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仮交際始めました

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 ブルブルッと大きな体が震えて、ヘソの辺りにあったかい濡れた感触がビャアッと広がる。
 俺は腰を丸めるみたいにして腹の方を覗き込んだ。
 独特のやらしい匂いで頭がくらくらする。
 握られてるモノの先からは、まだ白い液体がトロトロ吐き出されてた……。
 渚、俺の匂いとチュウでオナニーしてイッたの……?
 嬉しくてじっと顔を観察してしまう。
 犬顔だけど、目え細めてトローンとしてて、気持ち良さそうなのはわかるかも……。
 それにしても驚く程の量の精液だった。人間と違って粘度があんまり無くて、俺の腹のくぼみからこぼれてラグまで汚しちまってる。薄くて沢山出るんだな……。
 なんか、秘密を知ったような感じでちょっと嬉しい。
 意識がフワフワしながら、下腹にまた熱が集まっていくのを感じる。
 俺はまだ出し続けながらハアハアしてる渚の両腕を掴んで、ねだるみたいに顔を見上げた。
「ごめ……俺、また勃っちゃったんだけど……」
 可愛い犬顔がキュウンと高い呻きを上げる。
「新手の拷問受けてるみたい……」
 あは……そうかもしれねぇ……。
 大きな手が俺の腹の上の精液を掬い取って、その手でまた俺のドロドロのダメ息子を握り込む。
 嬉しい。またしてもらえるんだ……。
 相手の体の下で太腿を浮かせ、今度は自分からも擦り付けるように腰を躍らせた。
「はァっ……、渚の手、好きっ……」
 目の前の渚が目をまん丸にして呻く。
「ちょっ、流石にそれは反則……入れないで我慢してるんだからあんまり煽らないで……っ」
 ――結局俺と渚は、そのままもう二回、同じことを繰り返す羽目になった。


 余りにもエッチな気分が終わらなくて、最後は流石に、俺が抑制剤を容量以上に呑んで二人ともどうにか正気に戻った。
 ようやく素面に戻ってみて、ほんとアルファとオメガって組み合わせはとんでもねぇんだなってことがよく分かった……分かり過ぎるほど。
 だって俺たち、ほかに家族もいるマンションの一室で盛りまくってた訳で。
 当然多分匂いも声も漏れてたと思う。
 頭バカになりすぎて、そんなことすら気付けない、考えられねぇなんて。
 思い出すとちょっともう……色々死にたい……。
「大丈夫だよ、弟だって夜通し子作りしてるなっていうのみんな何となく分かってたけど誰も何とも思ってなかったし」
 正気になった途端に羞恥心に襲われ、床で悶絶してうずくまってしまった俺に、犬塚さんは言った。
 けど、結婚してる同士ならともかく俺たち本交際すらまだなのに、こんな爛れちゃっていいのかよ!? いやよくねぇよ……。
「取り敢えず俺、薬効いてる内に帰んね……」
 いつまでもうずくまってても仕方がねぇから、俺はむくりと起きだして服を整えた。
「大丈夫? 送っていこうか?」
「いや、また発情したら帰り困るし」
「そう……」
 残念そうに言われたけど、正直一人になってちゃんと冷静に考えたかったんだ。
 ここまでヤッちまったけど、一応次回までにハッキリ答えを出さなきゃいけないわけで。
 だって、エッチしたいって気持ちと、好きって気持ちと、あと結婚できるかっていうのはこう、全部別問題じゃねぇの……?
 あれ、違う……? やっぱ俺いま、頭働いてねぇかも。
 ――あっ、あと妊娠出来るってことも今度こそ言っとかないとダメだよな……。忘れてた。
 何だかもう俺、ほんと……人として色々ダメだ。
 

 マンションのエントランスまででどうにか犬塚さんを押しとどめて、俺は駅までの帰路についた。
 すっかり日が傾いて、ごちゃっとした都会の街がオレンジ色の光に染まっている。
 さてと、駅はどっちなんだっけか。
 降りたこともねぇ駅なもんだから、一人だとどっちに行ったらいいのかサッパリ分からない。
 頭バカになってる上、見事に俺の方向音痴がまた発揮されちまったぜー……。
 一応スマホでマップアプリを開く。うーん、相変わらず見方がよく分からん。
 ウロウロ路地を迷ってる内に、ようやく色々考えられる程度には頭が働いてきた。
 俺……やっぱり犬塚さんと本交際するしか答えはねぇと思う。
 相手は次回までって言ってはくれてたけど、家帰ったら速攻で電話しよう。
 だって冷静になって犬塚さんとのやりとりを色々思い出してみるとさ、俺、どう考えても犬塚さんのこと好きっぽいじゃん。
 犬としての彼は可愛くて好きだしさ。
 人間の彼ももちろんカッコよくて好きだ。
 産むことに関しては、あんな可愛い子犬が産まれたら嬉しいし、産むためにしなきゃならねぇことも……今まではメッチャクチャ抵抗があったけど、今日の感じだと多分、流れで出来ちまいそうな予感がする。
 ていうかそれ以外にも、もう色んな意味で、生活の中で彼がいなかったらきっと寂しくて仕方ねぇしさ……。
 経済格差とか種や常識の壁とか色々不安はあるけど。
 犬塚さんとなら、越えられるんじゃねぇかなって……なんだかそんな感じがして。
 あとの問題は……「俺、ほんとは産めるよ。最初は女の子に産んで欲しかっただけ」って言わなきゃって事だな。
 嘘ついてたの怒るかな……。
 それとも、ちょっとは喜んでくれるかな……。
 どこもかしこも同じように見える雑居ビルの並んだ景色を眺めながらぐるぐる歩いて考えにくれてると、道路の真ん中に佇んでいた人物とぶつかりそうになった。
「わっ、すみません」
 謝って避ける。
 ダメだ、ちゃんと前見て歩かねえと――。
 会釈して相手の横をすれ違おうとした瞬間、俺はガッとコートの上腕を強く掴まれていた。 
「!?」
 驚いて振り向く。
 ーー俺の腕を捕らえていたのは、腰まであるフワッフワに波打った金髪の、見たこともない美少女だった。
 まるで人形のようにも見える陶磁器みたいな肌と、ちょっと勝気そうな睫毛ばっさばさの黒目がちな大きな瞳。
 加えて、上腕にギュッと押し付けられてる、推定Gカップ以上はあるニット越しの爆乳。
 ミニスカートから伸びたすらりとした脚……。
 化粧の感じはギャルっぽいんだけど、華奢で清楚な雰囲気。
 やべえ……何この、理想の女の子が服着て歩いてる感。
 俺発情しすぎで幻覚でも見てるのか?
 異様な事態に声も出ないでいると、目の前の彼女はにこっと笑って俺に話しかけてきた。
「鳩羽湊さんですよね?」
 突然名前を呼ばれ、唖然として頷く。
 すると、彼女は張り付いたような笑顔のまま言葉を続けた。
「私、犬塚夏美と言います。ちょっとそのあたりの喫茶店とかで、お話しさせて頂いてもいいですか?」
 声までメチャクチャ可愛い。鈴が鳴るみてぇな感じ。……って、初めて見る顔なのに、何でこの子は俺の名前知ってんだ?
 今なんて名乗ったっけ? いぬづか……なつみ?
 ごく最近どこかで聞いた名前だぞ、と一瞬考えて、思い当たった瞬間にさーっと全身から血の気が引いた。
 さっき俺を殺そうとした(?)犬塚さんの従姉妹じゃねーか……。
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