(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

文字の大きさ
13 / 61

俺の部屋

しおりを挟む
「藤井の部屋でする? あ、俺が入るのは嫌か。じゃあ、俺の部屋でいい?」

最近は先輩としていないし、ローションやコンドームは割と残っていたはずだ、と考えながら藤井を見た。

「……お前、なんでそんな平気そうなんだよ」

俺に手を引かれながら、藤井は困惑した声を上げた。

「別に平気ではないよ。でも俺、初めてって訳でもないし、恋人がいる訳でもないし。それなら、今、恋人が居る律葉よりも俺の方が適任だろ?」
「適任って……」

藤井は、一般的な思考からかなり外れていると思ったけれど、そんな相手にドン引きの目を向けられているのが面白くて、ふっと息が漏れた。

「とにかく、俺のことは気にせずに使ってくれて構わないから」
「使う……」

とりあえず今日は行けなくなったと連絡をしなければと、いったん藤井の手を離し、カバンからモバイルバッテリーを取り出して、真っ黒になってしまっているスマホを接続する。しばらく充電しないと電源を入れられないので、それまで律葉を無駄に待たせてしまうが、律葉のストーカーは俺と一緒にいるから大丈夫だろう。

寮について、部屋の鍵を開けて藤井を中に入れた。

「……なんもないんだな」
「え?」
「ベッドと机以外、なんもない」

その言葉で、藤井の言っていることが俺の部屋への感想なのだと気がついた。

「あー。不必要なものは置かないようにしてるだけだよ。クローゼットには絵の道具とか服とか入ってるし」

俺は自分のネクタイに指をかけ、それをスルリと外した。
次にシャツのボタンを外していくけど、手が震えてなかなかうまくいかなかった。

怖いとも、気持ち悪いとも、思う。

過去、俺の双子の兄である十希が吐きながら何度も何度も気持ち悪い、汚いと言っていたのが、今になってやっと本当の意味で分かった気がした。
好意を抱いていない相手とのセックスを目前に控えて思うのは、ただ「気持ちが悪い」という気持ちだけだったからだ。

先輩はどうだったんだろう。気持ち悪かったんだろうか。

その時、ベッド脇に置いたカバンの中からフォンという音と共に、スマホが立ち上がった音が聞こえた。

「ごめん。ちょっと連絡する」
「あぁ、うん」

藤井は雰囲気に飲み込まれたようにただ呆然としていた。
俺は手早く律葉に『やっぱり今日は行けない。ごめん』とLINNを送った。

チラリと見ただけでも緑のアプリのマークの右上には赤丸の中に、すごい数の数字が表示されていた。律葉から来ていたメッセージは全て既読になっただろうが、今は読むことはできない。後はすぐにマナーモードにして、また服を脱ぐのを再開した。
やっとこさ自分のシャツを脱ぎ切って、今度は藤井のシャツに手をかける。
手の震えは抑えられはしなかったけど、なんでもないことのように、淡々と、淡々と進めて行った。

「手、震えてるぞ」

静かな声で指摘された。

「分かってるよ。でも、別に手が震えてたって、セックスくらいできる」
「……そうだな」

ようやくズボンを脱がせにかかって、藤井のがポロンと出てきた。だが、やっぱり俺じゃ簡単にはその気にはならないのだろう。柔らかく、なんの兆しもなかった。

「……藤井は」
「え?」
「藤井は、律葉のどこが好きなの?」
「どこって。可愛いだろ。あんまり話したことないけどさ」
「ふ、はは。話したこと、ないんだ」
「あんまり、な。少しくらいある」
「そっか。でも、失恋しちゃったもんね」
「……」

俺の言葉に、藤井は恨みがましい目で俺を見てきた。それが面白くて、俺はふふっと笑った。

「俺も、失恋したんだ。藤井と一緒だ。辛いよね。俺はね。応援できると思ってたんだ。なんならお膳立てしたのも俺。藤井が失恋したのは、俺にも責任があるってことだよ。藤井の言う通りだ。俺も、応援なんてできない」
「市原、お前……」
「だから、ほら。律葉にぶつけようと思ってたものは、全部俺にぶつけていいよ」

藤井の手を自分の胸にあてがって、そっと微笑めば藤井はゴクリと唾を飲みこみ、俺をそっとベッドに押し倒した。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

俺がモテない理由

秋元智也
BL
平凡な大学生活を送っていた桜井陸。 彼には仲のいい幼馴染の友人がいた。 友人の名は森田誠治という。 周りからもチヤホヤされるほどに顔も良く性格もいい。 困っている人がいると放かってはおけない世話焼きな 性格なのだった。 そんな二人が、いきなり異世界へと来た理由。 それは魔王を倒して欲しいという身勝手な王様の願い だった。 気づいたら異世界に落とされ、帰りかたもわからない という。 勇者となった友人、森田誠治と一緒に旅を続けやっと 終わりを迎えたのだった。 そして長い旅の末、魔王を倒した勇者一行。 途中で仲間になった聖女のレイネ。 戦士のモンド・リオールと共に、ゆっくりとした生活 を続けていたのだった。 そこへ、皇帝からの打診があった。 勇者と皇女の結婚の話だった。 どこに行ってもモテまくる友人に呆れるように陸は離 れようとしたのだったが……。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています ----------------------------------- いつもありがとうございます 追記1:2025/6/12 読み切りのつもりで書いたお話でしたが、もう少し二人の物語を続けていきます。 Ω一年生の凪咲くんと、孝景さんの新生活を第二章ということで よろしくお願いします! 追記2:2025/10/3 おかげさまで二章書き終えました。 二章~ はアルファポリスのみで掲載です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...