やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや

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レイノルズの悪魔 よみがえる

公爵邸の二人

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その日から、衣装部屋のメイドは何故か私の周りをうろうろするようになった。
まあ、例のお茶会のあと虐められるようになったから、私の部屋の他に行くとこがないのかもしれないけど。

「…じゃあ、その『会見』がうまく行くかは衣装係にも責任がある訳?」
「責任重大よ。でも、服の決まりごとさえ知っていれば、あとは相手をみて考えるの。隙のあるなしまで計算しなくては」
ふうん、と床に直接すわって、衣装係は首をかしげる。
「ところでさ、あんた」
「おじいさまのまえでそれを言ったらクビになるわよ?」
「お嬢さんは、リディアば……南領の奥様のとこにはだれか連れてくわけ?」
いつもの侍女。名前はなんだっけ?ちょっと不安だな。リディアおばさまは使用人の教育にうるさいし、私もあんなところまで行って嫌がらせとかご勘弁だ。
「ひとりで行くつもりよ」
「あたしも連れていって!衣装だけじゃなくて、荷物持ちでもお茶の用意でもなんでもする!」
余程嫌な思いをしてるのか、とりすがるみたいにされてため息をついた。
「その代わり、リディアおばさまのところでちゃんとしたメイド教育を受けるのよ?文句言わずに」
私は額に手をやり、目を閉じた。
「うん、任せてよお嬢さん!あたしトリスタン!トリスって呼んでもいいよ!」
どうやら私は、半人前の侍女兼衣装係をひとり手に入れたらしい。
……とりあえずおばさまにお手紙を書くしかないか


どうやら私の衣装や装飾品を買うお金は、レンブラントが横領しているとみて間違いない。…というのも、
「お嬢さんの服買うの大変なんだよ、決められた予算のなかで、それなりに見えるものを選ぶんだから」
というトリスの意見に、ぎょっとさせられたから。あの吊しのワンピース一枚で限界の予算て、公爵家に余程余裕がないかどこかへ消えているかのどちらかに相違ない。

「しかたない、レイノルズの悪魔らしく喚き散らすしかないか」
トリスが、こっそりキッチンからくすねてきてくれた黒パンを齧りながら計画を立てる。
「なんなの?その、レイノルズの悪魔って」
「さあね?クロード殿下いわく、どこかの我が儘お嬢様のことらしいわよ?…少なくともその子はキッチンからメイドがくすねてきたパンは食べないんじゃないかしら」
へえ、お腹すかないのかな、というトリスの意見に笑ってしまう。
まあ、普通の令嬢というのがどんなものか、私も王宮に行くまではあまりよく知らなかったからトリスをとやかくいうのも違うかもしれないけど。
「とにかく、リディアおばさまのところに行くまでに、衣装部屋をなんとかしておかないと、貴方はクビになっちゃうんでしょ?」
今後新しく来た執事やメイド頭が、衣装部屋の惨状に気づいた時が危険だ。
レンブラントは絶対、その罪をトリスになすりつけるつもりだし、トリスはそれを突っぱねるだけの知恵も味方もない。なんせ、私が着る服を変えただけで仲間外れにされるくらい立場が弱いんだから。
「でも、お嬢さんはその悪魔みたいな真似をして、レンブラントじ…ええと、大旦那さんに叱られない?」
「呆れてまた無視されるかもね、けど、リディアおばさまのとこに行ってるあいだに貴方がクビになったら、寝覚めが悪いなんてものじゃないもの」
へえ、とトリスは私が渡した黒パンの半分を受け取りながら頷く。
「まあ、お嬢さんがいいならいいけど。あんたって優しいよね、貴族なのに」
貴族令嬢ってトリスの中でどんな悪いやつなんだろ?クロード殿下の考えた、『レイノルズの悪魔』も真っ青なんじゃないかとおもう。

*******************

「お前が、服を?」
おじいさまはわたしの目をじっと見ながら眉根を寄せた。
「衣装代はレンブラントから衣装部屋の係へ毎月渡している。いつも通り衣装係に言えば良いだろう」
「私は、自分でお店にお願いしたいのですわ。今月頼む服は南領で着るためのもの…リディアおばさまは厳しい方ですもの、トリスタンがなにか不手際をすれば、私が叱られます。おじいさま、今月は私の頼んだお店にお支払いをお願いしたいのです、勿論、いつもの金額から出ないようにしますから」
お願い、と頭をさげると、その頭をおじいさまの手がそっと撫でた。
「お前も9つ。自分で流行りの型の服のひとつも選んでみたい年頃になったか。では、ルイーザの衣装の記録がお前の衣装部屋にあったはずだ。そこから好みの店を探しなさい、金のことは、気にしなくていい。レイノルズの令嬢らしく、品位あるものを選ぶようにな」
案外わかってもらえて、良かった。
とはいえ、お母様の衣装を縫っていたお店を探して、この一週間ほどでドレスをいくつかと寝間着だなんて頼めるだろうか?
大きなところや人気のところは何ヵ月待ちなんてざらだから、わたしは不安に思いながらトリスに衣装部屋にあるというお母様の衣装の記録を探させた。
「あんたもさがしなよ!自分の親の書いたもんでしょ?」
……私の母は、衣装係じゃないんだけどな、とため息をつく。やがて、トリスが奥の棚から一抱えもある本の山を抱えて出てきた。
「あんたの母親、どんだけ服をつくってるのよ…まあ死んじゃったひとを悪く言うべきじゃないけど」
言いながら、ほこりをはらってページをめくると、そこには丁寧に書き込まれたデザインや装飾品店の名前。
「これ、あんたの母さんの文字だけじゃないね」
「たぶん衣装部屋を任されてた侍女の方たちが残したものだとおもうわ。どれを、いつ、どんな風に使ったか書いてある…もし今もこの服が残っているなら、作り直せば新しく作らなくても間に合うかも」
私が言うと、トリスがたちあがった。
「探してみる!何が要るのか教えてよ!」


お母様の懇意にしていた洋裁店は、王都の外れの村にあった。勿論公爵家の馬車なんて出して貰えない私たちは、開き直って大荷物抱えて乗り合い馬車に乗ってやって来た。
田舎の砂利道を、えっちらおっちら二人で衣装の入った包みを運んでいると、通りすがった農家のおじいさんが気の毒がって送ってくれた。どうも私たちを、公爵邸の小間使いかなにかと勘違いしたようで、帰りにお菓子でも買いなさいと銅貨までくださった(ありがたくいただいた、帰りにお菓子を買えるといいけど)。

おじいさんと別れて、田舎らしい円屋根に土壁のちいさな商家についた。セージの花の咲いているレンガの小道の手前に、ささやかなブリキの門があり、そこに焼き板で『モンテッセリ洋裁店』と書かれていた。
すこし寂れたその看板に、トリスは荷物を抱え直しながら
「ねえ、やっぱり市街の流行りの店にしたら?安いし、可愛いのも沢山あるよ?」
不安そうに、呟く。
「貴方の服はそこで買ってあげる。いまはこれを直して貰わなくちゃ」

話をしていると、中から扉があき、おとぎ話の魔法使いみたいなケープを被ったお年寄りが出てきた。
「なんだい、店のまえで!」
「申し訳ありません!レイノルズ公爵さまのお使いで参りました!」
私が言うと、トリスが腰の辺りを肘でついた。言いたいことはわかるけど、いや、こんな格好して、汗みずくになって来た女の子が公爵令嬢だなんて、絶対無理あるから。事情とか説明するのもかなり難しいし。
「レイノルズ公爵?ああ、レイノルズの悪魔の差し金かい?お母様はあんなに上品だったのにねえ、娘は酷いって話じゃないか。こき使われてあんたたちもかわいそうだね、お入り」
かわいそうなのは私だわ、と思わなくもないけれど、とりあえず話は聞いてもらえそうとトリスと二人で荷物をはこびこんだ。

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