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03.
03.決別
しおりを挟む「ちょっと遠いけど、
美味しいパン屋さんあるんですよ」
「いいね」
私、今幸せだ。
いつも通りの街なのに、
なんだか石橋くんと2人だけの世界みたいだ。
歩いている途中に、大きめの川があった。
高い橋が架けられていて、
落ちたら怪我しそうなくらいの、下手したら
吸い込まれてしまいそうな……
「早く離婚したいなー」
私が足を止めて欄干に肘をつくと、
石橋くんも足を止める。
「ここから突き落としてやりたいよ」
「逆に突き落とされそうやし、もし落ちても
這い上がって追いかけてきそうですけど」
「いやめちゃくちゃ想像ついたやめて」
そう笑って返すが、私の心中は穏やかではなかった。
目を逸らしているだけで、
根本的にはなにも解決していないじゃないか。
まだ首から外せないでいた、結婚指輪という名の
特級呪物を、チェーンごと引きちぎる。
「えっそれ」
「高いやつだから勿体無いけど、こんなの売れないし」
思いっきり振りかぶって川に向かって投げ捨てる。
「ちょっ、あ!もったいな!売れるって!」
落ちていくそれを、
欄干から身を乗り出して目で追う。
「不法投棄だめやないですか、
勢いの割に全然飛んでへんし」
「バカにすんな?」
石橋くんほど、私にとって居心地のいい人はいない。
ちゃんと他の人に気を遣えるし
気負わない加減をするのが上手いと思う。
いつも安心できる。
「どれが好きなの?」
「これとこれ、オススメ」
「全部おいしそ~」
どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。
いや、自分の気持ちに蓋をして
気づかないふりをしていただけかもしれない。
私、石橋くんが好きなんだ。
ずっと一緒にいたい。
「僕決めました、緋莉さんのこと幸せにするって」
「えっ」
「入社してから、ずーっと毎日
一緒におったんですよ、僕が誰よりも
一番緋莉さんのええとこ知ってますもん」
まっすぐな気持ちが、言葉が突き刺さる。
「仕事してる時は頼りになるし、
みんなで旅行行ったりどっか遊び行ったりして
楽しそうにしてる緋莉さんも好きやし」
前はよく何人かで集まって、ドライブとか遊園地とか
お祭りとかも行ってたな。
私のこと、どう思ってるかなんて知らなかったけど
同じチームだし、大体いつも私のいるところには
石橋くんもいたなあ、なんて。
「緋莉さん、僕にずっと冷たかったから
元気無くても声掛けられへんかったんですけど、
あん時声掛けてほんまに良かったと思ってる」
1年目、私しか年が近い人がチームにいなくて
同期ともまだ距離があって、私とずっと一緒にいた。
2年目頃から他のチームの人達とも仲良くなって、
仕事にも慣れてきて、可愛くないなって思い始めて
あんまり石橋くんのこと、気にかけなくなっていた。
みんなと楽しそうにしてるのが、
私は正直面白くなかった。
「緋莉さんが、僕とおる時に
嬉しそうな顔してくれるの
幸せやなって思うんですよ」
今、それが何だったのか、漸く分かった。
「なんでそんなお人好しなわけ?」
「…なんでやろ」
独占欲だったんだな。
私最悪な先輩じゃん。
「緋莉さん、あいつと別れて…僕と付き合ってよ」
私の手を取って、口元に持っていかれる。
指先に唇が触れて……
「ね?」
「ん…うん……」
私の返事を聞くと、満足そうに微笑む。
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