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第1章 海の国・バハル
神子とハーレム。
しおりを挟む「ユラちゃんも、だいぶ元気になったわね」
「はい、お陰さまで」
熱も下がり、果物以外も段々と食べられるようになってきた。
新しく来た侍従のセナもとても優しいし、ゼフラさまも度々見舞いに来てくれる。
夜はゼフラさまが一緒に寝てくれて、安心できるし。
何故かその場にアルダも一緒だけど。やっぱり正夫 だから、そう言うのも義務なのかもしれない。
アルダにはしたくもない俺との添い寝を強いてるのかな。本当は俺と寝ることだって無理をしてやってくれていることに違いない。
「それでね、せっかく元気になったのだから、歓迎会をしようと思って」
「歓迎会?」
「そう。ユラちゃんはまだ家族《ハーレム》の一員として紹介してもらってないでしょう?本来は、王を囲ってハーレムの私たちみんなで食事したり、寛いだりするの。もちろんアルダは王だから、お仕事もあるけどね。ハーレムはアルダにとっても公務の合間にリラックスできる場なの」
「そんな場に、俺が行っていいんですか?」
ただ神子と言うだけで正夫 になった、名ばかりの正夫 が。
生きてるだけでもおこがましいと言われてきたのに……。
ユルキさまも優しい方だと分かったし、正夫 には何のこだわりもないと仰っていた。
リュヤーさんもお兄さんみたいで頼れる人のようだけど。
「あの、王さまには他にも奥さんがいるんですよね」
「えぇ、そうね。今夜紹介するから!あ、王子たちも紹介するね」
「おう、じ?子どもが、いるの?」
「うん、跡継ぎとか、政略的な理由とか色々とあるけどね~」
思えば、そうである。アルダは王なのだ。
俺が名ばかりの正夫 なのだから、国を継ぐ王子くらいいるだろう。
ユルキさまも正夫 として、その義務を果たしたのだろうか。
「ディナーの内容も特別なのを用意させるから!楽しみにしていてね!」
「は、……はい」
ご飯、か。ここでは食べたことのない異国風の料理だけども軽いものや、細長いパンを出してもらっている。それらはどれも美味しい。
本当なら、米も欲しいけれど。贅沢は言えないか。この世界に米があるかも分からないし。
それに俺は、ただでさえ厄介者なのだ。
※※※
「あの、俺はもっと地味な服でも」
ディナーの前、セナは豪華な縁取りや刺繍の施されたガウンーーカフタンと呼ばれるものを差し出してきた。
「いいえ、ユラさまは正夫 なのですから、これくらいは当然です。アルダ王の正夫 として、ナメられるわけにはまいりません」
「いや、別にそれでも」
いいのだけど。むしろ、目立ちたくない。
「それに、ゼフラさまの方が多分派手です」
「え?」
「ゆ~ら~ちゃんっ!おっ待たせぇ~!」
部屋まで迎えに来てくれたゼフラさまはいつものように胸部とズボンがセパレートになった臍出しの踊り子のような衣装だ。
だがそれに加えてレースのベールを頭からかぶり、衣装を彩る刺繍のほか、首や耳に煌びやかな飾りを身に付けている。い、いつも以上に妖艶で、キラキラしてるーっ!
「ほらね、あれに比べたら大人しいものですよ」
「あ、う、うん」
他のひとも、あれくらいなのだろうか。それなら俺も、目立たないかな?
「さ、行きましょっ!」
「は、はい!」
ゼフラさまに手を引かれ、俺はアルダのハーレムの一員と対面することになった。
※※※
「ユラ、いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、セゼンくんだった。
「セゼンくん?どうしてここに」
あ、セゼンくんってもしかして、王子とか?
だとしたら、アルダは俺よりもかなり歳上ってこと?20代にしか見えないのに。
「言ってなかった?ぼくもアルダ王の側室」
「え゛」
でも、セゼンくんって明らかに子ども、だよね。12歳くらいだ。それともこちらでは普通なのだろうか。
「そ、そうなんだ」
「なんかユラ、震えてない?」
「大丈夫?また体調悪くなったのかしら。無理はしちゃダメよ?」
「だ、大丈夫です!」
「あぁ、ユラ!来てくれたか。待っていたぞ」
そこに優雅に現れたのは、縁取りや刺繍が豪華なカフタンを身に纏ったアルダであった。
なんか、そこに立っているだけで色気がっ。――――――あ、でも、
「あ、は、はい」
目が、合わせられない。
その、この世界ではそう言うものなのかもしれないけど、じゅ、12歳くらいでも、平気で側室に迎えるだなんてっ。
しょ、ショタコン……、なんだろうか。
「何故か、ユラが目を合わせてくれない上に何かすごい誤解をされている気がするのだが」
いや、その、それがこの世界のルールなら。俺だって神子と言う理由だけで正夫 の座についたのだ。
「それアレじゃない?ほら、ぼくも側室って言ったから」
と、セゼンくん。あ、アレって?
「あぁ、みんなでアルダを取り囲んでハーレム会議になったのよね!懐かしいわぁ」
「へっ!?」
ハーレム会議って何っ!?
「ユラちゃん、セゼンちゃんが側室なのは、セゼンちゃんを守るためなの」
「守る、ため?」
「アルダ王の側室にでもならなければ、ぼくは聖地に誘拐されてしまいますから。ぼくは聖者なので」
聖者っ!
そう言えば、アルダが前に言っていた。聖者を守るために聖地に反抗して聖者を側室に迎えたのだと。それが、セゼンくんのことだったんだ。
思えば、あの傷を治してくれた魔法も、聖者の力だったのかもしれない。
「この世界のハーレムの側室に迎える年齢に制限はないけれど、普通は成人してから迎えるもの。王族も名家も、一般庶民でもね。無理矢理子どもを側室にとか、伴侶に迎えたらそれはそれで顰蹙を買うし、役所も結婚を許可してくれないのよ。けど、王家だけはね、政略的な意味で迎えることもある。双方の合意の元、正夫 がいることを条件にね。でも大丈夫よ。もし、まだ子どものセゼンちゃんに不埒なことをしたら、お仕置きコースだからっ!」
「お、お仕置き、……コース?」
セゼンくんの安全のための側室入りで、その後の安全も保証されているのなら、安心なのだけど。一体何が行われるのだろう?
「うふふ、何にしようかしら」
ゼフラさまは小鳥の囀りのように笑っているけれど、笑顔が、黒い?アルダが口角をぴくぴくさせているのだけど。
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