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藤井の企み
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テストの結果はまずまずだった。
いつもは赤点ギリギリのところが、平均点を少し下回るくらいになったのだ。
律葉はどうだっただろう。
今回のテストの結果で、律葉が希望している生徒会入りができるのかどうか大きく変わる。
何の気なしに廊下に張り出されている順位表を見た。
ここには50位以内しか出ていないから、当然のごとく俺の名前はない。けれどそこに書かれている名前に俺は衝撃を受けた。
「……律葉……、すごいな」
38位。どうやら律葉は相当頑張ったらしい。
きっと先輩からもたくさん褒めてもらえただろう。
「道」
「っ、律葉」
「道。話したいことがあるんだ。放課後、いつもの自習室に来てくれる?」
「や、俺は」
突然横から律葉に話しかけられ、俺は焦った。
最近はいつも隣に藤井がおり、話しかけてきたりはしなかったから。
ところが、今は藤井はトイレに行っていて俺は1人だった。
「お願い、道。僕、何時になっても待ってるからね」
「っ」
いつもよりも有無を言わせぬ口調で言われ、俺は気がついたら小さくうなずいていた。
律葉は教室に入っていき、俺はその後トイレから戻ってきた藤井と共に教室に戻った。
トイレから戻ってくる際に律葉と話していたところを見ていたらしい藤井が、やたらと何の話をしていたのか聞いてきたけど、俺は、律葉に何を言われるのかが心配で、ただ「なんでもない」としか答えられなかった。
放課後になっても、俺はすぐには自習室に向かえなかった。
教室に座って、1人、また1人と帰っていくのをただぼんやりと見つめた。
律葉はここ最近俺が避けていることについて、何か言ってくるんだろうか。
それとも、先輩と付き合った報告をしてくれるんだろうか。
そうだとしても俺は勝手だから、まだ「おめでとう」と笑える自信がない。
教室に1人もいなくなり、俺はやっと重い腰を上げた。
自習室に向かう途中、校舎の端にあるトイレから出てくる藤井が見えた。
「あれ。いつも放課後は忙しいって言ってたのに」
藤井はそのままコソコソと階段を下っていく。
自習室に向かう道すがらだったので、様子がおかしい藤井の後を追いかける形で歩くことになった。
そして、遠くからだが下駄箱のあたりで藤井がコソコソと手に持ったものを下駄箱に突っ込んでいるところが見えた。
なんだか信じたくないような嫌な予感がして、俺は廊下の脇に避け、そこからこっそり下駄箱に近づいた。
バレないように近づいてみると、藤井は手に持ったものを顔に近づけていた。
体が小刻みに揺れ、荒い息遣いも聞こえる。
「っ」
何をしているのかが分かってしまった俺は思わず声を漏らしてしまった。
「誰だ」
藤井は特に慌てるでもなくそう言った。
「……藤井……。何を、してるの」
「はは。なんだ。市原か」
いつもと同じ、なんでもない顔をして俺の名を呼んだ。
「なんで、なんでそんな普通にできるんだよ。それ、律葉の靴だろ……? なんで嗅いで……。それにその下駄箱に入ってるの……」
「ああ、俺の精液だ。あーあ。でも、バレちゃったかぁ」
気持ちが悪い。
吐き気がする。
目の前の藤井という存在がおぞましく感じて、俺の体は俺の意思と反してブルブルと震えた。
「なんで……」
「なんでって、そりゃあ、律葉のことが好きだから。マーキングっていうか。そんな感じだよ」
「それじゃ……、律葉のストーカーは藤井だったの……?」
俺の質問に、藤井は「くくく」と喉を鳴らした。
「ストーカー? 何それ。そんな訳ないだろ? 俺は、ただ純粋に律葉のことが好きなだけだよ。風紀委員長なんかよりも俺の方が律葉を愛してるから、律葉もきっと俺の気持ちを喜ぶよ。それに、今日はテストで良い成績を取れた律葉にご褒美でこの後下駄箱で待ち伏せして、犯してあげようと思ってたんだよ」
「……な、にそれ。だって、律葉の幸せを願うって。そう言ってたじゃん。俺、それ聞いて、藤井って好きな人の幸せを願える良い奴だって思ってたのに」
こんな奴と、俺はずっと仲良くしていたというのか。
こいつのせいで、律葉はあんなに怯えていたというのか。
「好きな奴の自分以外との幸せを願う訳ないだろ? ポヤッと生きるのも大概にしろよ」
「そんな……。でも、だって……律葉はだめだ。律葉は、だめだ」
「あっはは。なんだそれ。あー、じゃあいいや、今日は市原が律葉の代わりに抱かせてくれない?」
「は……。俺……?」
戸惑いながら尋ねると、藤井は面白そうに笑った。
「やっぱり。どうせお前だって、自分代わりに差し出してまで助ける気はないんだろ? 結局親友より自分の体の方が大事だろ? 俺と変わらないじゃないか」
嘲笑うかのようなその声に、俺は言葉の意味をやっと理解した。
「俺、俺で代わりになんの……? ほんとに……?」
「は?」
藤井は訝し気に俺を見た。
「俺なんかで代わりになるんだったら、いいよ。しようよ」
律葉は綺麗だけど、俺は元々汚れてるんだ。
今更経験人数が1人増えたところで何も変わりはしない。
律葉の下駄箱からティッシュを回収して、俺は藤井の手を取った。
いつもは赤点ギリギリのところが、平均点を少し下回るくらいになったのだ。
律葉はどうだっただろう。
今回のテストの結果で、律葉が希望している生徒会入りができるのかどうか大きく変わる。
何の気なしに廊下に張り出されている順位表を見た。
ここには50位以内しか出ていないから、当然のごとく俺の名前はない。けれどそこに書かれている名前に俺は衝撃を受けた。
「……律葉……、すごいな」
38位。どうやら律葉は相当頑張ったらしい。
きっと先輩からもたくさん褒めてもらえただろう。
「道」
「っ、律葉」
「道。話したいことがあるんだ。放課後、いつもの自習室に来てくれる?」
「や、俺は」
突然横から律葉に話しかけられ、俺は焦った。
最近はいつも隣に藤井がおり、話しかけてきたりはしなかったから。
ところが、今は藤井はトイレに行っていて俺は1人だった。
「お願い、道。僕、何時になっても待ってるからね」
「っ」
いつもよりも有無を言わせぬ口調で言われ、俺は気がついたら小さくうなずいていた。
律葉は教室に入っていき、俺はその後トイレから戻ってきた藤井と共に教室に戻った。
トイレから戻ってくる際に律葉と話していたところを見ていたらしい藤井が、やたらと何の話をしていたのか聞いてきたけど、俺は、律葉に何を言われるのかが心配で、ただ「なんでもない」としか答えられなかった。
放課後になっても、俺はすぐには自習室に向かえなかった。
教室に座って、1人、また1人と帰っていくのをただぼんやりと見つめた。
律葉はここ最近俺が避けていることについて、何か言ってくるんだろうか。
それとも、先輩と付き合った報告をしてくれるんだろうか。
そうだとしても俺は勝手だから、まだ「おめでとう」と笑える自信がない。
教室に1人もいなくなり、俺はやっと重い腰を上げた。
自習室に向かう途中、校舎の端にあるトイレから出てくる藤井が見えた。
「あれ。いつも放課後は忙しいって言ってたのに」
藤井はそのままコソコソと階段を下っていく。
自習室に向かう道すがらだったので、様子がおかしい藤井の後を追いかける形で歩くことになった。
そして、遠くからだが下駄箱のあたりで藤井がコソコソと手に持ったものを下駄箱に突っ込んでいるところが見えた。
なんだか信じたくないような嫌な予感がして、俺は廊下の脇に避け、そこからこっそり下駄箱に近づいた。
バレないように近づいてみると、藤井は手に持ったものを顔に近づけていた。
体が小刻みに揺れ、荒い息遣いも聞こえる。
「っ」
何をしているのかが分かってしまった俺は思わず声を漏らしてしまった。
「誰だ」
藤井は特に慌てるでもなくそう言った。
「……藤井……。何を、してるの」
「はは。なんだ。市原か」
いつもと同じ、なんでもない顔をして俺の名を呼んだ。
「なんで、なんでそんな普通にできるんだよ。それ、律葉の靴だろ……? なんで嗅いで……。それにその下駄箱に入ってるの……」
「ああ、俺の精液だ。あーあ。でも、バレちゃったかぁ」
気持ちが悪い。
吐き気がする。
目の前の藤井という存在がおぞましく感じて、俺の体は俺の意思と反してブルブルと震えた。
「なんで……」
「なんでって、そりゃあ、律葉のことが好きだから。マーキングっていうか。そんな感じだよ」
「それじゃ……、律葉のストーカーは藤井だったの……?」
俺の質問に、藤井は「くくく」と喉を鳴らした。
「ストーカー? 何それ。そんな訳ないだろ? 俺は、ただ純粋に律葉のことが好きなだけだよ。風紀委員長なんかよりも俺の方が律葉を愛してるから、律葉もきっと俺の気持ちを喜ぶよ。それに、今日はテストで良い成績を取れた律葉にご褒美でこの後下駄箱で待ち伏せして、犯してあげようと思ってたんだよ」
「……な、にそれ。だって、律葉の幸せを願うって。そう言ってたじゃん。俺、それ聞いて、藤井って好きな人の幸せを願える良い奴だって思ってたのに」
こんな奴と、俺はずっと仲良くしていたというのか。
こいつのせいで、律葉はあんなに怯えていたというのか。
「好きな奴の自分以外との幸せを願う訳ないだろ? ポヤッと生きるのも大概にしろよ」
「そんな……。でも、だって……律葉はだめだ。律葉は、だめだ」
「あっはは。なんだそれ。あー、じゃあいいや、今日は市原が律葉の代わりに抱かせてくれない?」
「は……。俺……?」
戸惑いながら尋ねると、藤井は面白そうに笑った。
「やっぱり。どうせお前だって、自分代わりに差し出してまで助ける気はないんだろ? 結局親友より自分の体の方が大事だろ? 俺と変わらないじゃないか」
嘲笑うかのようなその声に、俺は言葉の意味をやっと理解した。
「俺、俺で代わりになんの……? ほんとに……?」
「は?」
藤井は訝し気に俺を見た。
「俺なんかで代わりになるんだったら、いいよ。しようよ」
律葉は綺麗だけど、俺は元々汚れてるんだ。
今更経験人数が1人増えたところで何も変わりはしない。
律葉の下駄箱からティッシュを回収して、俺は藤井の手を取った。
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