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辰巳サイド 自覚
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辰巳が中学の頃可愛がっていた後輩は、高校になってからセフレになった。
普段辰巳の周りをまとわりついてくるようなタイプとは違い、道はどこか遠慮がちでおとなしい。なので、セフレにして欲しいとどこか必死な様子で頼んできたときには当たり前のことだが、「ああ、道も周りの子と変わらない高校生なんだな」と、思った。
その頃から辰巳は道の友人である律葉のことを好ましく思っていたが、軽い様子でその話を聞き、律葉との橋渡しをしてくれる道の好きな相手が、まさか自分だとは全く思わなかった。
道は辰巳からの告白の返事はNOであると決め付けていた。「先輩、どうやって慰めてくれるんですか? 俺を振るのは先輩なのに」と笑う、その哀れっぽい表情に、辰巳の心臓はツキンと痛んだ。
(今まで道はどんな気持ちで……)
道が辰巳のことを好きだったのだと知ると、辰巳は今までの自分の言動や行動がいかに道を傷つけてきたのかと、自分はどれだけ鈍感なのだと、自責の念に囚われた。
道の告白を断ってはいけないと、いや、断りたくないと辰巳の本能が告げている。
けれど、今まで律葉を好きだと言っていた自分だ。
簡単に意見を変え道と付き合っても良いものなのだろうか。
辰巳は長い葛藤の末、お試しで交際を申し出た。
それは、何も自分のためだけではない。
そもそも、辰巳と今まで交際してきた相手はみんな、イメージと違っただのと言って辰巳の前から去っていった。辰巳を好きだと言う相手は、大体が辰巳のアルファである性別や、実家の裕福さやコンクールで優勝する絵などに興味を惹かれている場合が多い。道もそうだとは思わないが、辰巳自身は人を惹きつけ続けていられるような魅力ある人物ではないというのが、自己評価だ。
お試しで交際している間に、道が辰巳に幻滅する可能性は捨てきれない。
けれど、道がお試しでも良いという返事をしてくれたその日、辰巳はベットの中に潜り込んでから不思議な高揚感に包まれていた。心臓がドキドキと煩く、睡魔は一行に訪れない。
なぜ自分がこんなに興奮しているのか、眠れないおかげで有り余っている時間を使い、辰巳は冷静に考えた。
道と交際すると言うことは、道を思う存分甘やかしても良いと言うことだ。
律葉のことが好きだと思っていたのは、向こうから甘やかしても良いという大義名分を与えてくれるからであって、よくよく過去の自分の考えていたことを思い出してみると、「道もこんな風に甘やかせたら良いのに」という考えばかりだった。
それが何を意味するのかに気がついた時、ぶわわと顔に熱が集まるのを感じた。
「はぁ……。そりゃ、律葉に振られてもショック受けないわけだな」
くくくと、声が漏れる。自分の気持ちにも鈍感だったことに気がつくと、もはや笑うしかなかった。
むしろ律葉に対してとんでもなく失礼な考えを抱いていたのだと気がつき、ショックも受けた。
けれども笑っている場合でもショックを受けている場合でもない。
お試しとはいえ、道と今交際しているわけだ。
そう思えばどんどん目は冴えていき、もはや眠れる気はしなかった。
辰巳は寝ることを諦め、クローゼットを漁った。
「あった」
何かの折に、母親が弁当を持ってきてくれた時の弁当箱だ。
道の胃袋を掴めば、今までの恋人の様に辰巳の前からいなくなる可能性は低くなるかもしれない。
こんな感情になるのは始めてで戸惑ったが、道のことはどうしても逃したくなかった。
律葉のことがあったし、お試し交際を申し出たのも辰巳自身だ。
すぐに好きだと伝えるのはまずいだろう。
じわりじわりと甘やかし、道が辰巳の前から去らないようにしてからじゃないと。
そうして辰巳は弁当箱に詰めるおかずを作りながら、夜を明かした。
普段辰巳の周りをまとわりついてくるようなタイプとは違い、道はどこか遠慮がちでおとなしい。なので、セフレにして欲しいとどこか必死な様子で頼んできたときには当たり前のことだが、「ああ、道も周りの子と変わらない高校生なんだな」と、思った。
その頃から辰巳は道の友人である律葉のことを好ましく思っていたが、軽い様子でその話を聞き、律葉との橋渡しをしてくれる道の好きな相手が、まさか自分だとは全く思わなかった。
道は辰巳からの告白の返事はNOであると決め付けていた。「先輩、どうやって慰めてくれるんですか? 俺を振るのは先輩なのに」と笑う、その哀れっぽい表情に、辰巳の心臓はツキンと痛んだ。
(今まで道はどんな気持ちで……)
道が辰巳のことを好きだったのだと知ると、辰巳は今までの自分の言動や行動がいかに道を傷つけてきたのかと、自分はどれだけ鈍感なのだと、自責の念に囚われた。
道の告白を断ってはいけないと、いや、断りたくないと辰巳の本能が告げている。
けれど、今まで律葉を好きだと言っていた自分だ。
簡単に意見を変え道と付き合っても良いものなのだろうか。
辰巳は長い葛藤の末、お試しで交際を申し出た。
それは、何も自分のためだけではない。
そもそも、辰巳と今まで交際してきた相手はみんな、イメージと違っただのと言って辰巳の前から去っていった。辰巳を好きだと言う相手は、大体が辰巳のアルファである性別や、実家の裕福さやコンクールで優勝する絵などに興味を惹かれている場合が多い。道もそうだとは思わないが、辰巳自身は人を惹きつけ続けていられるような魅力ある人物ではないというのが、自己評価だ。
お試しで交際している間に、道が辰巳に幻滅する可能性は捨てきれない。
けれど、道がお試しでも良いという返事をしてくれたその日、辰巳はベットの中に潜り込んでから不思議な高揚感に包まれていた。心臓がドキドキと煩く、睡魔は一行に訪れない。
なぜ自分がこんなに興奮しているのか、眠れないおかげで有り余っている時間を使い、辰巳は冷静に考えた。
道と交際すると言うことは、道を思う存分甘やかしても良いと言うことだ。
律葉のことが好きだと思っていたのは、向こうから甘やかしても良いという大義名分を与えてくれるからであって、よくよく過去の自分の考えていたことを思い出してみると、「道もこんな風に甘やかせたら良いのに」という考えばかりだった。
それが何を意味するのかに気がついた時、ぶわわと顔に熱が集まるのを感じた。
「はぁ……。そりゃ、律葉に振られてもショック受けないわけだな」
くくくと、声が漏れる。自分の気持ちにも鈍感だったことに気がつくと、もはや笑うしかなかった。
むしろ律葉に対してとんでもなく失礼な考えを抱いていたのだと気がつき、ショックも受けた。
けれども笑っている場合でもショックを受けている場合でもない。
お試しとはいえ、道と今交際しているわけだ。
そう思えばどんどん目は冴えていき、もはや眠れる気はしなかった。
辰巳は寝ることを諦め、クローゼットを漁った。
「あった」
何かの折に、母親が弁当を持ってきてくれた時の弁当箱だ。
道の胃袋を掴めば、今までの恋人の様に辰巳の前からいなくなる可能性は低くなるかもしれない。
こんな感情になるのは始めてで戸惑ったが、道のことはどうしても逃したくなかった。
律葉のことがあったし、お試し交際を申し出たのも辰巳自身だ。
すぐに好きだと伝えるのはまずいだろう。
じわりじわりと甘やかし、道が辰巳の前から去らないようにしてからじゃないと。
そうして辰巳は弁当箱に詰めるおかずを作りながら、夜を明かした。
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