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俺を救ってくれた人
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病院でいろいろな検査をされた結果、俺はオメガであることが分かった。
父や兄はアルファで、その影響もあってあんなことになったのだろうと言われた。
オメガは男女問わず孕むことができ、そのフェロモンでアルファを誘惑するのだと教えられた。
二卵性双生児の十希は、ベータだったらしい。
不思議なことに、それまで被害者として気を遣われて、かわいそうにという目で俺を見て来た人たちも、俺がオメガだったことが分かると、「だったら君が悪いね」と掌を返してきた。
自分がオメガだったと知ってから、初めて知ったけれど、政治家や国の上層部というのは昔からアルファばかりで、法律などもアルファに優しいらしい。
現に、父も兄も数週間で釈放され、彼らを知る人たちは、むしろ2人に対して同情的で「大変だったね」「ひどい目にあったね」などと声をかけるのだ。
大体の人は俺を遠巻きに見るだけだったけれど、俺が加害者であるかのように、直接暴言を吐かれることもあった。善意の顔で父や兄に謝れと諭されることすらあった。
俺は、人の目が怖くなった。
病院内でも、みんな俺を見てヒソヒソと話しているように感じて、頭がおかしくなりそうだった。
あの絵に出会ったのはそんな時だった。
小児科のロビーに飾られた大きな大きな絵。
当時の俺が両手を広げた長さの3倍ほどのその絵は、美しい女性に光が降り注いでいる姿が描かれていた。
まるで全てを許して、慈しんでくれそうな優しい微笑み。
悲しみや辛さや、俺の汚さも、全て溶かしてくれそうな優しい光。
「どうして泣いてるんだ?」
「っ」
突然話しかけて来たのは、俺より少し年上くらいの男の子だった。
あの絵の中の女性のような雰囲気のある天使のような見た目のキラキラした子だった。
何も答えない俺に気を悪くした風もなく、少年は絵を見上げた。
「この絵は、俺が描いたんだ」
「えっ」
こんな自分と対して変わらなそうな子が? びっくりしすぎて彼を見ると、彼はニコっと笑ってくれた。
「良いできだろう? この絵を見て泣いてる人を見るのは初めてだけど」
「ぁ、ごめ」
「人の心を動かせる絵が、俺の目指すところだよ。君の何かに響いたのなら俺は嬉しい。描いて良かったって思えるよ。ありがとう」
「っ」
荒んだ心に突然、「ありがとう」の言葉が染み込んだ。
俺は、ただ、彼の描いた絵を見ていただけなのに、彼に「ありがとう」と言ってもらえることなんて1つもしてないのに。
こんな素敵な絵を描いた人に、描いてよかったって思ってもらえたんだと思うと、なんだか、自分自身の存在を肯定してもらえたみたいで嬉しかった。
「こちらこそ、ありがとう……」
泣きそうになるのを抑えて絞り出すようにそう言うと、彼はにっこり笑って、ポケットからメモ帳を取り出して、そこにサラサラと絵を描いてくれた。その絵を覗き込むと数匹の猫が描かれていた。
「かわいい」
思わず呟くと「だろう?」
そう言って、描いたメモ帳をビリリと外して、「ん」と渡してくれた。
「それ、あげるよ。俺の絵の大ファン1号の君に」
「俺に……。俺が、もらってもいいの?」
そう言いつつも、返さないとばかりに胸に押し抱いてしまい胸の中でクシャと紙が歪んだ音がした。
「もちろん。早く元気になるといいね」
事情が事情だからか、病院にいるというのに「お大事に」の一言も、誰からも言われていないことに、その時初めて気がついた。
「ありがとう」
勝手に口角が上がる。
それはおそらく、父に無理やり抱かれた日から、初めて笑顔になれた日だった。
それから何度か病院に通ったけれど、彼とは会うことはなかった。
だから中学校で彼を見たときは本当にびっくりした。
辰巳良英さん。やっと名前を知れた。俺の人生を救ってくれた人。
父や兄はアルファで、その影響もあってあんなことになったのだろうと言われた。
オメガは男女問わず孕むことができ、そのフェロモンでアルファを誘惑するのだと教えられた。
二卵性双生児の十希は、ベータだったらしい。
不思議なことに、それまで被害者として気を遣われて、かわいそうにという目で俺を見て来た人たちも、俺がオメガだったことが分かると、「だったら君が悪いね」と掌を返してきた。
自分がオメガだったと知ってから、初めて知ったけれど、政治家や国の上層部というのは昔からアルファばかりで、法律などもアルファに優しいらしい。
現に、父も兄も数週間で釈放され、彼らを知る人たちは、むしろ2人に対して同情的で「大変だったね」「ひどい目にあったね」などと声をかけるのだ。
大体の人は俺を遠巻きに見るだけだったけれど、俺が加害者であるかのように、直接暴言を吐かれることもあった。善意の顔で父や兄に謝れと諭されることすらあった。
俺は、人の目が怖くなった。
病院内でも、みんな俺を見てヒソヒソと話しているように感じて、頭がおかしくなりそうだった。
あの絵に出会ったのはそんな時だった。
小児科のロビーに飾られた大きな大きな絵。
当時の俺が両手を広げた長さの3倍ほどのその絵は、美しい女性に光が降り注いでいる姿が描かれていた。
まるで全てを許して、慈しんでくれそうな優しい微笑み。
悲しみや辛さや、俺の汚さも、全て溶かしてくれそうな優しい光。
「どうして泣いてるんだ?」
「っ」
突然話しかけて来たのは、俺より少し年上くらいの男の子だった。
あの絵の中の女性のような雰囲気のある天使のような見た目のキラキラした子だった。
何も答えない俺に気を悪くした風もなく、少年は絵を見上げた。
「この絵は、俺が描いたんだ」
「えっ」
こんな自分と対して変わらなそうな子が? びっくりしすぎて彼を見ると、彼はニコっと笑ってくれた。
「良いできだろう? この絵を見て泣いてる人を見るのは初めてだけど」
「ぁ、ごめ」
「人の心を動かせる絵が、俺の目指すところだよ。君の何かに響いたのなら俺は嬉しい。描いて良かったって思えるよ。ありがとう」
「っ」
荒んだ心に突然、「ありがとう」の言葉が染み込んだ。
俺は、ただ、彼の描いた絵を見ていただけなのに、彼に「ありがとう」と言ってもらえることなんて1つもしてないのに。
こんな素敵な絵を描いた人に、描いてよかったって思ってもらえたんだと思うと、なんだか、自分自身の存在を肯定してもらえたみたいで嬉しかった。
「こちらこそ、ありがとう……」
泣きそうになるのを抑えて絞り出すようにそう言うと、彼はにっこり笑って、ポケットからメモ帳を取り出して、そこにサラサラと絵を描いてくれた。その絵を覗き込むと数匹の猫が描かれていた。
「かわいい」
思わず呟くと「だろう?」
そう言って、描いたメモ帳をビリリと外して、「ん」と渡してくれた。
「それ、あげるよ。俺の絵の大ファン1号の君に」
「俺に……。俺が、もらってもいいの?」
そう言いつつも、返さないとばかりに胸に押し抱いてしまい胸の中でクシャと紙が歪んだ音がした。
「もちろん。早く元気になるといいね」
事情が事情だからか、病院にいるというのに「お大事に」の一言も、誰からも言われていないことに、その時初めて気がついた。
「ありがとう」
勝手に口角が上がる。
それはおそらく、父に無理やり抱かれた日から、初めて笑顔になれた日だった。
それから何度か病院に通ったけれど、彼とは会うことはなかった。
だから中学校で彼を見たときは本当にびっくりした。
辰巳良英さん。やっと名前を知れた。俺の人生を救ってくれた人。
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