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作戦会議

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「パークシャー伯爵が複数所有する農場、商会、鉱山。ジョアキンを監禁出来る場所は結構あるな」

王太子は地図上の印を目で追った。

「転移魔法を使うのには限界があります…転移魔法はそう簡単に連発できるものではありません。だとすれば、いざという時に馬でも容易に辿り着ける場所になるでしょう。王都からそう遠くない筈です」

スープラ医師は思い返すように続けた。

「過去に伯爵家と関連が疑われる魔法使用現場にも…痕跡が残りづらく人目に付きにくい場所が選ばれています。転移魔法を使う以上、現場となる場所は慎重に選んでいたのでしょう」

納得したように頷くと王太子はジョアキンがいなくなったタラネ町の辺りを指差した。

「タラネ町も王都郊外に位置し、魔法工房が立ち並ぶが故、魔法の痕跡が他人のものと紛れやすく誤魔化しやすいからな。なかなか良い場所に隠れ家を構えていたようだ」

トントンと指で地図上の一点を叩く。

「伯爵家の令嬢は今どこに?」

「伯爵家が所有する王都郊外の農場に滞在しているようです」

「農場?……そういえば…以前、キャサリン様が農場に行ってきたと…ベリーを差し入れてくれたことがございます」

言いながらエメリは、あの優しいキャサリンの顔を思い出し苦しくなった。

「令嬢がわざわざ農場まで出向いてか…頻繁に出入りしているようであれば充分怪しいな。王都郊外であれば位置関係もスープラの推測と重なるだろう」

「密偵を忍び込ませています。そろそろ新しい情報が入ってくる頃かと…」

そう言うや否や、窓の外で大きな羽音が聞こえた。

スープラ医師が窓を開けると白い大きな鳥がスラリと長い足を差し出した。

美しい鳥だ、白鷺だろうか。

スープラ医師は、その長い足に括られた紙を開き読み終えると小さな丸眼鏡を指で上げた。

「予想は当たっていたようです。侯爵様は農場にある邸宅の地下室に監禁されています」

それからの二人の動きや指示は的確で無駄のないものだった。
流石、王太子殿下と魔法魔術研究所のナンバーツーだ。

エメリは広げられた地図を凝視した。

パークシャー伯爵が所有する農場は王都郊外の長閑な地域にあった。
詳細に調べられた地図には農場を囲う塀と柵、垣根の種類まで記載されていた。農場とはいえ貴族の別邸、敷地内には立派な邸宅が建っていた。

ジョアキンの救出のため農場内の邸宅に踏み込むのは精鋭騎士数人。
事前に忍び込ませていた魔法使い二人と現場で落ち合うことになっているようだ。

スープラ医師も農場周辺に待機するとのことで、当然参加するつもりでいたエメリはだったが呆気なく侯爵邸待機を言い渡されてしまう。

王太子殿下も精鋭騎士と共に乗り込む気満々でいたが敢え無く止められ、スープラ医師と共に農場周辺に待機ということになった。

「お邪魔はしません!お願いです。せめて私も周辺に待機させてください!」

「ダメだ。せっかくジョアキンが救出できても仔猫ちゃんが危険に晒されるようなことがあれば本末転倒だ。ここに残ってもらうよ」

王太子殿下にこれ以上盾突くことも出来ず納得いかないまま黙り込む。

「仔猫ちゃんに何かあったらジョアキンに顔向けできない。必ず助け出すから安全な場所で待っていて欲しい」

言葉は優しいものの決定は覆さないという圧力を感じ、ただ黙って頷くしかなかった。

二人が侯爵邸から出発するとエメリは箪笥の中の奥の方に追いやられていた乗馬用のズボンとシャツを探し出した。

「奥様?声をおかけしましたがお返事がないので…」

エメリの様子を見に部屋に入って来たローラは直ぐに察したのか、怖い顔で近づいてきた。

しまった!
悪戯が見つかった時の子供の様にシャツを握り締めたまま亀の様に首をすくめた。

ローラはエメリの横に立つと衣装の並ぶ棚から動きやすいブーツとジャケットを取り出した。

「止めてもお聞きにならないのでしょう?…なら最大限、奥様が怪我や危険に巻き込まれないように準備いたします。それくらいしか私には出来ませんから」

ローラは酷く悲しそうな顔をした。

「私は共犯となっても構いませんから、どうか黙って出て行くのだけはやめてください」

「ローラ…ごめんなさい」

いつも自分を心配し味方でいてくれるローラに、こんな顔をさせてしまったことに申し訳ない気持ちがつのった。

「奥様。剣も扱えないのに敵陣に乗り込むのですから…万が一…巻き込まれた時の最悪の事態を考えて…これを持って行ってください」

小さな巾着袋を手渡された。
中を確認すると赤い球体が五個入っている。

「これは?」

「この赤玉を敵に投げつけると、中に入っている胡椒や三種類の唐辛子を粉末状にしたものが飛び散ります。粉末が肌に触れただけでもヒリヒリと痛みますが、目や鼻に入ればそのダメージは相当なものかと…これで相手が怯んだすきにお逃げくさださい!」

いつ、こんなものを開発したのか…後でしっかり聞いておかなければと思いながらも頼もしいローラの言動に勇気づけられる。

「ローラ…ありがとう!」

ギュッと抱き締める。

「決して無茶をしてはいけません。侯爵様の無事なご様子が確認出来たら、直ぐに戻ってきてくださいね」

エメリは護衛騎士レジスと共に馬に乗りジョアキンの元へと駆けた。


農場に到着するとエメリは持ち前の記憶力を発揮し、地図で見た最も潜入しやすい場所に辿り着いた。

煉瓦が積まれた強固な塀が終わり、途中いくつか椿の木を植えた垣根が点在していた。

忍び込むならここだろう。
しかし、残念なことに味方が通った跡があった。

考えることは同じか。

エメリは侵入経路を変えることにした。
騎士達がまだこの辺りに待機している可能性だってある。
味方ではあるが顔を合わせる訳にはいかない。

少し先の二メートルはある煉瓦の塀を超えることにしたのだ。

先にレジスが塀を超えこちらにロープを垂らす。
エメリはロープを掴むと足をかけ難なく登り二メートルの高さから軽く飛んで着地した。
その様子にレジスは驚きの顔をエメリに向ける。

「私、小さい頃から運動だけは得意で…」

えへへっと、わざとらしく照れ笑いを作る。

「驚きました。奥様は猫の様に身軽なのですね」

しきりに感心しているレジスを横目にエメリは今日何度となく聞かされた猫という言葉に正直うんざりし、溜息をついた。



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