傲慢な人

村さめ

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 高校の頃、安曇はクラスの中心人物だったかと言うとそうでもない。彼は寡黙で、大勢とつるむようなことはなかった。むしろ他人と、特に女子と関わることを忌避している節があった。

 彼が自分から他人に話しかけているのを見たことがほとんどない。男相手なら話しかけられれば応じもするが、必要最低限のみ。女子にいたってはほぼ無視に近い態度をとる。クラスで一番派手なグループの女子たちから話しかけられ、あからさまに鬱陶しそうにしていた時など、見ているこっちがひやひやした。もし僕がそんなことをしたら、目を付けられて大変なことになっているだろう。

 いっそ傲慢なほどに不愛想。そんな酷い態度をとっていてもなお、圧倒的な能力と存在感から、自然とみんなに一目置かせてしまう。

 安曇はそういう男だった。

 そんな安曇だが、唯一例外的に会話ができる女子、それが幼馴染の野宮さんだった。彼らは家が隣同士で、幼稚園からずっと一緒なのだそうだ。野宮さんは長髪の涼やかな美人で、安曇と並んだ様はすごく絵になる。まさに理想の二人といった感じ。安曇とは正反対の明るく社交的な人だったけれど、なぜかいつも一緒にいた。二人は付き合っているという噂で、それでも安曇を狙う子は多かった。でも彼は塩対応だし、二人があまりにお似合いなので、みんなすぐに諦めてしまっていた。

 けれどある時、「野宮さんは安曇君を独占するため、彼が他の女を無視するよう強要している」という噂が流れた。安曇が否定も肯定もしなかったこともあり、噂を信じた女子たちが校舎裏に野宮さんを呼び出して詰め寄ったらしいのだが、その場にゴミ捨て当番で偶然通りかかった安曇は、特に介入せず素通りしたらしい。

 僕はずっと、安曇は野宮さんが大好きなのだと思っていた。でもその話を聞き、ただ人嫌いで冷たいだけのやつなのかもと思いはじめた。

 そんなある日の放課後、僕は人通りの少なくなった廊下のすみで座り込んでいた。昔からたまに貧血をおこす性質で、そんなに大したものではないのでいつも少し休めば治まる。

 時間をやり過ごす中、ひたすら眺めていた床に影が差し、不思議に思って顔をあげると安曇がいた。

「お前、具合が悪いのか?」

 彼に対して冷たいという印象を持っていた僕は、貧血で辛いのを忘れるほど驚いた。あんなに人と話すのを嫌がっていたのに、僕が具合悪そうに見えるから、声をかけてくれたのか……。

 この時ちゃんとまともな受け答えができたかどうか、正直よく覚えていない。ただ、心配そうに眉をひそめる彼の表情が、妙に目に焼き付いた。
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