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第二章 波乱の軍事訓練前半戦
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しおりを挟む時間は午前六時に差し掛かる。集合時間の少し前なので、歩道には同じように迷彩服に身を包んだ生徒たちがちらほらと現れ始めた。
他の生徒たちに混ざってしばらく進んで行くと、木々の間から広い運動場が見えてくる。そこには今までどこに隠れていたのか不思議に思うほど、迷彩服を着た生徒たちで溢れていた。
迷彩服の集団の中でも呉宇軒の鮮やかな赤い髪は目立つので、女子たちはすぐに彼の存在に気が付いた。隣に立つ李浩然にも自然と目が行き、美男二人の登場に可愛らしい悲鳴が上がる。
「ほら、一緒だと凄い騒ぎになった」
言った通りになっただろ?と呉宇軒は隣を歩く幼馴染に得意げな顔で目配せした。
呼びかけてくる女の子たちに笑顔で手を振る呉宇軒とは対照的に、李浩然は愛想の欠片もない仏頂面だ。呉宇軒は幼馴染を肘で小突いて自分の真似をするよう促したが、彼は熱い視線を向ける彼女たちには微塵も興味がないらしく一瞥すらしない。
その時、遠巻きに見ていた女子たちの間から見慣れた顔が人を引きずりながら走ってきた。
「お前、先に行ったんじゃなかったのかよ!」
半分眠っていそうな王茗を引っ張って呂子星が駆け寄ってくる。夢現にこっくりと船を漕ぐ王茗の頭は、柔らかな癖っ毛が爆発したようにぐちゃぐちゃになっていた。元々が癖毛のせいか、寝癖と呼ぶには酷すぎる有り様に呉宇軒はうわぁ……と顔を引き攣らせた。
「浩然と散歩してたんだよ。それにしてもひでぇ頭だな。コイツどうしたんだ?」
「ギリギリまで起きないから無理矢理連れてきた。どうしようもねぇよ。歯磨きながら寝てやがったんだぞ」
苛立たしげな口振りから察するに、散々手を尽くした後のようだ。おかんむりな呂子星に頭を小突かれ、王茗はふがっと謎の呻き声を出した。腕を掴まれているお陰で辛うじて立っているが、手を離すと今にも倒れそうだ。
半分寝ている王茗は指で軽く押すとゆらゆら揺れて戻ってくる。呉宇軒が面白がって何度もつつき回していると、彼はようやく目を覚ました。
「あれ!? 宇軒いつの間に来たんだ? ここはどこ?」
「まだ寝ぼけてんのかこの馬鹿!」
支える役目を終えた呂子星に思い切り引っ叩かれ、王茗はむすっとして頭をさする。まだ眠たいのか、その目は開き切らずしょぼしょぼしていた。あまりにもだらしのないその姿に、朝が弱いにも程があると呉宇軒は苦笑いする。
「相棒のクマちゃんは持ってきたのか?」
「俺の鞄入んなくて、子星兄が鞄に入れてくれた」
ご機嫌な顔でそう言った王茗の鞄は、はち切れそうなくらいパンパンになっていた。
呉宇軒は事情を知らない幼馴染に王茗の寝る時のお供だよと教えてやる。それから早速甘やかしている呂子星をニヤニヤしながら見ると、照れ隠しかふんっとそっぽを向かれた。
「桑陽はどうした?」
李浩然に尋ねられ、呂子星は不機嫌顔を和らげると前の方を指差して答えた。
「あいつならもう並んでる。やっとこの馬鹿も起きたことだし、俺たちも行こう」
どうやら王茗を起こすために連れ回していたらしい。呂子星はジロリと王茗を睨んだが、当の本人は全く堪えた様子もなく呑気に笑顔を返した。
一行は謝桑陽が居る前の方へ行こうと歩き出したが、ただ歩いているだけで女子がきゃあきゃあ言いながら道を開けてくれる。その声に反応して振り返った男子が物珍しそうに見てくるのもいつもの事だ。近寄り難い雰囲気を纏う李浩然が一緒だと度々起こる現象だった。
女の子たちが遠巻きにするのを王茗は面白そうに見ていたが、呂子星の方は女子から注目を浴びるのが嫌なのか、険しい顔をして一刻も早く立ち去りたそうに足早に進んで行く。
謝桑陽は随分前の方に陣取っていた。ルームメイトたちが来てほっとした様子で、手を振って知らせてくれている。そして李浩然が一緒にいることに気付くと、嬉しそうな顔で挨拶を交わした。
昨日ちょっと話しただけなのに随分親しげで、呉宇軒は怪しむように二人を見た。
「なんか二人、仲良くなってないか?」
「然兄とは昨日、少しメールでやり取りしていたので……」
疑いの眼差しを向けられた謝桑陽はおどおどしながら説明した。李浩然が帰った後、オーダーメイドの人形を作る件でメールをしてそのまま長いこと話し合っていたらしい。
幼馴染からほったらかしにされていたと分かって、呉宇軒はムッとして怒った。
「なんだよ! 俺には連絡してくれなかったくせに!」
昨日の晩に寂しがる呉宇軒から嫌というほどウザ絡みされていた呂子星は、事の顛末に堪えきれず吹き出した。それから構ってもらえず拗ねる呉宇軒の肩にぽんと手を置き、小馬鹿にして残念だったなと声を掛ける。
馬鹿にされた呉宇軒は酷い!と両手で顔を覆って泣き真似した。そして悲しそうな声を出すとぐちぐち文句を言い始める。
「俺は寂しくて死にそうだったって言うのに、お前は新しい友だちと宜しくやってたなんてあんまりだ! もう俺のこと要らなくなっちゃったの!?」
わざとらしい泣き真似を真に受けた謝桑陽は自分が原因で起きたいざこざに責任を感じてオロオロし、不安げな顔で幼馴染二人を交互に見る。これで二人の仲が壊れたらどうしようと心配で今にも泣き出しそうだ。
まんまと騙されたお人好しの謝桑陽を見兼ねて、呂子星は無言のまま手で構うなと合図した。こいつ面倒くせぇな、と顰めっ面をして大袈裟に悲しむ呉宇軒に冷ややかな視線を浴びせる。
李浩然は一切動じることもなくさめざめと泣いている幼馴染の顔をそっと覗き込むと、子どもにするように優しい声音で話しかけた。
「阿軒、俺の一番は君だ」
「本当に? 俺のこと捨てない?」
すっかり構ってちゃんと化した呉宇軒は指の間からチラチラと窺い見る。そんな幼馴染に李浩然はふっと微笑んだ。
おいでと手招きされ、呉宇軒は嬉しそうにぱっと顔を上げると勢いよく飛び付いた。浩然大好き!と力一杯抱きついてきた幼馴染の背中を李浩然が宥めるように優しくさする。
素直な謝桑陽は仲直りした二人をほっとした顔で見ていたが、呂子星は今のやり取りを見てなんだこの茶番は、と白けた気分になった。
「お前らいつもこんな事してんのか?」
「たまにこうなる」
感極まって抱きついている幼馴染の代わりに李浩然が平然と答える。真面目な顔で返され、呂子星は何を言えばいいか分からず閉口した。たまにと言う割にはかなり手慣れた対応だ。
よくこんなのに付き合っていられるなと感心して見ていると、背中に誰かがぶつかってくる。振り向くと鳥の巣よりもぐちゃぐちゃになった王茗の頭が目に入ってきた。
「また寝てんのか!」
「んあっ!? 何何? なんか大事なシーン見逃した感じ?」
幼馴染に抱きつく呉宇軒を見て、さっきまで意識が無かった王茗は不思議そうな顔をする。軍事訓練が始まる前からすでに疲れてきた呂子星は、何も言うなとげっそりした顔で凄んだ。
しばらく他愛のない話で暇を潰していると、時間がきたのか前に立つ教官の呼び掛けで等間隔に並ぶよう指示された。それまでずっと李浩然の腰に手を回してくっ付いていた呉宇軒も、皆が並ぶのに合わせて渋々離れて整列した。
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