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天降る天使の希い
初の月 その一
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冬至祭も無事終わった冬晴れの日。
院子の池に初めて氷が張った朝、支度を終えた蒼鷹を送り出したソルーシュが舜櫂に尋ねた。
「年越しの行事はないのですか?」
「こちらではそういった行事は特にありませんネェ。年明けは三日ほど休みにはなりますが……。ソルーシュ様のお国ではなにをされるのですカ?」
逆に問われて、ソルーシュはトルナヴィエの年越しの話しをはじめた。
「ワタシは参加したことはないのですが、夜通し踊ってるんですよ」
「夜通しですカ。それは楽しそうですが、疲れそうですネェ」
その夜は、ハレムの中も外もとてもにぎやかでソルーシュにとってはあまり良い思い出ではなかった。
否が応でも自分がひとりであることを思い知らされるからだ。
たとえ、賢高で同じような行事があったとしたら、孤独を感じることはないだろう。しかし、行事がないと言われてソルーシュは少し安堵した。
穏やかな気持ちで迎えた、年越しの日。
早めに朝議を終えた蒼鷹が今年の仕事は終わりだと、ソルーシュの宮へと訪れた。
ひとつふたつ、舜櫂になにやら言付けをすると、その舜櫂が深々と礼をして退出していった。
「あれ? 舜櫂はどうしたのですか?」
「今日はもう下がらせた。次は年明け三日まで来なくていいとも伝えてある」
「確か年明け三日までおやすみなのですよね? 峰涼もですか?」
そうだと頷いて、蒼鷹は長椅子に腰掛けるとその横に座るよう促した。
御膳部や下男下女といった立場の人びとも交代で休みを取るので、生活に困ることはない。
ただ、舜櫂がソルーシュについてからこんなに長い期間離れることもなかったので、少し驚いた。
「まぁ峰涼は城内の官舎にいるから呼べばすぐ来るが、舜櫂は外にも屋敷があるからな」
「そうだったんですか? 聞いていませんでした」
「この頃は特に忙しかったからろくに屋敷に帰らせてやれなかったからな。ゆっくり羽根を伸ばしてこいと伝えておいた」
官吏の中には峰涼のように官舎に住むもの、墨夏のように屋敷を持つものとさまざまだ。
墨夏のような例外はあるにしろ、だいたいは結婚を機に屋敷を持つことが多い。
舜櫂の場合は、もともと屋敷を持っていた、というのが正解だろう。
ソルーシュは自分が頼りないばかりに、舜櫂を手放せないことに申し訳ない気持ちになった。
「ワタシがもう少ししっかりしていればよかったのですが……」
「気にするな。私がいない間は側を離れるなと命令してある。ただ……。年が明けても忙しいのは変わりそうにないな」
ここ数日、朝議の話題は北方情勢一辺倒だった。
犲の邑へ調査に向かった者がもたらしたのは、ただの荷の遅れ、だけではなかった。
冬至祭の直後、トルナヴィエからの隊商が賢高へと辿り着いた。
入れ違いになってしまった調査員には早馬をだした。そのまま、北方を調べてくるようにと。
隊商の長から話しを聞くと、あちらこちらで山賊が出没しそれを回避するため時間がかかったとのことだった。
以前から山賊は出るには出たが、今回は数も規模も違った。
できる限り戦闘を避けるため、迂回を余儀なくされたらしい。
おかげで北方の様子が少しずつ見えてきた。
犀登が犲の討伐を再開したらしい。
この十五年、互いに共存していたはずの二者がなぜ今になって争いがはじまったのかはまだ定かではない。
しかしその結果、犲の中には山賊稼業を主とする以外立ち行かなくなった者たちが増えたようだ。
情勢次第だが、賢高でも対応を迫られることになりそうだと、朝議はにわかに騒がしくなった。
そのため、蒼鷹は冬至祭以降慌ただしい日々を過ごしていた。
ただでさえ、忙しい蒼鷹に余計な心配は出来ないと、ソルーシュは紅希の様子のおかしいことを伝えられずにいた。
「あの……」
ソルーシュの考えすぎかもしれないが、紅希は次の王だ。
穏やかだったはずの年越しは、ソルーシュ自ら不穏なものにさせることになった。
院子の池に初めて氷が張った朝、支度を終えた蒼鷹を送り出したソルーシュが舜櫂に尋ねた。
「年越しの行事はないのですか?」
「こちらではそういった行事は特にありませんネェ。年明けは三日ほど休みにはなりますが……。ソルーシュ様のお国ではなにをされるのですカ?」
逆に問われて、ソルーシュはトルナヴィエの年越しの話しをはじめた。
「ワタシは参加したことはないのですが、夜通し踊ってるんですよ」
「夜通しですカ。それは楽しそうですが、疲れそうですネェ」
その夜は、ハレムの中も外もとてもにぎやかでソルーシュにとってはあまり良い思い出ではなかった。
否が応でも自分がひとりであることを思い知らされるからだ。
たとえ、賢高で同じような行事があったとしたら、孤独を感じることはないだろう。しかし、行事がないと言われてソルーシュは少し安堵した。
穏やかな気持ちで迎えた、年越しの日。
早めに朝議を終えた蒼鷹が今年の仕事は終わりだと、ソルーシュの宮へと訪れた。
ひとつふたつ、舜櫂になにやら言付けをすると、その舜櫂が深々と礼をして退出していった。
「あれ? 舜櫂はどうしたのですか?」
「今日はもう下がらせた。次は年明け三日まで来なくていいとも伝えてある」
「確か年明け三日までおやすみなのですよね? 峰涼もですか?」
そうだと頷いて、蒼鷹は長椅子に腰掛けるとその横に座るよう促した。
御膳部や下男下女といった立場の人びとも交代で休みを取るので、生活に困ることはない。
ただ、舜櫂がソルーシュについてからこんなに長い期間離れることもなかったので、少し驚いた。
「まぁ峰涼は城内の官舎にいるから呼べばすぐ来るが、舜櫂は外にも屋敷があるからな」
「そうだったんですか? 聞いていませんでした」
「この頃は特に忙しかったからろくに屋敷に帰らせてやれなかったからな。ゆっくり羽根を伸ばしてこいと伝えておいた」
官吏の中には峰涼のように官舎に住むもの、墨夏のように屋敷を持つものとさまざまだ。
墨夏のような例外はあるにしろ、だいたいは結婚を機に屋敷を持つことが多い。
舜櫂の場合は、もともと屋敷を持っていた、というのが正解だろう。
ソルーシュは自分が頼りないばかりに、舜櫂を手放せないことに申し訳ない気持ちになった。
「ワタシがもう少ししっかりしていればよかったのですが……」
「気にするな。私がいない間は側を離れるなと命令してある。ただ……。年が明けても忙しいのは変わりそうにないな」
ここ数日、朝議の話題は北方情勢一辺倒だった。
犲の邑へ調査に向かった者がもたらしたのは、ただの荷の遅れ、だけではなかった。
冬至祭の直後、トルナヴィエからの隊商が賢高へと辿り着いた。
入れ違いになってしまった調査員には早馬をだした。そのまま、北方を調べてくるようにと。
隊商の長から話しを聞くと、あちらこちらで山賊が出没しそれを回避するため時間がかかったとのことだった。
以前から山賊は出るには出たが、今回は数も規模も違った。
できる限り戦闘を避けるため、迂回を余儀なくされたらしい。
おかげで北方の様子が少しずつ見えてきた。
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この十五年、互いに共存していたはずの二者がなぜ今になって争いがはじまったのかはまだ定かではない。
しかしその結果、犲の中には山賊稼業を主とする以外立ち行かなくなった者たちが増えたようだ。
情勢次第だが、賢高でも対応を迫られることになりそうだと、朝議はにわかに騒がしくなった。
そのため、蒼鷹は冬至祭以降慌ただしい日々を過ごしていた。
ただでさえ、忙しい蒼鷹に余計な心配は出来ないと、ソルーシュは紅希の様子のおかしいことを伝えられずにいた。
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ソルーシュの考えすぎかもしれないが、紅希は次の王だ。
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