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最終章

第52話『あおいの家でお泊まり』

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 夕食を食べ、自分の部屋であおいの家に泊まるための荷物を用意する。
 荷物を纏めた大きめのトートバッグを持って、家を出発する。行き先のあおいの家は隣だから、10秒もしないうちに到着した。
 再会してから、あおいの家に行くことは何度もあったけど、お泊まりで行くのはこれが初めてだ。だから緊張する。少し震えた指で、あおいの家のインターホンを押した。

 ――ピンポー。
『はいっ!』

 インターホンの音が鳴り終わる前に、スピーカーからあおいの声が聞こえた。さっき、LIMEで『今から行く』とメッセージを送ったし、モニターの前で待ち構えていたのだろう。

「涼我です。来たよ」
『お待ちしていました! すぐに行きますね!』

 プツッ、と通話を切る音が聞こえた。
 急いでここに来てくれているのだろうか。家の中から足音が聞こえてくる。それだけでも微笑ましい気持ちになる。
 足音が聞こえてすぐ、玄関が開いた。すると、そこにはあおいの姿が。あおいと目が合うと、あおいはとても嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

「涼我君、こんばんは!」
「こんばんは、あおい。お互いに許可をもらえて良かった」
「そうですね! お母さんもお父さんも『涼我君ならOK!』と二つ返事で許可してくれました」
「そうだったのか。良かった」

 告白の返事待ちという状況だけど、すぐに許可を出してくれたのは、家族ぐるみの付き合いがあったり、愛実と3人一緒に泊まったことがあったりするからだろう。
 あおいが楽しむのはもちろん、御両親が許可を出して大丈夫だったと思えるように過ごさないとな。

「さあ、どうぞ」
「うん。お邪魔します」

 俺はあおいの家の中に入る。
 これから一晩お世話になるので、あおいの御両親に挨拶することに。あおいと一緒に、御両親のいるリビングへ行く。

「あら、涼我君! こんばんは!」
「こんばんは、涼我君」
「こんばんは、麻美さん、さとるさん。今夜はお世話になります。急だったのに、泊まるのを許可していただきありがとうございます」
「涼我君ならいつでもかまわないさ。それに、あおいがとても嬉しそうにお泊まりのことを話すから、父さんも嬉しくなってね。涼我君、ゆっくり過ごしなさい」
「ゆっくりしていってね。涼我君が泊まりに来るなんて幼稚園以来だから嬉しいわ! 気持ちが若返るわ~!」

 聡さんも麻美さんも笑顔でそう言ってくださった。麻美さんはテンション高めで。小さい頃も、今のように家族みんなで笑顔で迎え入れてくれたっけ。高校生になった今でも、俺が泊まりに来ることが嬉しいと言ってもらえて嬉しい。

「ありがとうございます。お世話になります」
「涼我君、私の部屋に行きましょうか」
「ああ。……失礼します」

 あおいと一緒にリビングを後にして、俺は2階にあるあおいの部屋に向かう。
 どうぞ、とあおいの部屋に通される。この部屋にもたくさん来たけど、夜に来ることやお泊まり目的で来ることは初めてなので、普段とは少し違った雰囲気に感じて。あおいの甘い匂いがほのかに感じられることにドキッとする。
 あと、普段と違って、ベッドには枕が2つ置かれている。俺と一緒にベッドで寝るつもりなのかな。

「荷物は端の方にでも置いてください」
「分かった」

 俺はトートバッグをベッド近くの壁側に置く。

「あの、涼我君。夕食は食べてきたんですよね」
「ああ、食べてきたぞ」
「お風呂は入りましたか?」
「まだ入ってない」
「そうですか。では、お風呂をどうぞ。お風呂はさっき湧きましたので一番風呂ですよ」
「いいのか? あおいが先でかまわないぞ。俺はバイトがある日を中心に、最後に入ることが多いし」
「私もバイトがある日は最後のことが多いですし、二番目以降で全然かまいませんよ。それに、涼我君はお客さんでもありますから」

 あおいは優しい笑顔でそう言ってくれる。あおいが順番に拘らないなら、俺が最初に入るか。

「分かった。ご厚意に甘えて、一番風呂を入らせてもらうよ」
「分かりました!」

 俺が提案を受け入れたからか、あおいは凄く嬉しそうだ。
 あおいは俺のことが好きだし、プールデートでは水着姿で何時間も一緒にいたし、あおいからお泊まりに誘ったから「一緒にお風呂に入りませんか?」と提案されるかと思ったけど、そんなことはなかったか。プールデートのとき、水着姿でもじっと見られると恥ずかしいと言っていたもんな。

「昔の家ではありませんし、涼我君はこの家のお風呂に入るのは初めてですから、浴室の中のことを教えますね」
「ああ。ありがとう」

 俺はトートバッグから、着替えやタオルなど入浴に必要なものが入っている袋を取り出す。それを持って、あおいと一緒に部屋を後にする。
 階段を下りて、浴室に繋がる洗面所に入ろうとしたとき、キッチンから麻美さんが姿を現す。

「あら。2人で一緒にお風呂に入るの?」
「ち、違いますっ」

 あおいは語気を強めて否定する。あおいの頬がほんのりと赤くなっていて。
 まあ、浴室に繋がる洗面所に一緒に入ろうとしていたら、あおいと俺が一緒に入浴しようとしていると考えてもおかしくはないかな。あおいは俺が好きだし、幼稚園時代のお泊まりでは一緒に入っていたから。

「これから涼我君がお風呂に入りますから、浴室の中の説明をしようと思いまして」
「なるほどね。……あっ、昔みたいにあたしと一緒に入る? それであたしが涼我君にシャワーとか蛇口とかの説明をするわっ」

 結構楽しげな様子でそんな提案をしてくる麻美さん。まさか、麻美さんが一緒に入ろうと誘ってくるとは。さっき、気持ちが若返ると言っていたけど、男子高校生と一緒に入りたいほどになってしまうんですか。

「な、何を言っているんですか、お母さんっ! 昔は幼稚園に通う年齢でしたから、私と涼我君と3人で入りましたけど、今は男子高校生なんですよ! 昔と違って、全身に筋肉が程良くついている均整の取れた立派な男性の体になっているんですから!」

 あおいは怒りながら麻美さんに言う。あおいから断ってくれるのは嬉しいけど、現在の俺の体の説明をされるとちょっと恥ずかしいです。

「俺も高校生ですからね。一人で入ります」

 俺からも断っておいた。麻美さんは10年前と変わらぬ美人さと、結構いいスタイルの持ち主。幼馴染の母親だけど、事と次第によっては理性が吹っ飛びかねない。

「ふふっ、冗談よ」

 麻美さんは笑顔でそう言う。冗談の割には、一緒に入ろうと提案してきたときは結構楽しそうに見えたけど。
 その後、あおいから浴室の中について説明してもらった。

「では、ゆっくり入ってきてください。お風呂から出たら、私に言ってください。部屋にいますから」
「分かった」

 あおいが洗面所から出て行ったので、俺は扉を閉めて鍵を施錠する。
 衣服を全て脱いで、タオルやボディータオルなど必要なものを持って、俺は浴室の中に入る。
 この家のお風呂は初めてだし、幼稚園の頃のお泊まりではあおいや麻美さんと一緒に入っていたから、とても新鮮な気分だ。あと、あおいがここに引っ越してきてから、普段はこの浴室で入浴していると思うと……ドキドキするな。

「さっさと洗って、湯船にゆっくり浸かるか」

 プールでたっぷり遊んで、疲れがあるからな。
 俺はバスチェアに座って、髪、顔、体の順番に洗っていく。
 髪と顔はうちから持参したシャンプーや洗顔料を使って洗う。ただ、体についてはうちで使っているボディーソープと同じシリーズなので、ここにあるものを使わせてもらうことに。うちではシトラスの香りだけど、ここにあるのはローズの香り。ローズのほんのりと甘い香りが心地いい。普段と違う香りを感じると、お泊まりに来たって感じがするな。
 髪、顔、体を全て洗い終わったので、湯船に浸かることに。

「あぁ……気持ちいいな」

 お湯の温もりが体の芯まで優しく染み渡っていく。湯船の広さはうちのあまり変わりないので、ゆったりとした体勢で入ることができる。それを含めてとても気持ちがいい。ゆっくりと浸かれば、プールで遊んだ疲れが取れそうだ。

「あおいの家のお風呂に入る日が来るとはな……」

 春休みにあおいがこの家に引っ越してきて、ゴールデンウィークには愛実と3人で俺の家でお泊まりした。それでも、あおいの家に泊まって、お風呂に入ることは全然想像できなかったな。何だか感慨深くなるのであった。
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