スイセイ桜歌

五月萌

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第4章 ゆいなの歩く世界

10 赤い髪の女の子

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「こちらです」

 町役場はゆいなの思った通りの大きな建物だった。
 足ふきマットは赤いギンガムチェック色だ。

「意外と小さいのじゃな」

 ガウカはブツクサと文句を言った。

「まあまあ、入りましょう」

 レンシ達が中に入っていくと、事務員が空を飛ぶパソコンを指で叩いていたり、AIが受付をしていたりと日本よりも電子機器は発達しているようだった。

「なにかご用事ありますか?」

 流暢な言葉で人形の白いAIが話しかけてきた。

「コホン、実は日本の東京の城南島、大田区、品川区あたりからクライスタルに来ている人を探しているのだが、スピーカーで流してもらえるかい? この場所に指定して」
「少々お待ちください。……無償で放送することはできません」
「なんでよ!」

 ゆいなは怒る。

「もし放送するなら住所、氏名、生年月日、人を呼ぶ際にしたいことをお書きの上、100万ペドルお支払いください」
「100万ペドルって安いんですか?」
「高いです、私の給料3ヶ月分です」
「僕が払うよ。報奨金、謝礼はする予定だったから」
「ひれ伏せ愚民ども! ロー君にとって100万ペドルなんて屁でもないのじゃ!」
「ガーさん、静かに。柳川さんは氏名諸々書いて、放送に手伝ってもらえるかい? リコヨーテ兵だと気づかれないように、新兵の柳川さんに直々にお願いするよ」
「ローリ様、わかりました」
「パース」

 ローリはルービックキューブの模様の箱を出すと、中から金貨を大きな麻袋に入れて出した。そして金貨を窓口にいるAIに渡した。

「少々お待ちください」

 金貨は重さで数えられるようだった。四角い箱のような容器に精米するかのように金貨が投げ出される。その後、人力で機械を操作されている。
「確定します。こちらは申請用紙とペンです」とAI。
「ありがとう」

 ゆいなはその用紙を受け取ると背もたれ椅子の前にある、広い台の上で書き始めた。埼玉県~~と書き出した。

「書けました」
「日本の友人に会うため、ですか」
「これしか思いつかなかったんです。すみません」
「いいのではないですか?」
「うん、もちろん」

 ローリの同意で自信をもらったゆいなは振り返り、受付に申請用紙を渡した。

「お願いします」
「かしこまりました、5分後に放送を入れます」

 AIは砂時計マークを顔に浮かべる。そして、再び言う。

「なにかご用事ありますか?」

 ゆいなは驚きながらも首をふる。

「とりあえず、外に出ましょう」

 レンシはそう言うと引き返して行った。

「ありがとうございました」

 AIの声を背にゆいな達も出ていった。

「5分後か」

 ローリは腕時計を顔に近づける。

「いい時計持ってますね」
「ありがとう、これはクライスタルの露天商で買ったものだよ」
「それにしてもビオはこの時間に城南島にいるんじゃな?」
「うん、時間指定して追体験したからね、後1時間後に城南島のカフェにつく。そこでレンシの出番だ」
「ビオを論破して、父親の役を果たせばいいんですね」

 レンシの覚悟が見える。

「ちゃんとするのじゃぞ」
「間違ったっていい、遠回りになるだけだ」
「僕、ローリ様以外の皆に隠していることがあるんです」
「なんじゃ?」
「それはまずビオに話さなくてはならないので控えさせていただきます」
「え?」
(レンシは何を隠しているのだろうか)
 ゆいなはどうしても知りたくなった。

「ロー君、なんなのじゃ?」
「僕の口からは言えないよ」
「キー!」
「いずれわかりますよ、ガー様」
「キー!」
「放送ってどこまで届くんだろう?」

 ゆいなは独り言を言うようにつぶやく。

「おそらくこのクライスタル全体にはと思います」
「そうなんですね」

 少しの間が流れた。
 ゆいなは背中に汗をかいた。

『ピンポンパンポーン、探し人の放送です。今日の8時20分頃から、東京の友人に会うため、日本の東京の城南島、大田区、品川区あたりからクライスタルへ来ている人を探しております。条件を満たす者は町役場までお越しください。条件を満たす者には報奨金、謝礼をいたします。以上でお知らせを終わりにします』

 放送は簡潔な内容だった。

「本当にくるのかのう?」
「きっと来ます!」

その5分後くらいだった。

「あっ」
「え?」

 ローリとガウカが驚いた。その人は赤毛を三つ編みに縛っていて、赤いメガネをかけた少女だった。

「髪色違うし眼鏡だけど、匂いでわかるよ、君は四角沙羅さんだね!」
「転校先が東京だとは思わなかったのじゃ」
「ローリ、ガウカ。その節はどうも。報酬弾むんでしょ? 私が送るから早くして」
「知り合い?」
「前に僕やネニュファール達を捕まえた半月狩りに属している子だよ」
「もうやってないからいいでしょう?」
「それより、世界樹は城南島の付近なの?」
「そう。私は時間に追われてる、行くなら早くして」
「騙してないんじゃな?」
「騙すわけない。報酬は100万ペドルね、今もらう。パース」
「いいよ、わかった、パース」

 ローリは真剣な面持ちだった。そして、箱の中から大きな麻袋に入った金貨を取り出した。沙羅に渡した。
 沙羅は自分の箱に麻袋ごと入れた。

「確認しなくていいんですか?」
「それは彼が一番良くわかっている。その必要ない。……ついてきて」

 沙羅はローリを軽く一睨みすると振り向きながら言った。

「行きましょう、皆さん」
「沙羅さん、わかってると思うけどリコヨーテには」
「出禁でしょう。わかっている」
「ならいいよ」

 沙羅は先頭に立ってすたすたと歩いていく。
 ゆいなは幻想的な風景を眺めた。
 青いクリスタルに多肉植物や、剪定された木々。活気あふれる人混み。
 そして、ゆいな達は世界樹の青い膜まで来た。

「ここは?」
「クライスタルの中央です。ここから色んな場所に行くことができます」
「へえ、そうなんですね」
「入るのじゃよ」

 ガウカに急かされ中に入った。
バチッ!
 膜に入るときに振動が起こる。
バチッバチッバチッバチッ!
 皆が入ってきた。
「ウォレスト」

 沙羅だけが武楽器を出した。

「弾かなくていいの?」
「大丈夫ですよ。沙羅さんのフルートで日本に行くので」
 沙羅が楽器をかまえる

 フルートのソロのジムノペディを沙羅が弾いていた。
 青かった膜が回転していく。
 演奏の終わり直後、水色の膜に切り替わった。

「出ましょう」
「あ、はい」

 膜から出るとそこはゴルフ場の一角だった。

「広いところね」
「お父さんの土地だから」
「前に君のおじいさんはアルケーと聞いたのだけれど、どういうことなんだい?」
「生まれた国が違う」
「そうなのかい?」
「私の話はいい、それよりここから移動する」
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