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第1章 海の国・バハル
神子と侍従。
しおりを挟む「前回の反省点も踏まえて~、選出したよっ!神子くんの侍従ねぇ~」
ニカッと口角をあげながら告げたのは、赤茶色の髪の剣士だと思っていたリュヤーさんだった。
先ほどリュヤーさんも側室の一員と知り驚愕したところである。
俺もリュヤーさんにとっては、面白くない存在なのかな?
「そんなに警戒しないで。俺は部族の義務で側室に入っただけで、普段はただの軍人だからねぇ」
部族の義務?いわゆる政略結婚ってことかな?
「いや、あなた元帥でしょうが。どこがただの軍人ですか」
リュヤーさんは後ろからユルキさまにぺしゃりと叩かれて、へらへらと笑っていたが。
そう、ユルキさまも一緒だったのだ。
「昨夜はご迷惑をおかけしましたね。元正夫 の侍従なら、侍従としての能力は確かですが、どうしても私が元正夫 であった事実から受け入れられないものもいますし、それを隠して仕えられるものもいますが、それはそれでユラさまの気も休まらないでしょう?」
「そ、そんな、元はと言えば、俺がっ」
神子として召喚されたから、ユルキさまは正夫 の座を下ろされた。
「あなたが気に病む必要はないと伝えたでしょう?所詮じゃんけんで決めたものですし、私もただの政略でソレのハーレムに入ったんです。元々愛とかありませんし」
えっ!?ユルキさまも!?と言うか、愛がないって……。
「いや、ユルキ。お前私の前で随分な言いぐさだな。王である私の前だぞ」
アルダが不満げに声を漏らすが、
「でしたらとっとと起きて仕事してください。仕事!」
「仕事の鬼か貴様はぁっ」
え、なにこれ、夫夫喧嘩っ!?
「アンタ王なんだから当然でしょう」
「それに、こう言う場面での適任はゼフラじゃない?」
と、リュヤーさんも加わる。
「でしょう?分かっているじゃない」
ゼフラさまがにこりと微笑む。
俺としては、ゼフラさまと一緒なら心強いけど。
「うぐっ、お前たち私の夫なのに何故そうまで私に冷たいのだ」
「冷たいのではありません。厳しいだけです」
「いや、もっと過酷じゃないか。くっ、ユラ。ユラはあのようになってくれるな。私に優しい正夫 になってくれ」
アルダが俺の手をとり、囁いてくる。
いきなり俺に振られてもっ!
てか、王に優しい正夫 って、どうすれば。
「その分スパルタになりそう~」
「あたりまえじゃないですか」
「やだっ、もうっ」
そしてそのすぐ側できゃっきゃとスパルタ発言を聞き、アルダがグハッと吹き出していた。
「あっ、そうだ!あのね、私がユルキかリュヤーの養子になるって案もあるんだけど~っ」
いや、ゼフラさまっ!?その話するの!?まさか、本気っ!?
「あぁ、別にいいですよ。ついでにユラさまも入れましょうか?」
「まぁ、神子が養子に入ったらダメって決まりはないもんねぇ。王か王太子の正夫 にさえなればいいんだから」
と、ユルキさまとリュヤーさんがさらりと告げる。いや、2人とも冗談じゃなくて、本気なのかっ!?
「わ~いっ!それじゃぁ私、ユラちゃんと兄弟ねっ!」
え、俺がゼフラさまの、弟になるのっ!?
「おい、ユラ。何故頬を赤らめているっ!認めぬぞ。私は王として認めぬからなっ!!」
だって、ゼフラさまの弟って想像したら、ちょっと嬉しくなっちゃって。でもやっぱり、それにはアルダの許可がいるってことなのか。
しゅーん。
「ちょっと!ユラちゃんがしょぼーんとしちゃったじゃない!」
「言っときますけど、異世界から来た右も左も分かってないコをいいように懐柔したら鞭打ちの刑ですから」
「あ、拷問担当なら俺やるやるー」
「貴様ら」
アルダが、遠い目をしていた。
「いや、それよりもだ」
「いきなり話題をそらしましたね」
「えぇ~、たまにはSMプレイも楽しいよ?」
ユルキさまの言葉はもっともだが、リュヤーさんの発言は?
えと、さっき拷問とか言ってたけど、やっぱり王相手だもの。冗談だよね?
でも、SMプレイはーー
ちらりとアルダを見やれば。
「ち、違う!私は断じてそう言う趣味ではないっ!」
えっと、その。SMが好きなわけじゃ、ない?
「それで、侍従は」
「あ、それそれ。入って~」
リュヤーさんが呼ぶと、部屋にひとりの青年が入ってきた。
ダークグレーの髪にシトリンの瞳、褐色の肌の落ち着いた風貌の青年である。
「セナだよ。護衛にもなるからオススメ!」
「よろしくお願いします、ユラさま」
無口で表情があまり動かないタイプかと思ったが、セナはふんわりと微笑み、少し驚いた。
「は、はい」
どうしてか、昨日の侍従たちよりは、大丈夫かもと感じた。あからさまに見下したりもしない。
「でも、ユラちゃんを泣かせたら、お尻ペンペンの罰よ?」
と、ゼフラさま。お、お尻ペンペンっ!?
「心得ております」
セナが優雅に微笑む。
ーーしかし、
「それは私のセリフだろう、ゼフラ」
「早い者勝ちよ」
何故か不機嫌なアルダにゼフラさまは気にせずと言った感じでウィンクを贈る。
「さて、侍従も紹介がすみましたし、アンタはとっとと仕事に行くっ!」
「うぐっ!」
ユルキさまに窘められ、アルダが渋々ベッドから起き上がり、ユルキさまとリュヤーさんに連行されていった。
「では、お着替えしましょうか」
セナに促され、身体を拭いてもらい、新しい寝巻きに袖を通す。
「朝ごはんを用意して参ります。ゼフラさまの分も」
「あら、分かってるじゃない」
ベッドに横になる俺の傍らにささっと潜り込んだゼフラさまがウィンクを送っていた。
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