(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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事情聴取

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ピンポーン

部屋のチャイムの音が響いた。

「……誰か来たぞ」

声を潜めた藤井が俺の体に手を這わせながらそう言った。

「大丈夫。静かにしていれば居留守だとは思われないよ」

そう返したけれど、その間もピンポンピンポンとチャイムが続いた。
寮の部屋はどこも防音だし、今は電気もつけていないから不在だと思って諦めるだろう。
それに俺の部屋を訪ねてくる人なんてほとんどいない。
今まで仲良くしていた友人は律葉くらいだし、最近仲良くなったと思っていた藤井はここにいる。

「チャイム、続いてる。何か急ぎの用じゃないのか」
「もしかしたら、律葉かも。今日律葉と話す約束してたから」
「律葉」

藤井の目が一瞬ギラリと光った。俺はそんな藤井の頬をそっと触って俺と目を合わさせた。

「俺を代わりにするんだろ。な? もう今更お前も俺も失恋したことは変わらないんだから」
「……そう、だな」

藤井は小さく頷いた。
俺たちは傷を舐め合って、この失恋を忘れられるだろうか。
俺は別に先輩とじゃなくたって、セックスくらいできる。
それが証明できたら、この気持ちも捨てられるだろうか。

「俺を代わりにしたら、ちゃんと律葉のこと諦めて、律葉が怯えるようなことをするのはやめろよ」

そんな風に俺は律葉を想ってやっているみたいに言って、結局は自分のことばかり考えている。

「……ああ、分かったよ」
「ん……」

藤井は気を取り直したのか、俺の肩口にキスを落とし、その唇はそのまま首筋まで上がってきた。体は勝手に拒否反応を示し、鳥肌が立っていく。藤井に触られて、父や兄に触られていた記憶が、否が応でも思い出されてしまう。

「ちっ。少しくらい気持ちよさそうにしろよ。失礼な奴だな」
「んん、ごめん。でも、も……、大丈夫だから、入れて」

いつのまにか鳴り響いていたチャイムは止まった。
けれど、次の瞬間ガチャと鍵の開く音がした。

「っ?!」

勝手に鍵が開いた音に、俺も藤井も息を飲みピタリと動きを止めた。

トントントンと廊下を歩く音が聞こえ、

「道」

低い声が俺を呼ぶ。

「……先輩……? なんで」

ドアを開いて入ってきたのは、律葉ではなく辰巳先輩だった。

「道、何をしている?」

先輩は何の感情もないような瞳で首を傾げた。
その姿に、ツキリと胸が痛む。先輩にとって俺はただのセフレなのだと、だから、俺が他の人としていても先輩には何の感情も起きない。そんな分かりきったことを、ただ思い知らされて、また勝手に傷ついたのだ。

「どういう状況なのか説明してもらえるか?」

尚も冷静な声でそう言う先輩に、俺は自嘲気味に笑った。

「俺が何してようと、先輩には関係ないでしょ」
「なに」
「というか、どうやって入ってきたんですか。なんで鍵開けられるんですか」
「お前が律葉のストーカーと寮の中に消えていったと報告を受けたからな」

冷え切った声だ。

「ストーカー……」

藤井のやっていたことはバレていたのか。
恋人のストーカーがここにいるから。だから、先輩はここにいるんだな、とどこか他人事のようにそう思った。

藤井を見ると、青い顔をして固まっている。

「来い」
「え、ちょっと」

先輩はベッドの端に丸まっていたタオルケットで俺を巻き、軽々と持ち上げてしまった。

「入っていいぞ」

俺を抱き抱えたままの先輩が開け放たれたドアの方に向かってそう言うと、生徒会や風紀委員のメンバーがゾロゾロと入ってきて、青ざめたまま無抵抗でいる藤井を拘束し、連れていってしまった。

途端、静かになった部屋でポツンと2人だけになって、俺が居心地の悪さにモゾリと動くと先輩はベッドの上に俺をそっと下ろしてくれた。

「さて。何があったのか聞かせてもらえるか?」

先輩は冷たい表情で、けれど俺が話しやすいようになのか、ベッドに座る俺の前に膝を突き、目線を合わせてきた。
もちろん、先輩としては大事な恋人のストーカーである藤井と俺がセックスをしようとしていたところを見てしまった訳だから、事情聴取が必要だろう。
場合によっては、俺にも何らかの処分を下さないといけないだろうから。

「道。話せることだけで良い」

先輩の声からは何の感情も読み取れない。
俺は諦めて小さく息を吐いた。

「俺は……。ただ、セックスしようとしただけだよ。何かあったとかそんなんじゃない。藤井が律葉を好きだって知って、でも律葉は先輩と付き合い始めたから。じゃあ、俺と発散すれば? って。ただ、それだけ」

先輩は俺の話を聞いて、ギリと歯を噛み締めた。

「お前は、誰とでもしてるのか」
「そうだよ……。先輩とも良いけど、先輩恋人できちゃったし」

嘘だ。結局俺の体は、先輩とじゃないと拒否していた。
けれどもう先輩にどう思われたって構わないと思った。

「藤井の他に何人いる?」
「え?」
「お前の相手だ。お前は藤井としようとしていた様なことを、あと何人としていると聞いているんだ」

その質問に俺は笑った。

「あっはは。それこそ、先輩には関係ない話だよ。俺が、誰と何をしようが先輩に報告する義務なんてない」
「関係ないなんてことはないだろう。お前は俺の大事な後輩だし、俺は学校の風紀を守る風紀委員でもある」

先輩の一言一言が俺の心臓をえぐった。
特別な、と言ってくれるのなら、後輩じゃない方がよかった。なんて、無理な願いだって分かってるけど。

「俺とセフレしてた先輩がそんなこと言うんだ」

違う。こんなことを言いたいわけではない。先輩は、あの手この手で誘った俺に、乗ってくれただけだ。こんな風に言うのは間違っているのは分かっているけど、それでもそう言ってしまった。

もう、先輩とは触れ合えないんだなと思うと、涙が出そうになった。

一刻も早くここから逃げ出したいのに、タオルケットに包まれているだけの俺の体は裸なので逃げ出せないし、そもそもここは俺の部屋なので逃げ場がなかった。

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