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「じゃあ、お仕置き受けるね」
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「篠崎さん……っ…」
僕は頭をあげて篠崎さんを見上げる。
「ん?」
「キス、したいです」
ぼくがそう口にすると篠崎さんは目を細めて微笑んだ。
「ユウくんからおねだりしてくれるなんて嬉しいな」
そう言って頭を撫でられて高鳴った気持ちは、
「でも、まだしてあげられない」
という声に打ちおられた。
「ぇ…っ?」
「私だって、ユウくんのおねだりにいっぱい答えて、いっぱい気持ちよくさせてあげたいけど、その前に済ませておかなきゃいけないことがあるからね」
頭を撫でていた篠崎さんの手が止まり、目つきが変わる。
もしかすると、怒っている…? そう感じたのは間違いではなかった。
「私の言いつけを破って、夜中に家を抜け出して、SMパーティにきて、M用の腕輪をつけて、オーナーに体を触らせて、ユウくんはどれだけ悪い子だったのかな?」
「でも、それ、は……っ」
しゃべりかけた僕の口の中に、いきなり篠崎さんの指が突っこまれ、同時に強い力で下顎を掴まれ口がうごかせなくなった。
「一人で深夜に外を出歩くだけでも危ないのに、ましてはあんな店に一人でふらふらいくなんて。オーナーにつかまったのはまだ良かったのかもしれない。そうじゃないと誰に何されていたかわかったもんじゃないし。まあ、でもたとえオーナーが相手だろうとユウくんが僕以外の調教師と言葉を交わして、体を触らせていたことはただで許せることじゃないけどね」
「……っ…ぅっ…っ」
口を掴まれてて一言も発することができない僕は、篠崎さんの言うことをただ聞いていることしかできなかった。
篠崎さんは、たぶん、今までで1番怒っている。
怒られるようなことをした自覚はあった。
でも昨日のことはもうなかったことになるじゃないかと、期待していた……。
「ユウくんは、痛いお仕置きは嫌なんだよね?」
口を掴まれたまま動かせる範囲で小刻みに頷く。
「でもね、私はユウくんのことが大好きだからお仕置きするんだよ。わかるかな?」
あんまり、分からない。
だって、痛いお仕置きは嫌だ。
前にされたお仕置きは、膝の上でお尻を叩かれて、篠崎さんはこわいし、痛いし、それに恥ずかしかった。
「あんまり、分からないか」
そう言われて心臓がどくんと跳ねる。篠崎さんは時々、僕の心を読んでいるようだ。
「私はね、ユウくんが大好きだからユウくんの全部を管理したい。ユウくんは私のものなんだから、言いつけを破ったら、それはお仕置きを受けないと。お仕置きが終わらないと、私もユウくんを甘やかさないよ。ユウくんは私といっぱいキスしたいんだよね。気持ちいいこともいっぱいしたいよね」
そんなのしたいに決まってる。
篠崎さんが、やっと顎をつかんでいた力を緩め、口から指を引き抜いた。
篠崎さんの指にべっとりぼくの唾液がついている。
「じゃあ、お仕置き受けるね」
許されてる返事は一つしかない。
「はぃ……」 僕はがくがくする顎を動かしてそう答えた。
自分の家に、篠崎さんがいること自体が異質であるのに、今からお仕置きが始まると思うと、とたんに居心地が悪くそわそわと落ち着かない。
「ジャケットと、下、全部脱いで」
篠崎さんの方が落ち着いた声で、僕にそう命令した。
未だに篠崎さんは縄を片手に掴んだままで、僕と篠崎さんは紫の縄で繋がっている。
僕はぐずぐすしたい気持ちもありながら、篠崎さんに見つめられてゆっくりジャケットから腕を抜き、ズボンと下着を下ろした。
「鏡の前で、四つん這い。ちゃんと顔上げて、鏡を見てなさい」
冷たいフローリングに膝をつく。
下半身をひやっとした感覚がおそった。
目の前には鏡。
ワイシャツ一枚きた姿で四つん這いになった自分と目があって、一気に情けなくなってもう泣きそうだ。
「今回のことはね、本当ならお仕置きのための道具を使いたいんだけど、今日はないから……ベルトにするね」
お仕置きのための道具……?
あんまり聞きたくないような言葉があったものの、今は「ベルトにするね」の方が問題だった。
鏡にうつる篠崎さんがその細身のズボンから、カチャリと金具を外してベルトをするっと引き抜いた。
黒い革のベルト。
「そ、それで……た、叩くんですか」
自分の声が震えている。篠崎さんは左手首に首輪につながった縄をまき、両手で二つ折りにしたベルトをピン、と引っ張った。
「そうだよ。ベルトは相当痛いから、いいお仕置きになるね」
ひやっと寒気が走る。何がどれくらい痛いなんて僕はまだ知らない。
前に叩かれた時は、篠崎さんの手のひらだった。ただ手よりベルトの方が痛いのは簡単に想像がつく。
床についた両手足がちいさく震えていた。
「顔下げないよ」
「……ウッ……」
首輪の縄を上に引っ張られて、強制的に頭を持ち上げられた。
同時に首が絞まって息が苦しくなった。
「じゃあ、まずはこれで30回」
篠崎さんがするっと、ベルトを撫でるように手に滑らせて右手で握り直す。
それから、大きく右腕を回すようにベルトを振り上げた。
ひゅんっと空気を切る音と共にベルトが綺麗に弧を描いてしなっているのが見えた。その瞬間、バシィィィンンッッ!!と大きな音とともに、激痛が走る。
「ひっっ……ぃっっっ!!!!!!!」
頭が真っ白になって、目の前がチカチカしたような衝撃。
ぶわっとお尻に痛みが広がって、一気に熱を持つ。
手のひらなんて比べ物にならないくらいの痛み。
すでに涙の膜がはった両目でも、篠崎さんがまた手を振り上げるのが見えた。
ヒュンッバシィィィンンッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「ひぃぁぁぁああっっっ!!!ぁぁぁああああっっ!!!ああぁぁっっあっ!!!!!」
悲鳴が喉を破ってこぼれる。
痛みで、
頭がおかしくなりそうだ。
鏡にうつる自分な顔が歪んで見えた。
後ろで、振り上げられる腕が怖い。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁぁあああっっ!!!いやぁっっっぁあああっ!!!ひぃぃっっっ!!!!!」
連続して与えられる痛みに耐えきれずに僕は、床の上にうずくまるようにちいさくなった。
お尻が熱い。熱い。じんじん痛みが広がっていく。
「ユウくん、四つん這いはどうしたの。元に戻りなさい」
冷たい声。
「ぅぅっ……ごめ、なさ………ぃっ……」
こわい、いたい。重ねた手の上にぼろぼろっと涙がこぼれた。
「ユウくん? 私の言ったことが聞こえなかった?」
「ごめんなさ、ぃ…ごめんなさぃっ…お尻っ…痛くて……」
「まだ半分も終わってないよ。ほら、お尻あげる」
篠崎さんが僕の傍に膝をついたかと思うと、パチンッパチンッと平手でお尻をすくい上げるように叩かれた。
「ひぃっっ……!ぃっっっ!!!!」
じんじんと痛むお尻には、平手ですら息がつまるような痛みが走った。
僕は、泣きながらなんとかお尻をあげた。
「次に四つん這い崩したらもう一回はじめからにするからね」
篠崎さんが立ち上がりまたベルトを構えながら、恐ろしいことを告げる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!!!!
「ぁぁああああっ、んん…!!!」
熱いお尻に、熱い塊が飛んできて、びりびりと強い痛みが広がっていく。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「ひぃぁぁあああっっ!!!! ぁぁぁっあああああっっ!!!!ぅぅっっんんっっつ!!!!!いいぁっああああぅっっ!!!! 」
痛い、痛い、痛い。耐えられない、でも、耐えないと。
数を増やされるのはいやだ。
何回、叩かれたかもうわからない。まるで永遠に続くような痛みに、頭が朦朧とした。
「ユウくん」
気がついたら打撃が止んでいて、ただ僕が肩で大きく息をしながら漏らす、はあはあと荒い息と、篠崎さんの静かな声だけが部屋に漂っていた。
「お尻がさがってる。顔もさげて鏡を見てないし、もう一回やりなおしだね」
「そ、そん……、な……っ」
ぽろ、と大粒の涙が頬を伝っていく。
涙で霞んだ両目を瞬いて、鏡ごしに篠崎さんを懇願するように見つめる。
「口答えするなら、もっと厳しい罰にしようか? 机に縛って百叩きでもいいね」
「や……っ、や、です……っ!!!!!!」
勢いよく首を振る僕に、篠崎さんがふっと肩で息をつく。
「ユウくんこういうときは、いやいやする前に、すぐに謝りなさい」
ほんの少しだけ、優しい声。
「ごごごめんなさいごめんなさいっ!!!」
「うん。謝れたから30回をもう一回初めからだね」
30回のやり直しは、無かったことにはならないんだ……。
「しのさきさん……」
「はい、しっかりお尻突き出して、お仕置き受けてる自分の姿をちゃんと見ていなさい」
ちゃんと篠崎さんの言うことを聞かないと、そういう気持ちだけはあるんだけど。
篠崎さんがベルトを勢いよく振り上げて、僕に向かって真っ直ぐに振り下ろす。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁっ、う……いたぁぁっ、ぁ……あぁぁぁんっ……いぃあああっんっ」
びりびりと熱くて痛いベルトが降ってくると体が言うことを聞かないんだ。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いたぁぁあっ……あぁぁぁっんんっ……あっぁぁあっ……いたぁいいたぁいっ」
痛い、痛い、痛くて、どうしてもベルトからお尻が逃げる。
でも……お尻が下がってしまったことに、今度はすぐに自分で気がついた。
「うぅ……ごめんなさい。たいせい、崩して、ごめんなさぁぁい……っ」
鏡ごしの篠崎さんを涙目で必死に見つめる。
「はぁ……体勢崩すのは悪い子だけど、ちゃんと自分から謝れて偉いね。仕方がない。四つん這いじゃユウくん永遠に終わりそうにないね、仰向けになりなさい」
篠崎さんはほんの少し眉を下げて困ったような顔でそう言う。
「……ぇ…」
「仰向け。はい、すぐに動く」
びりびりと痛むお尻を感じながら、そろそろと体の向きを変えてゆっくりと床に仰向けの体勢になる。
なぜ仰向けと指示されたのかわからないまま、両足を立ててお尻はわずかに浮かせていると、その足元に篠崎さんが座りこんだ。
「道具のお仕置きは初めてだから特別だよ。2回目からはないからね」
篠崎さんがそう言いながら新たにカバンから取り出した真っ赤な縄で僕の両足首をギュッとまとめて縛った。そうして両足を高く持ち上げる。
お尻が晒されて、そこでやっとなんで仰向けにさせられたのか分かった気がした。
僕の傍らに膝立ちになった篠崎さんが左手で僕の両足を持ち上げたまま、右手でベルトを振りかぶる姿まで、目を逸らしようがない。
ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いぃぃいいっ!!!!」
持ち上げられたお尻にベルトが振り下ろされる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁぁんんっ!!!!いたぁあぁっ!!!あっぁぁんんっ!!!!」
この体勢では、絶対にベルトから逃れられない。それに、少し恥ずかしかった。火照った頬に涙がとめどなく流れる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いぁぁああっあんっ!!!!ごめんなさぁいっ!!!ごめんなさぁああいいっ!!!!!」
わずかに身をよじっても、すぐに両足を掴んだ篠崎さんの手で体をまっすぐに直されて容赦無く次のベルトが振り下ろされる。
下から見上げる篠崎さんの横顔は冷たい無表情のままで怖い。
「あと、さんかい」
ヒュンッッ…バシッィィィンンッッ!!! ヒュンッ…バチィィィンンッッ!!! 「あっぁぁああっぁぁああっっ!!!!!い、ぁぁああっっっ!!!!!」
ヒュンッ、バシィイインンッッ!!! 「あああああぁっぁぁぁっっ…!!!!!!!!!」
全身に鋭い痛みを受け、その瞬間持ち上げられていた両足が解放されて僕は横向きに倒れる。
ぼろぼろと涙が流れて頬と床を濡らしていく。
「はぁっ、ぁっ、…っ、ぃっ」
叫び声をあげすぎて、喉の奥までひりひりと痛む。
荒くなった息が苦しい。
少し身体が揺れるだけで、真っ赤に腫れているだろうお尻に痛みが走った。
両足首を縛っていた縄がほどかれる。
「ユウくん、立ってこちらにお尻を向けなさい」
篠崎さんの声が上から降ってきた。
「うぅっ……っ」
腕にも足にも力が入らない。
だけど、篠崎さんの声がまだ冷たい。
多分、まだ怒っているんだ。そう思うと、心臓がぎゅっとしめつけられるようで、なんとか両手両足で踏ん張って、ふらふらと立ち上がった。
頭がくらくらする。
そういえば前のお仕置きのときは……、尻を叩かれたあとしばらく壁にむかって立たされたのだった。
今日もまた、そうさせられるのかと思ったが、僕の後ろに立った篠崎さんは、 「少し頭をさげて」 と、ぼくに命じた。
ゆっくりと頭をさげる。
自然とお尻が突き出されて、肌が張ってぴりぴりと痛む。
そのとき、すっとお尻を撫でられて 「ひぃ、っ……」 と、声がもれる。
強い力で触られているわけではないが、触れられるだけで痛みがはしる。
「こら。腰、引かない」
片手でぎゅっと腰をつかまれて、もう片方の手で、するすると撫でられ続ける。
「うぅ……っ、……ぃ、っ」
「これくらい我慢しなさい。赤くなってるけど、血もでてないよ」
足ががくがくと震える僕に、篠崎さんは言った。
そんなことを言われたって、こんなふうに叩かれたのもはじめてなのに。
ベルトだって最終的に何回打たれたのかわからない。
新たにじわっと溢れた涙が両目を覆った。
「それじゃあ、ユウくん」
しばらく、ぼくのお尻を撫でていた篠崎さんの手がとまって、ぼくから離れていく足音がした。
「私の膝の上に来なさい」
その言葉に、目の前が真っ暗になった。
「え……っ」
「ベルトは30回って言ったんだよね。お仕置きは、まだ終わりじゃないよ」
振り返ると篠崎さんは、床に膝をおって座っていて、片手で「ほら」と、膝をたたいた。
「し、しのっさ、きさ…、も、もうっ……むり、ぃっ…ぃ…っ…です…っ…」
あぁ、こんなふうに根を上げて、きっと、怒られる。
口答えしちゃダメだって、さっき言われた。
怒られるのは嫌だ。 これ以上、怒らせたくない。
でも、本当にもうお尻は限界だ。
こんな程度、我慢できない僕は……。
「ごめ、な…さ、ぃ……っ、ごめんな、さぃっ」
ぼくは篠崎さんの前に、うずくまって頭をさげた。
はぁ、と篠崎さんが大きく息を吐いた。 ……怒ってる? ……呆れてる?
「うっ……」
肩を思いきり押されて、そのまま身体が勢いよく後ろへ押し倒された。
床にぶつかったお尻に激痛がはしって顔を歪めたぼくは、まばたきをするうちに仰向けになって天井を見上げていた。
その視界をふさぐように篠崎さんが覆いかぶさってきて、ぼくの顔をのぞきこむ。
「ユウくんは誰のもの?」
篠崎さんが片手で首輪についた縄を真上に引っ張りあげた。
首だけが上に持ち上げられて、ぎゅぅっと喉元が圧迫されて息ができない。
「うぅっ…………ぇっ…っく…」
「ユウくんは私のものだよね。ほら、ちゃんとユウくんも言って?」
少しだけ首を緩められて、僕は必死に息を吸い込んだ。
「ぼ…っくぅ……は、しの、しのっ…篠崎さんのっ、ものです」
「ユウくんは誰のもの?」
「篠崎さんっの、ものです」
「ユウくんは誰のもの?」
「篠崎さんの……っ、ものです」
「そう、ユウくんは何も考えなくていいんだよ。ユウくんは私のものなんだから。私の言うことだけ聞いていればいいの。簡単でしょう?」
頭のなかがどろどろに溶かされていく。
呼吸がまともにできなくて、足先、指先から体の感覚が薄れていくようだった。
「ユウくん」
いつのまにかまつげの本数まで数えられるほど、篠崎さんの顔が近くにあった。
キスはまだだめって言われたのに、キスしてくれるんじゃないかと思った。
篠崎さんの唇がぼくの右目にぶつかって、思わず閉じた瞼に柔らかいものがふれた。
そのまま、するりと瞼を撫でられる。篠崎さんの舌で、涙が、拭われていく。
「目をあけなさい」
舌を突き出したままの篠崎さんの顔が目の前にあった。
赤い舌がぺろりと唇を舐める。ぼくの涙でわずかに濡れた篠崎さんの唇。
意識が朦朧と薄れていた全身にぞくぞくっと震えがはしる。
「大丈夫だよ、ユウくんはまだ耐えられる」
今まで聞いたことがないくらいとてつもなく甘くて優しい声がぼくの体を包みこむ。
「私が言うんだからまちがいないよ。ね?」
「……はぁ、……い」
「起き上がって私の膝の上にきなさい。お返事は?」
「はぃ…」
こくりと、まるで魔法に操られたみたいに頷いた。
絶対無理だと思っていたさっきまでの感情が、消えている。
そうだ、僕は篠崎さんのものだから。篠崎さんの言う通りにするしかないんだ。
僕は正座した篠崎さんの膝の上に、寝転がるみたいにうつ伏せになった。
ほんの一瞬、篠崎さんの手がまるで褒めるみたいに僕の頭を撫でた気がした。
「平手で仕上げのお仕置きだよ」
パシィイインッ!!!
「うっ……」
肌が裂けるみたいに痛かったベルトに対して、篠崎さんの手のひらで叩かれると弾けるみたいな痛みが走る。
右のふくらみ、左のふくらみ、パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と連続して交互に打たれて、びくんびくんと体が跳ねる。
「あぁぁんっっ……ぅうっ……!!!」
「動かない」
僕の体を篠崎さんの左腕が抱えこむようにして膝の上に押さえつけた。
「ユウくんは何でお仕置き受けてるの?」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と叩く手を止めずに、尋ねられる。
「ぃぃっ……ぁぁっっ」
ベルトで叩かれて腫れたお尻には、手のひらなのに、前と比べ物にならないくらい痛い。
「ユウくん。答えられるまで叩くよ」
バッチィィンッ!!バッチィィンッ!!バッチィィンッ!!とお尻の真ん中を思い切り叩かれて「あぁぁぁっごめ、なさぁいっ」と泣く。
答えなきゃ、答えなきゃ。
必死に考えている間も、パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と平手が落ちる。
「うぅぅ……しのさきさんっ、に内緒で、かってなこと……お店に行って、知らない人と、話しをした、から……っ」
「だいたい、何でユウくんはあの店がわかったの?」
疑うような声で尋ねられて、そうだよなと思う。篠崎さんにしてみれば、僕がいきなりお店に現れたのだ。
一瞬、言葉を詰まらせると、急かすようにパシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と叩かれる。
「ししししのさき、さんの、携帯の……メールを、見て……っ」
平手がやんだことが、逆にぼくを不安にさせた。
「本当に悪い子だね」
太ももに近いお尻の下のほうを、ぎゅぅぅうっ!!!と、つねられて「ぃたぃぃっぃたぃぃぃぃっぁぁぁあっ!!!!」と足をばたつかせたら、今度は、
「足、動かさない」
と、つねられたところと同じところを、バッチィィィン!バッチィィィン!叩かれた。
「……ひぃぃっ……!!!!」
「じゃあマンションの寝室で別れた時には、もうすでに私を追いかけるつもりで隠してたんだね。イベントに参加するなんてダメだってはっきり言ったのにも関わらず」
「ごめんなさぁぃぃ……っ」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と無言で平手だけが降ってくる。
重ねられる痛みに、びくびくと体が震える。
必死に我慢しようとしていても、つい両足をばたつかせてしまい、そのたびに「ぃっ!!!!」と、思わず息が詰まるような平手がお尻の真ん中に振り下ろされた。
「お店ではオーナーと話してただけで他に何もしてない?」
腫れ上がってびりびりと熱をもったお尻を、ぺたぺたと篠崎さんの手のひらがなでる。
「オーナーと、その隣にいた男の人、と少しだけ……っ話しただけ、です。ず、っと、ステージで、ショーが、やってたから」
この体勢だと篠崎さんの表情が見えなくて不安になる。
お尻に乗せられた手がいつ振り上げられるのかビクビクしていると、
「本当に、ユウくんが余計なことに巻きこまれなくてよかった」
と、篠崎さんの声がポツリと降ってくる。
その瞬間、ギュッと胸を締め付けられる気分で、「ごめんなさぃ……」と、僕はつぶやいた。
ぽろ、っと熱い涙がこぼれる。
ごめんなさい、篠崎さん。
「もう私の言いつけを破って、勝手なことはしないね?」
篠崎さんの手のひらが、ぼくのお尻をゆっくりと撫でる。
「はぃぃ……っっ、もぅ、しませんんっ……」
「はぁ……こんなの二度と許さないよ」
重たいため息を吐いて、篠崎さんが言う。
お尻を撫でていた手が、振り上げられたのがわかった。
「あぁぁんっ!!!!……んんっっっ!!……あぁあぁんっ!!!」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と、三回お尻をすくいあげるように叩かれて、
「はい。お仕置き、おしまい」
と、篠崎さんがささやくように言った。
「しのさきさんっっっ」
僕は篠崎さんの膝の上から飛び上がるように起き上がって、そのまま篠崎さんに真正面から抱きつく。
「あぁぁぁんっ……しのさきさんんんっ……ごめんなさぁいぃっっ」
「ユウくん。いい子いい子」
泣きじゃくるぼくの背中を篠崎さんがゆっくりと撫でる。
さんざんぼくのお尻を叩いた手で優しくあやすように背中を撫でてくれた。
篠崎さんの白いワイシャツにぼくの涙のあとがしっとりと広がっていく。
僕は頭をあげて篠崎さんを見上げる。
「ん?」
「キス、したいです」
ぼくがそう口にすると篠崎さんは目を細めて微笑んだ。
「ユウくんからおねだりしてくれるなんて嬉しいな」
そう言って頭を撫でられて高鳴った気持ちは、
「でも、まだしてあげられない」
という声に打ちおられた。
「ぇ…っ?」
「私だって、ユウくんのおねだりにいっぱい答えて、いっぱい気持ちよくさせてあげたいけど、その前に済ませておかなきゃいけないことがあるからね」
頭を撫でていた篠崎さんの手が止まり、目つきが変わる。
もしかすると、怒っている…? そう感じたのは間違いではなかった。
「私の言いつけを破って、夜中に家を抜け出して、SMパーティにきて、M用の腕輪をつけて、オーナーに体を触らせて、ユウくんはどれだけ悪い子だったのかな?」
「でも、それ、は……っ」
しゃべりかけた僕の口の中に、いきなり篠崎さんの指が突っこまれ、同時に強い力で下顎を掴まれ口がうごかせなくなった。
「一人で深夜に外を出歩くだけでも危ないのに、ましてはあんな店に一人でふらふらいくなんて。オーナーにつかまったのはまだ良かったのかもしれない。そうじゃないと誰に何されていたかわかったもんじゃないし。まあ、でもたとえオーナーが相手だろうとユウくんが僕以外の調教師と言葉を交わして、体を触らせていたことはただで許せることじゃないけどね」
「……っ…ぅっ…っ」
口を掴まれてて一言も発することができない僕は、篠崎さんの言うことをただ聞いていることしかできなかった。
篠崎さんは、たぶん、今までで1番怒っている。
怒られるようなことをした自覚はあった。
でも昨日のことはもうなかったことになるじゃないかと、期待していた……。
「ユウくんは、痛いお仕置きは嫌なんだよね?」
口を掴まれたまま動かせる範囲で小刻みに頷く。
「でもね、私はユウくんのことが大好きだからお仕置きするんだよ。わかるかな?」
あんまり、分からない。
だって、痛いお仕置きは嫌だ。
前にされたお仕置きは、膝の上でお尻を叩かれて、篠崎さんはこわいし、痛いし、それに恥ずかしかった。
「あんまり、分からないか」
そう言われて心臓がどくんと跳ねる。篠崎さんは時々、僕の心を読んでいるようだ。
「私はね、ユウくんが大好きだからユウくんの全部を管理したい。ユウくんは私のものなんだから、言いつけを破ったら、それはお仕置きを受けないと。お仕置きが終わらないと、私もユウくんを甘やかさないよ。ユウくんは私といっぱいキスしたいんだよね。気持ちいいこともいっぱいしたいよね」
そんなのしたいに決まってる。
篠崎さんが、やっと顎をつかんでいた力を緩め、口から指を引き抜いた。
篠崎さんの指にべっとりぼくの唾液がついている。
「じゃあ、お仕置き受けるね」
許されてる返事は一つしかない。
「はぃ……」 僕はがくがくする顎を動かしてそう答えた。
自分の家に、篠崎さんがいること自体が異質であるのに、今からお仕置きが始まると思うと、とたんに居心地が悪くそわそわと落ち着かない。
「ジャケットと、下、全部脱いで」
篠崎さんの方が落ち着いた声で、僕にそう命令した。
未だに篠崎さんは縄を片手に掴んだままで、僕と篠崎さんは紫の縄で繋がっている。
僕はぐずぐすしたい気持ちもありながら、篠崎さんに見つめられてゆっくりジャケットから腕を抜き、ズボンと下着を下ろした。
「鏡の前で、四つん這い。ちゃんと顔上げて、鏡を見てなさい」
冷たいフローリングに膝をつく。
下半身をひやっとした感覚がおそった。
目の前には鏡。
ワイシャツ一枚きた姿で四つん這いになった自分と目があって、一気に情けなくなってもう泣きそうだ。
「今回のことはね、本当ならお仕置きのための道具を使いたいんだけど、今日はないから……ベルトにするね」
お仕置きのための道具……?
あんまり聞きたくないような言葉があったものの、今は「ベルトにするね」の方が問題だった。
鏡にうつる篠崎さんがその細身のズボンから、カチャリと金具を外してベルトをするっと引き抜いた。
黒い革のベルト。
「そ、それで……た、叩くんですか」
自分の声が震えている。篠崎さんは左手首に首輪につながった縄をまき、両手で二つ折りにしたベルトをピン、と引っ張った。
「そうだよ。ベルトは相当痛いから、いいお仕置きになるね」
ひやっと寒気が走る。何がどれくらい痛いなんて僕はまだ知らない。
前に叩かれた時は、篠崎さんの手のひらだった。ただ手よりベルトの方が痛いのは簡単に想像がつく。
床についた両手足がちいさく震えていた。
「顔下げないよ」
「……ウッ……」
首輪の縄を上に引っ張られて、強制的に頭を持ち上げられた。
同時に首が絞まって息が苦しくなった。
「じゃあ、まずはこれで30回」
篠崎さんがするっと、ベルトを撫でるように手に滑らせて右手で握り直す。
それから、大きく右腕を回すようにベルトを振り上げた。
ひゅんっと空気を切る音と共にベルトが綺麗に弧を描いてしなっているのが見えた。その瞬間、バシィィィンンッッ!!と大きな音とともに、激痛が走る。
「ひっっ……ぃっっっ!!!!!!!」
頭が真っ白になって、目の前がチカチカしたような衝撃。
ぶわっとお尻に痛みが広がって、一気に熱を持つ。
手のひらなんて比べ物にならないくらいの痛み。
すでに涙の膜がはった両目でも、篠崎さんがまた手を振り上げるのが見えた。
ヒュンッバシィィィンンッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「ひぃぁぁぁああっっっ!!!ぁぁぁああああっっ!!!ああぁぁっっあっ!!!!!」
悲鳴が喉を破ってこぼれる。
痛みで、
頭がおかしくなりそうだ。
鏡にうつる自分な顔が歪んで見えた。
後ろで、振り上げられる腕が怖い。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁぁあああっっ!!!いやぁっっっぁあああっ!!!ひぃぃっっっ!!!!!」
連続して与えられる痛みに耐えきれずに僕は、床の上にうずくまるようにちいさくなった。
お尻が熱い。熱い。じんじん痛みが広がっていく。
「ユウくん、四つん這いはどうしたの。元に戻りなさい」
冷たい声。
「ぅぅっ……ごめ、なさ………ぃっ……」
こわい、いたい。重ねた手の上にぼろぼろっと涙がこぼれた。
「ユウくん? 私の言ったことが聞こえなかった?」
「ごめんなさ、ぃ…ごめんなさぃっ…お尻っ…痛くて……」
「まだ半分も終わってないよ。ほら、お尻あげる」
篠崎さんが僕の傍に膝をついたかと思うと、パチンッパチンッと平手でお尻をすくい上げるように叩かれた。
「ひぃっっ……!ぃっっっ!!!!」
じんじんと痛むお尻には、平手ですら息がつまるような痛みが走った。
僕は、泣きながらなんとかお尻をあげた。
「次に四つん這い崩したらもう一回はじめからにするからね」
篠崎さんが立ち上がりまたベルトを構えながら、恐ろしいことを告げる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!!!!
「ぁぁああああっ、んん…!!!」
熱いお尻に、熱い塊が飛んできて、びりびりと強い痛みが広がっていく。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「ひぃぁぁあああっっ!!!! ぁぁぁっあああああっっ!!!!ぅぅっっんんっっつ!!!!!いいぁっああああぅっっ!!!! 」
痛い、痛い、痛い。耐えられない、でも、耐えないと。
数を増やされるのはいやだ。
何回、叩かれたかもうわからない。まるで永遠に続くような痛みに、頭が朦朧とした。
「ユウくん」
気がついたら打撃が止んでいて、ただ僕が肩で大きく息をしながら漏らす、はあはあと荒い息と、篠崎さんの静かな声だけが部屋に漂っていた。
「お尻がさがってる。顔もさげて鏡を見てないし、もう一回やりなおしだね」
「そ、そん……、な……っ」
ぽろ、と大粒の涙が頬を伝っていく。
涙で霞んだ両目を瞬いて、鏡ごしに篠崎さんを懇願するように見つめる。
「口答えするなら、もっと厳しい罰にしようか? 机に縛って百叩きでもいいね」
「や……っ、や、です……っ!!!!!!」
勢いよく首を振る僕に、篠崎さんがふっと肩で息をつく。
「ユウくんこういうときは、いやいやする前に、すぐに謝りなさい」
ほんの少しだけ、優しい声。
「ごごごめんなさいごめんなさいっ!!!」
「うん。謝れたから30回をもう一回初めからだね」
30回のやり直しは、無かったことにはならないんだ……。
「しのさきさん……」
「はい、しっかりお尻突き出して、お仕置き受けてる自分の姿をちゃんと見ていなさい」
ちゃんと篠崎さんの言うことを聞かないと、そういう気持ちだけはあるんだけど。
篠崎さんがベルトを勢いよく振り上げて、僕に向かって真っ直ぐに振り下ろす。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁっ、う……いたぁぁっ、ぁ……あぁぁぁんっ……いぃあああっんっ」
びりびりと熱くて痛いベルトが降ってくると体が言うことを聞かないんだ。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いたぁぁあっ……あぁぁぁっんんっ……あっぁぁあっ……いたぁいいたぁいっ」
痛い、痛い、痛くて、どうしてもベルトからお尻が逃げる。
でも……お尻が下がってしまったことに、今度はすぐに自分で気がついた。
「うぅ……ごめんなさい。たいせい、崩して、ごめんなさぁぁい……っ」
鏡ごしの篠崎さんを涙目で必死に見つめる。
「はぁ……体勢崩すのは悪い子だけど、ちゃんと自分から謝れて偉いね。仕方がない。四つん這いじゃユウくん永遠に終わりそうにないね、仰向けになりなさい」
篠崎さんはほんの少し眉を下げて困ったような顔でそう言う。
「……ぇ…」
「仰向け。はい、すぐに動く」
びりびりと痛むお尻を感じながら、そろそろと体の向きを変えてゆっくりと床に仰向けの体勢になる。
なぜ仰向けと指示されたのかわからないまま、両足を立ててお尻はわずかに浮かせていると、その足元に篠崎さんが座りこんだ。
「道具のお仕置きは初めてだから特別だよ。2回目からはないからね」
篠崎さんがそう言いながら新たにカバンから取り出した真っ赤な縄で僕の両足首をギュッとまとめて縛った。そうして両足を高く持ち上げる。
お尻が晒されて、そこでやっとなんで仰向けにさせられたのか分かった気がした。
僕の傍らに膝立ちになった篠崎さんが左手で僕の両足を持ち上げたまま、右手でベルトを振りかぶる姿まで、目を逸らしようがない。
ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いぃぃいいっ!!!!」
持ち上げられたお尻にベルトが振り下ろされる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「あぁぁぁんんっ!!!!いたぁあぁっ!!!あっぁぁんんっ!!!!」
この体勢では、絶対にベルトから逃れられない。それに、少し恥ずかしかった。火照った頬に涙がとめどなく流れる。
ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!! ヒュンッバシィィィンンッッ!!
「いぁぁああっあんっ!!!!ごめんなさぁいっ!!!ごめんなさぁああいいっ!!!!!」
わずかに身をよじっても、すぐに両足を掴んだ篠崎さんの手で体をまっすぐに直されて容赦無く次のベルトが振り下ろされる。
下から見上げる篠崎さんの横顔は冷たい無表情のままで怖い。
「あと、さんかい」
ヒュンッッ…バシッィィィンンッッ!!! ヒュンッ…バチィィィンンッッ!!! 「あっぁぁああっぁぁああっっ!!!!!い、ぁぁああっっっ!!!!!」
ヒュンッ、バシィイインンッッ!!! 「あああああぁっぁぁぁっっ…!!!!!!!!!」
全身に鋭い痛みを受け、その瞬間持ち上げられていた両足が解放されて僕は横向きに倒れる。
ぼろぼろと涙が流れて頬と床を濡らしていく。
「はぁっ、ぁっ、…っ、ぃっ」
叫び声をあげすぎて、喉の奥までひりひりと痛む。
荒くなった息が苦しい。
少し身体が揺れるだけで、真っ赤に腫れているだろうお尻に痛みが走った。
両足首を縛っていた縄がほどかれる。
「ユウくん、立ってこちらにお尻を向けなさい」
篠崎さんの声が上から降ってきた。
「うぅっ……っ」
腕にも足にも力が入らない。
だけど、篠崎さんの声がまだ冷たい。
多分、まだ怒っているんだ。そう思うと、心臓がぎゅっとしめつけられるようで、なんとか両手両足で踏ん張って、ふらふらと立ち上がった。
頭がくらくらする。
そういえば前のお仕置きのときは……、尻を叩かれたあとしばらく壁にむかって立たされたのだった。
今日もまた、そうさせられるのかと思ったが、僕の後ろに立った篠崎さんは、 「少し頭をさげて」 と、ぼくに命じた。
ゆっくりと頭をさげる。
自然とお尻が突き出されて、肌が張ってぴりぴりと痛む。
そのとき、すっとお尻を撫でられて 「ひぃ、っ……」 と、声がもれる。
強い力で触られているわけではないが、触れられるだけで痛みがはしる。
「こら。腰、引かない」
片手でぎゅっと腰をつかまれて、もう片方の手で、するすると撫でられ続ける。
「うぅ……っ、……ぃ、っ」
「これくらい我慢しなさい。赤くなってるけど、血もでてないよ」
足ががくがくと震える僕に、篠崎さんは言った。
そんなことを言われたって、こんなふうに叩かれたのもはじめてなのに。
ベルトだって最終的に何回打たれたのかわからない。
新たにじわっと溢れた涙が両目を覆った。
「それじゃあ、ユウくん」
しばらく、ぼくのお尻を撫でていた篠崎さんの手がとまって、ぼくから離れていく足音がした。
「私の膝の上に来なさい」
その言葉に、目の前が真っ暗になった。
「え……っ」
「ベルトは30回って言ったんだよね。お仕置きは、まだ終わりじゃないよ」
振り返ると篠崎さんは、床に膝をおって座っていて、片手で「ほら」と、膝をたたいた。
「し、しのっさ、きさ…、も、もうっ……むり、ぃっ…ぃ…っ…です…っ…」
あぁ、こんなふうに根を上げて、きっと、怒られる。
口答えしちゃダメだって、さっき言われた。
怒られるのは嫌だ。 これ以上、怒らせたくない。
でも、本当にもうお尻は限界だ。
こんな程度、我慢できない僕は……。
「ごめ、な…さ、ぃ……っ、ごめんな、さぃっ」
ぼくは篠崎さんの前に、うずくまって頭をさげた。
はぁ、と篠崎さんが大きく息を吐いた。 ……怒ってる? ……呆れてる?
「うっ……」
肩を思いきり押されて、そのまま身体が勢いよく後ろへ押し倒された。
床にぶつかったお尻に激痛がはしって顔を歪めたぼくは、まばたきをするうちに仰向けになって天井を見上げていた。
その視界をふさぐように篠崎さんが覆いかぶさってきて、ぼくの顔をのぞきこむ。
「ユウくんは誰のもの?」
篠崎さんが片手で首輪についた縄を真上に引っ張りあげた。
首だけが上に持ち上げられて、ぎゅぅっと喉元が圧迫されて息ができない。
「うぅっ…………ぇっ…っく…」
「ユウくんは私のものだよね。ほら、ちゃんとユウくんも言って?」
少しだけ首を緩められて、僕は必死に息を吸い込んだ。
「ぼ…っくぅ……は、しの、しのっ…篠崎さんのっ、ものです」
「ユウくんは誰のもの?」
「篠崎さんっの、ものです」
「ユウくんは誰のもの?」
「篠崎さんの……っ、ものです」
「そう、ユウくんは何も考えなくていいんだよ。ユウくんは私のものなんだから。私の言うことだけ聞いていればいいの。簡単でしょう?」
頭のなかがどろどろに溶かされていく。
呼吸がまともにできなくて、足先、指先から体の感覚が薄れていくようだった。
「ユウくん」
いつのまにかまつげの本数まで数えられるほど、篠崎さんの顔が近くにあった。
キスはまだだめって言われたのに、キスしてくれるんじゃないかと思った。
篠崎さんの唇がぼくの右目にぶつかって、思わず閉じた瞼に柔らかいものがふれた。
そのまま、するりと瞼を撫でられる。篠崎さんの舌で、涙が、拭われていく。
「目をあけなさい」
舌を突き出したままの篠崎さんの顔が目の前にあった。
赤い舌がぺろりと唇を舐める。ぼくの涙でわずかに濡れた篠崎さんの唇。
意識が朦朧と薄れていた全身にぞくぞくっと震えがはしる。
「大丈夫だよ、ユウくんはまだ耐えられる」
今まで聞いたことがないくらいとてつもなく甘くて優しい声がぼくの体を包みこむ。
「私が言うんだからまちがいないよ。ね?」
「……はぁ、……い」
「起き上がって私の膝の上にきなさい。お返事は?」
「はぃ…」
こくりと、まるで魔法に操られたみたいに頷いた。
絶対無理だと思っていたさっきまでの感情が、消えている。
そうだ、僕は篠崎さんのものだから。篠崎さんの言う通りにするしかないんだ。
僕は正座した篠崎さんの膝の上に、寝転がるみたいにうつ伏せになった。
ほんの一瞬、篠崎さんの手がまるで褒めるみたいに僕の頭を撫でた気がした。
「平手で仕上げのお仕置きだよ」
パシィイインッ!!!
「うっ……」
肌が裂けるみたいに痛かったベルトに対して、篠崎さんの手のひらで叩かれると弾けるみたいな痛みが走る。
右のふくらみ、左のふくらみ、パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と連続して交互に打たれて、びくんびくんと体が跳ねる。
「あぁぁんっっ……ぅうっ……!!!」
「動かない」
僕の体を篠崎さんの左腕が抱えこむようにして膝の上に押さえつけた。
「ユウくんは何でお仕置き受けてるの?」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と叩く手を止めずに、尋ねられる。
「ぃぃっ……ぁぁっっ」
ベルトで叩かれて腫れたお尻には、手のひらなのに、前と比べ物にならないくらい痛い。
「ユウくん。答えられるまで叩くよ」
バッチィィンッ!!バッチィィンッ!!バッチィィンッ!!とお尻の真ん中を思い切り叩かれて「あぁぁぁっごめ、なさぁいっ」と泣く。
答えなきゃ、答えなきゃ。
必死に考えている間も、パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と平手が落ちる。
「うぅぅ……しのさきさんっ、に内緒で、かってなこと……お店に行って、知らない人と、話しをした、から……っ」
「だいたい、何でユウくんはあの店がわかったの?」
疑うような声で尋ねられて、そうだよなと思う。篠崎さんにしてみれば、僕がいきなりお店に現れたのだ。
一瞬、言葉を詰まらせると、急かすようにパシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と叩かれる。
「ししししのさき、さんの、携帯の……メールを、見て……っ」
平手がやんだことが、逆にぼくを不安にさせた。
「本当に悪い子だね」
太ももに近いお尻の下のほうを、ぎゅぅぅうっ!!!と、つねられて「ぃたぃぃっぃたぃぃぃぃっぁぁぁあっ!!!!」と足をばたつかせたら、今度は、
「足、動かさない」
と、つねられたところと同じところを、バッチィィィン!バッチィィィン!叩かれた。
「……ひぃぃっ……!!!!」
「じゃあマンションの寝室で別れた時には、もうすでに私を追いかけるつもりで隠してたんだね。イベントに参加するなんてダメだってはっきり言ったのにも関わらず」
「ごめんなさぁぃぃ……っ」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と無言で平手だけが降ってくる。
重ねられる痛みに、びくびくと体が震える。
必死に我慢しようとしていても、つい両足をばたつかせてしまい、そのたびに「ぃっ!!!!」と、思わず息が詰まるような平手がお尻の真ん中に振り下ろされた。
「お店ではオーナーと話してただけで他に何もしてない?」
腫れ上がってびりびりと熱をもったお尻を、ぺたぺたと篠崎さんの手のひらがなでる。
「オーナーと、その隣にいた男の人、と少しだけ……っ話しただけ、です。ず、っと、ステージで、ショーが、やってたから」
この体勢だと篠崎さんの表情が見えなくて不安になる。
お尻に乗せられた手がいつ振り上げられるのかビクビクしていると、
「本当に、ユウくんが余計なことに巻きこまれなくてよかった」
と、篠崎さんの声がポツリと降ってくる。
その瞬間、ギュッと胸を締め付けられる気分で、「ごめんなさぃ……」と、僕はつぶやいた。
ぽろ、っと熱い涙がこぼれる。
ごめんなさい、篠崎さん。
「もう私の言いつけを破って、勝手なことはしないね?」
篠崎さんの手のひらが、ぼくのお尻をゆっくりと撫でる。
「はぃぃ……っっ、もぅ、しませんんっ……」
「はぁ……こんなの二度と許さないよ」
重たいため息を吐いて、篠崎さんが言う。
お尻を撫でていた手が、振り上げられたのがわかった。
「あぁぁんっ!!!!……んんっっっ!!……あぁあぁんっ!!!」
パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!パシィイインッ!!!と、三回お尻をすくいあげるように叩かれて、
「はい。お仕置き、おしまい」
と、篠崎さんがささやくように言った。
「しのさきさんっっっ」
僕は篠崎さんの膝の上から飛び上がるように起き上がって、そのまま篠崎さんに真正面から抱きつく。
「あぁぁぁんっ……しのさきさんんんっ……ごめんなさぁいぃっっ」
「ユウくん。いい子いい子」
泣きじゃくるぼくの背中を篠崎さんがゆっくりと撫でる。
さんざんぼくのお尻を叩いた手で優しくあやすように背中を撫でてくれた。
篠崎さんの白いワイシャツにぼくの涙のあとがしっとりと広がっていく。
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漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
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漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
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