タカと天使の文通

三谷玲

文字の大きさ
55 / 81
天降る天使の希い

終の月 その五

しおりを挟む
 
 蒼鷹の隣にソルーシュが立つと、集まった臣下、並びに兵たちはしんと静まり返った。
 霊廟での儀式を早朝に終えてふたりが立つのは、王城の中心にある凰稜殿おうりょうでん
 寒い北風が吹きすさぶ中で冬至祭ははじまった。
 蒼鷹はいつものように黒一色の上衣下裳。締められた帯は黄色の絹糸で雲間に飛ぶ鷹の刺繍が施されている。
 その隣、ソルーシュは白一色である。
 揃いの帯は大袖とともに、風に揺れている。

 眼下に見える人の多さに、ソルーシュは圧倒されていた。

――これだけの人の、いや賢高の民の命を預かっているのだ。

 王城の門のさらに先にいる民を思い、ソルーシュは気を引き締めた。

 蒼鷹の合図とともに冬至を祝う声がほうぼうからあがった。これから本格的になる寒さを乗り越えるため、国の安定と万事円満を願うのだ。
 ソルーシュが昨日用意した揚餃子と桂花金木犀で作られた酒が振る舞われる。
 長老の中には見慣れない食べ物に首を傾げているものも多いが、兵士は珍しい食べ物に興奮している様が見て取れた。
 どうやら受け入れられたようだと安堵しているソルーシュに蒼鷹が寄り添う。

「なにやらいつもより不格好なものが多い気がするが」
「すいません。見目の悪いものはこちらに出すようお願いしました。ワタシと紅希様が作ったのですが……」
「それは良い。ソルーシュが作ったものは他の者に食べさせたくはないからな」

 努力はしたが厚い皮、なんとか餡がこぼれないように包んだ餃子がうず高く積まれていた。
 それをひとつ手にとって蒼鷹が口に放り込んだ。
 さくさくとした音の中に、均等に伸ばしきれなかった分厚い部分ががりっと大きな音を立てた。

「固いですよね」
「これはこれで美味い。それに去年まではあれの茹で餃子だっただろう? 味気なくて物足りなかったから、兵士は喜んでいるだろうさ」

 蒼鷹に倣ってソルーシュも口に運んだのは、紅希が小さな手で作ったこぶりのものだ。
 お湯で割った桂花酒の甘い香りが漂う。
 このまま広間では宴会が始まるが、国王夫妻は参加することはない。
 峰涼に退席を促されたソルーシュは、今一度、広間を見下ろした。
 ちょうど、太陽が南中に差し掛かる。
 広間は明るく照らされて、人々の顔はよく見えない。
 ただ、みながこちらを向いているように、ソルーシュには思えた。

――なにかあっただろうか?

 北風は相変わらずソルーシュの袖や裾を揺らし、黄色い帯がはためていた。

「ソルーシュ。そろそろ戻るぞ」
「はい!」

 蒼鷹に呼ばれ振り向くと、なぜか広間からは歓声が聞こえてきた。
 何事かあったのだろうか、と首を傾げていたソルーシュがその理由を知るのは年明けるまで待たねばならなかった。



---
兄上、お変わりありませんか?。
最近少しずつですが表に立つことが増えました。
紅牡丹様のように美しいわけでも、舜櫂のように知的でもないワタシはただ立つだけですが。
子どもを産めない王妃の役割とはなんでしょう?
なにか蒼鷹の役に立つことができればいいのにと考えていますが、いまだ思いつかないのです。
---
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...