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第4章 ゆいなの歩く世界
9 クライスタルの検問
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気がつけばレンシも黒い髪色になっていた。服装は襟元はギンガムチェックで、アーガイルチェックのマントを羽織っている。
(ウィッグを被っているのか? もしくは髪色スプレーか?)
ゆいなはそう思った。
虫除けスプレーをかけたローリ一行は中庭にある赤い膜の中に入っていく。
「ところでガーさん休まずに来て大丈夫かい?」
「無論、大丈夫じゃ」
「陛下は平気ですか?」
ゆいなは心配そうに聞く。
「僕のことは城では陛下、城外ではローリと呼んでくれて構わない。僕も平気だよ」
「わかりました」
「敬語の必要もないよ」
「わかった」
「ぬあー! だめじゃ、だめじゃ! 敬語使うのじゃ」
「がーさん」
「女王のことはなんて呼びましょう」
「ガー様でいいのじゃ、わしと話す時も敬語使うのじゃよ」
「わかりました」
「いいから、クライスタルまで行こう。ウォレスト」
「ウォレ」
「ウォレスト」
ゆいなを除いた三人が武楽器を出した。バイオリン、コントラバス、トロンボーン。
「ぶ、武楽器だ。私も! うぉ、ウォレスト」
「初心者が出すにはウォレット・ストリングスですよ」
「ウォレット・ストリングス」
ゆいなの前に薄汚れたチェロが出てきた。
「キャー出てきた!」
「柳川さんのチェロ、汚れてますね」
「うん、後できれいにする予定です」
「では始めよう。柳川さん、弾かないのなら消したまえ」
ローリの声が胸にチクリと刺さったゆいなはチェロを消した。
(いつかローリに認めさせてやる!)
「サティ、ジムノペディ第一番だよ」
「「はい」」
レンシ、ガウカは返事をする。
♪
演奏は流石に誰ひとり間違えず、完璧に弾いているだろうと言わんばかりの演奏だった。
ゆいなは演奏に心を奪われそうだった。
「綺麗」
「柳川さん、危ないから先に行きたまえ」
ローリが言うと、青い濁流が木に出てきた。
ゆいなは不貞腐れた顔で横のレンシの方へ向く。
「あの、ローリ様がさっき言ったのは、この空間は色んなところに繋がっているから下手に武楽器出して弾かないと変なところに飛ばされちゃうからですよ。怒ってないですよ、ですよねローリ様?」
「ほう。僕が怒ってるかと思ったのかい? はっはっは、何をそんなことで怒るのかい? 怒ってないよ、ほら、入りたまえ」
「はい」
ゆいなはほっと胸をなでおろすと、青い濁流に入っていった。
◇
ゆいなは落ちていく。
行き着いた場所はジャングルだった。
ゆいなは急いで場所を移動する。
(上から来るから、また乗っかってこないようにどかなくちゃ)
「わー」
レンシが叫びながら落ちてきた。尻餅をついたようだった。
その後、ローリが見事に着地する。
「ぎゃあ!」
ガウカをローリがお姫様抱っこでキャッチする。
「ロー君、ありがとなのじゃ」
ガウカはローリの頬にキスをする。
「やめてくれたまえ。パース」
ローリはガウカを降ろして、箱からハンカチを取り出し、頬を拭いた。
「なんじゃ、照れとるのか」
「そういう訳では」
「ローリ様サクサク進みましょう」
「そうだね」
「柳川さん、大丈夫ですか? 無理しないで、困ったら私を頼ってくださいね」
「レンシ君、ありがとうございます」
「お主等、相性良さげじゃな」
「一人称が定まってないですけどね」
「柳川さんと話すときは私で、普段は僕と言わせていただきます」
「ふん、好きにせい」
「はい」
「ジャングルは初めてかい?」
「はい、このような本格的なところは初めてです」
ゆいなは周りを見渡した。樹木が生え茂るところと草の生えただけのところと様々だった。見たところ密林もある、熱帯雨林の場所だった。
「あれは?」
草むらに馬の形をした屍が見える。
「あれは屍処理部隊が骨を綺麗に加工したり飾りとして持っていったりするんです。月影の末路ですね」
レンシが説明する。
「ローリは肉と魚どっちが好きですか?」
「断然、魚だね。僕は肉を食べない主義なんだ」
「こら、お主、様をつけろ。それにロー君に気を使わせるでないぞ。あんまり色目使わないでほしいのじゃ」
「色目? 別に、ただ、好みを聞いただけですが」
「うろたえたのが良い証拠じゃ!」
「うろたえてませんよ」
「ガーさん、うるさいよ」
ローリに注意されたガウカはむくれる。
「なんじゃ、そもそもわしとロー君の二人旅を計画していたのにこれじゃ本末転倒なのじゃないかえ~~~~」
ガウカはブツブツと独り言を言い始めた。
「ローリ様、はよく日本に来られるのですか?」
「うん、高校に留学生として登校したり、日本の川で魚を釣ったり。実真君や太陽君の家にお邪魔したこともあったよ。これからも、もっと日本に行こうと思っているよ」
「実真君? トランペッターの男の子ですか?」
「そうそう、よく知っているね」
「美亜さんの家に来た月影の卵を処理してくれたんです」
ゆいな、レンシ、ローリ、ガウカは歩きながら色々情報交換をした。
「あの、クライスタルってどんな所なんですか?」
ゆいなに答えるのはレンシが先だった。
「クリスタルが町の至る所にあっていろんな半月や外国人に会えますよ」
「40分くらいで壁の反対の向こう側までついて、そのまま下るとジャングルやゴブリンの里があるよ」
「ゴブリンの里?」
「昔、僕とネニュファールが捕らえられたところだけど」
「あの女の名前は出すでない! 不愉快なのじゃ!」
「ごめんよ、ガーさん。柳川さん、この話はまた今度だ、ね?」
ローリは天然なのかわざとなのか、あざとく首を傾げた。
ゆいなは直視できなかった。
「ん? 僕の顔になにかついてる?」
「い、いえ」
答えたのはレンシだった。
「日本には色々なレジャー施設があるようだね」
「は、はい。富士重ハイランドが私よく行きます。と・ととんはや、ええやないかというローラーコースターに乗りに行きます。一人でも楽しめます」
「ほう、それは1つ楽しみが増えたよ」
「あの、ところでピアノを弾いていた日本人かは分かりませんが、彼女の住所は聞いたのですか」
「北海道から来ている子だね。村社小春さん」
「そうですか」
「そうですか、じゃないのじゃ! もっと話をふくらませるのじゃ!」
「いくつくらいなんですか」
「15才で不登校の代わりに城の使用人として働いてるよ」
「ローリ様、はおいくつなんですか?」
「いくつに見える?」
「おい、そこの女、はずしたらただじゃ置かないのじゃ」
「私は柳川ゆいなです、26ですかね?」
「ブッブー、24じゃな」
ガウカはさも嬉しそうに告げた。
「すみません、ローリ様」
「ロー君は10月31日生まれなのじゃよ」
「すごい、ハロウィンですね」
「あ、ガーさん、僕のこと知ってもらってもなんにもならないよ、そんな芸できるわけでもないし」
「そうじゃな、ロー君のファンになられても困るのじゃのう。間違えたのじゃから、わしをおんぶせい」
「ガーさんが歩き疲れただけではないかい?」
「いえいえ、しますよ」
ゆいなはそう言って、しゃがむ。そしてガウカを背負う。
ガウカは子供がはしゃぐようにゆいなに抱きつく。
「疲れたら私が代わりますよ」
「ありがとうございます、レンシ君」
そこから少し歩くとクリスタルの目立つ町並みが見えてきた。丘を下ると大きな壁が一面に広がっていた。
壁沿いに向かって歩くと、検問の人たちと開かれるであろう門が待っていた。
「何者だ」
「僕は――、ふむ説明することがいささか面倒だね、すまないがこれで手をうってもらえないかい? パース」
ローリは箱を出して手を突っ込むとキラキラ光る鉱石を2つ取り出した。
(赤色のはルビーで青色のはサファイアだろう)
ゆいなは驚く検問の人たちを見守った。
鉱石を手に入れた2人の検問の人たちが小声でなにか話し合っている。
「門を開け」
「はいよ」
見張り台から門を開けるものが門を引き開けた。
どうやら検問を抜けられるようだ。
ゆいなはほっと一息ついた。
「ところで先程話していたスピーカーで声を送る役場はどこにあるのかい?」
「僕にお任せください。町役場までご案内します」
レンシはドンと胸を叩く。
「そろそろ、降ろしてくれたもう。はあ、やはりロー君の背中が一番じゃ」
ガウカはゆいなの背中から降りるとため息をつく。
(勝手なんだから)
ゆいなは呆れているとレンシ達の後を追った。
(ウィッグを被っているのか? もしくは髪色スプレーか?)
ゆいなはそう思った。
虫除けスプレーをかけたローリ一行は中庭にある赤い膜の中に入っていく。
「ところでガーさん休まずに来て大丈夫かい?」
「無論、大丈夫じゃ」
「陛下は平気ですか?」
ゆいなは心配そうに聞く。
「僕のことは城では陛下、城外ではローリと呼んでくれて構わない。僕も平気だよ」
「わかりました」
「敬語の必要もないよ」
「わかった」
「ぬあー! だめじゃ、だめじゃ! 敬語使うのじゃ」
「がーさん」
「女王のことはなんて呼びましょう」
「ガー様でいいのじゃ、わしと話す時も敬語使うのじゃよ」
「わかりました」
「いいから、クライスタルまで行こう。ウォレスト」
「ウォレ」
「ウォレスト」
ゆいなを除いた三人が武楽器を出した。バイオリン、コントラバス、トロンボーン。
「ぶ、武楽器だ。私も! うぉ、ウォレスト」
「初心者が出すにはウォレット・ストリングスですよ」
「ウォレット・ストリングス」
ゆいなの前に薄汚れたチェロが出てきた。
「キャー出てきた!」
「柳川さんのチェロ、汚れてますね」
「うん、後できれいにする予定です」
「では始めよう。柳川さん、弾かないのなら消したまえ」
ローリの声が胸にチクリと刺さったゆいなはチェロを消した。
(いつかローリに認めさせてやる!)
「サティ、ジムノペディ第一番だよ」
「「はい」」
レンシ、ガウカは返事をする。
♪
演奏は流石に誰ひとり間違えず、完璧に弾いているだろうと言わんばかりの演奏だった。
ゆいなは演奏に心を奪われそうだった。
「綺麗」
「柳川さん、危ないから先に行きたまえ」
ローリが言うと、青い濁流が木に出てきた。
ゆいなは不貞腐れた顔で横のレンシの方へ向く。
「あの、ローリ様がさっき言ったのは、この空間は色んなところに繋がっているから下手に武楽器出して弾かないと変なところに飛ばされちゃうからですよ。怒ってないですよ、ですよねローリ様?」
「ほう。僕が怒ってるかと思ったのかい? はっはっは、何をそんなことで怒るのかい? 怒ってないよ、ほら、入りたまえ」
「はい」
ゆいなはほっと胸をなでおろすと、青い濁流に入っていった。
◇
ゆいなは落ちていく。
行き着いた場所はジャングルだった。
ゆいなは急いで場所を移動する。
(上から来るから、また乗っかってこないようにどかなくちゃ)
「わー」
レンシが叫びながら落ちてきた。尻餅をついたようだった。
その後、ローリが見事に着地する。
「ぎゃあ!」
ガウカをローリがお姫様抱っこでキャッチする。
「ロー君、ありがとなのじゃ」
ガウカはローリの頬にキスをする。
「やめてくれたまえ。パース」
ローリはガウカを降ろして、箱からハンカチを取り出し、頬を拭いた。
「なんじゃ、照れとるのか」
「そういう訳では」
「ローリ様サクサク進みましょう」
「そうだね」
「柳川さん、大丈夫ですか? 無理しないで、困ったら私を頼ってくださいね」
「レンシ君、ありがとうございます」
「お主等、相性良さげじゃな」
「一人称が定まってないですけどね」
「柳川さんと話すときは私で、普段は僕と言わせていただきます」
「ふん、好きにせい」
「はい」
「ジャングルは初めてかい?」
「はい、このような本格的なところは初めてです」
ゆいなは周りを見渡した。樹木が生え茂るところと草の生えただけのところと様々だった。見たところ密林もある、熱帯雨林の場所だった。
「あれは?」
草むらに馬の形をした屍が見える。
「あれは屍処理部隊が骨を綺麗に加工したり飾りとして持っていったりするんです。月影の末路ですね」
レンシが説明する。
「ローリは肉と魚どっちが好きですか?」
「断然、魚だね。僕は肉を食べない主義なんだ」
「こら、お主、様をつけろ。それにロー君に気を使わせるでないぞ。あんまり色目使わないでほしいのじゃ」
「色目? 別に、ただ、好みを聞いただけですが」
「うろたえたのが良い証拠じゃ!」
「うろたえてませんよ」
「ガーさん、うるさいよ」
ローリに注意されたガウカはむくれる。
「なんじゃ、そもそもわしとロー君の二人旅を計画していたのにこれじゃ本末転倒なのじゃないかえ~~~~」
ガウカはブツブツと独り言を言い始めた。
「ローリ様、はよく日本に来られるのですか?」
「うん、高校に留学生として登校したり、日本の川で魚を釣ったり。実真君や太陽君の家にお邪魔したこともあったよ。これからも、もっと日本に行こうと思っているよ」
「実真君? トランペッターの男の子ですか?」
「そうそう、よく知っているね」
「美亜さんの家に来た月影の卵を処理してくれたんです」
ゆいな、レンシ、ローリ、ガウカは歩きながら色々情報交換をした。
「あの、クライスタルってどんな所なんですか?」
ゆいなに答えるのはレンシが先だった。
「クリスタルが町の至る所にあっていろんな半月や外国人に会えますよ」
「40分くらいで壁の反対の向こう側までついて、そのまま下るとジャングルやゴブリンの里があるよ」
「ゴブリンの里?」
「昔、僕とネニュファールが捕らえられたところだけど」
「あの女の名前は出すでない! 不愉快なのじゃ!」
「ごめんよ、ガーさん。柳川さん、この話はまた今度だ、ね?」
ローリは天然なのかわざとなのか、あざとく首を傾げた。
ゆいなは直視できなかった。
「ん? 僕の顔になにかついてる?」
「い、いえ」
答えたのはレンシだった。
「日本には色々なレジャー施設があるようだね」
「は、はい。富士重ハイランドが私よく行きます。と・ととんはや、ええやないかというローラーコースターに乗りに行きます。一人でも楽しめます」
「ほう、それは1つ楽しみが増えたよ」
「あの、ところでピアノを弾いていた日本人かは分かりませんが、彼女の住所は聞いたのですか」
「北海道から来ている子だね。村社小春さん」
「そうですか」
「そうですか、じゃないのじゃ! もっと話をふくらませるのじゃ!」
「いくつくらいなんですか」
「15才で不登校の代わりに城の使用人として働いてるよ」
「ローリ様、はおいくつなんですか?」
「いくつに見える?」
「おい、そこの女、はずしたらただじゃ置かないのじゃ」
「私は柳川ゆいなです、26ですかね?」
「ブッブー、24じゃな」
ガウカはさも嬉しそうに告げた。
「すみません、ローリ様」
「ロー君は10月31日生まれなのじゃよ」
「すごい、ハロウィンですね」
「あ、ガーさん、僕のこと知ってもらってもなんにもならないよ、そんな芸できるわけでもないし」
「そうじゃな、ロー君のファンになられても困るのじゃのう。間違えたのじゃから、わしをおんぶせい」
「ガーさんが歩き疲れただけではないかい?」
「いえいえ、しますよ」
ゆいなはそう言って、しゃがむ。そしてガウカを背負う。
ガウカは子供がはしゃぐようにゆいなに抱きつく。
「疲れたら私が代わりますよ」
「ありがとうございます、レンシ君」
そこから少し歩くとクリスタルの目立つ町並みが見えてきた。丘を下ると大きな壁が一面に広がっていた。
壁沿いに向かって歩くと、検問の人たちと開かれるであろう門が待っていた。
「何者だ」
「僕は――、ふむ説明することがいささか面倒だね、すまないがこれで手をうってもらえないかい? パース」
ローリは箱を出して手を突っ込むとキラキラ光る鉱石を2つ取り出した。
(赤色のはルビーで青色のはサファイアだろう)
ゆいなは驚く検問の人たちを見守った。
鉱石を手に入れた2人の検問の人たちが小声でなにか話し合っている。
「門を開け」
「はいよ」
見張り台から門を開けるものが門を引き開けた。
どうやら検問を抜けられるようだ。
ゆいなはほっと一息ついた。
「ところで先程話していたスピーカーで声を送る役場はどこにあるのかい?」
「僕にお任せください。町役場までご案内します」
レンシはドンと胸を叩く。
「そろそろ、降ろしてくれたもう。はあ、やはりロー君の背中が一番じゃ」
ガウカはゆいなの背中から降りるとため息をつく。
(勝手なんだから)
ゆいなは呆れているとレンシ達の後を追った。
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