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03.
02.束の間の
しおりを挟む心地よい室温と、人肌の温かさで目が覚める。
こんな穏やかな朝、いつぶりだろう。
石橋くんはまだ寝ている。
いつも頼りになるお兄さんみたいな感じなのに、
寝顔は子供みたいだ。
「可愛いね…」
私を抱える腕をそっと下ろして、
起こさないように起き上がる。
私の携帯もちゃんと充電してくれている。
ちゃんとしてるんだよな、石橋くんって。
行き当たりばったりの私と違って。
檜垣さんからの連絡は1件だけ。
"ちゃんと謝れたら許してあげるよ、
だから帰っておいで"
「どうしてこんなに偉そうなんだろう…」
今日は、どこに行こうかな。
枕元に書き置きと、宿泊代を置いて
音を立てないように家を出る。
ふと、大学生の時に住んでいたところとか、
大学の近くに行ってみたくなって、電車を調べる。
直線距離はそう遠くないのに、遠いんだよなあ、
ここから。
もう友達も、色んな所に引っ越したし、
よく考えたら行く意味なんてなかったので、
それはやめた。
昨日の仕事着のままじゃ、行くところは限られる。
どこ行こう。
ふらふらと駅に向かっていると携帯が鳴る。
「もしもし?」
「緋莉さん、起きたなら言うてよ、今どこおんの?」
少し眠そうな掠れた低い声。
「もう大丈夫、ありがとね昨日は」
携帯越しに溜息が聞こえてくる。
「いつも勝手なんやから…
僕の言うこともたまには聞いてよ」
「檜垣さんみたいなこと言わないでよ」
いくら石橋くんでも、
誰かに上から目線で何か言われるのは
もう飽き飽きしていた。
「えっ、あ…ごめんなさい」
そうやってたじろぐところもからかいがいがある。
「嘘、今駅」
「…僕ん家いたらまた見つかるかな」
足音と、アウターを羽織る音、鍵を取る音がする。
「いや、もういいよ、
向こうもさすがに愛想尽かしたんじゃないかな」
冷たい空気が私の頬を掠め、
木と乾いた土の香りが鼻をくすぐる。
鬱陶しい長い夏がいつの間にか突然終わり、
秋が深まってきた。
「じゃあ迎えに行くから、待ってて」
そう言われて、駅前のベンチに腰掛けて
石橋くんが来るのを待った。
視界に見覚えのあるスニーカーと
あったかいお茶のペットボトルが映る。
「こんな世話の焼ける先輩おらんって」
「へへ」
顔を上げると、
目を細めて不機嫌な顔でしらっと私を見て
私の隣に座る。
どっちも過保護にはかわりないが、
石橋くんのそれは、優しくて甘くてくすぐったい。
私の好きなお茶を持たせて、
人目を憚らず私を抱き締める。
「はあ……もう心配したわほんま」
「ふふ」
「笑い事ちゃいますよ」
背中をさするともう一回、
気の抜けたような溜息をつく。
「…散歩して帰ります?」
「朝ごはんも食べたい」
スッと立ち上がって、ポケットに手を入れて
私に、行きますよと促す。
手を繋ぎたくなる衝動を抑えて後ろ手を組みながら
石橋くんの横を歩いた。
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