。

「先輩、どうやって慰めてくれるんですか?」

俺を振るのは先輩なのに、と笑うと、先輩は途端、難しい顔をして黙り込んでしまった。
その間、俺は少しだけ寒くなってタオルケットを肩からひょいと巻き直した。
冷静になってみれば俺は自分の部屋で、しかも裸で先輩に告白して、そして今から振られるのだ。側から見たら間抜けすぎるだろう。振られても食い下がるつもりだけども。それはそれでさらに滑稽さが増す気がする。

「……正直、俺は今回のことで、本当に律葉のことがそういう意味で好きだったのか分からなくなったんだ」

先輩は静かにそう言った。

「今までの律葉に対する想いが恋愛感情じゃなかったのかと思ったら、俺はそもそもまだ恋愛感情で人を好きになったことがないのかもしれない……と、思う」
「はい」

先輩の、自分の気持ちを整理しながら話している様な話し方に、俺はただ頷いて返事をした。

「だから、お試しじゃダメか」
「え?」

予想外の言葉が聞こえ、顔をあげると先輩は真剣な目で俺を見ていた。

「今はまだ俺は恋愛感情がよく分かっていない。だが、今まで俺と道は、その……セフレだっただろう?」

先輩はセフレという言葉を言いづらそうに言った。

「はい」
「だから。まずはそういったことは抜きにして、真剣にプラトニックに交際を始めてみたい。俺の我がままを許してもらえるなら、そうしたい」

幻聴が聞こえたのだろうか。
俺と交際してくれると言っているように聞こえた。

「道。どうだろうか」
「俺と、付き合ってくれるってこと……?」

恐る恐る尋ねると、先輩は静かに頷いた。

「道が許してくれるなら」
「本当……? 許すも何もないよ。俺、夢みたい。嬉しい」

そう答えると、先輩はホッとしたように肩の力を抜いた。
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