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しおりを挟むホテルの一室。僕はベッドに腰掛ける安曇を床に正座で見上げていた。何だか間の抜けた絵面だが、場の空気は緊張している。
「あの、僕、安曇にお金を出してもらう理由なんてないよ」
「心配せずとも、しっかりと対価は支払ってもらうつもりだ」
僕は、馬鹿なことを言うなと笑い飛ばされる覚悟で恐る恐る確認してみた。
「あ、の……、まさかとは思うけど……ぼ、僕を抱く気なのか?」
「当然、そのつもりだが?」
「……」
「あんなことをしているんだ。経験はあるな?」
僕はパパと楽しくデートをしていただけ。誰かと肉体関係を持ったことは、一度もない。でも正直にそれを言うのはなんだか恥ずかしい。それに、彼がどういうつもりかは分からないけど、こんな機会は二度とないかもしれない。だから僕は出来るだけ挑発的に見えそうな顔を作って彼を見上げた。
「あ、当たり前だろ」
「……そうか。なら遠慮はいらんな」
でもすぐに、下らない見栄を張ったことを後悔した。彼の形相が、まるで鬼みたいに変わってしまったから。
安曇は僕を素早く抱き上げてベッドに放り投げた。うつ伏せで強引にベルトを引き抜かれ、それで後手を拘束され、仰向けにひっくり返される。
「なにを……っ」
抗議しようとした口は、彼の唇によって塞がれてしまった。割り入ってきた舌に、口内を蹂躙される。思わず自分から差し出してしまった舌は、すぐに絡めとられた。温かくて生々しい感触、くちゅくちゅ鳴り響く卑猥な音、苦しくなっていく呼吸。頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。
口内のあらゆる箇所を舐め回され、息も絶え絶えになった頃、ようやく解放された。荒くなった息を整えている間に、安曇は僕の下履きをサッと引き下ろし両脚を持ち上げた。
「……っ! やだっ……!」
気がつくと僕は、彼の目前に性器や尻の穴までさらけ出してしまっていた。羞恥のあまり夢中で暴れたが、容易く抑え込まれる。露になった後ろの穴をすりすりと撫でられ、ぞわりとした感覚が背筋を這い上がった。
「ふっ……、うぅ……っ」
身体を折りたたまれたせいで、嫌でも目に入ってしまう僕のペニスは、ゆるく勃起している。最悪だ。でも、だって、そんなところ、人に見られるのも触られるのも初めてだし、それも、あの安曇と、こんな。
(安曇は、何でこんなことを……?)
もしかして、少しでも、僕の体に興味を抱いてくれているのだろうか。そんな淡い期待は、彼をチラリと仰ぎ見た瞬間に打ち砕かれた。思いもよらないほどに、激しい憎悪を浮かべた表情がそこにはあった。
(こ、怖い……)
僕は、彼に何をしてしまったのだろうか。少なくとも高校の頃は、こんな目で見られたことなんてなかったはずなのに。
「ご、ごめん、なさい……」
安曇は無言で僕のペニスを掴み、乱暴にしごきはじめた。
「ひっ……!?」
触れられただけで、イってしまいそうなほどなのに。彼は容赦なく擦り上げていく。
「ふっ……、あぁ……っ、あっ……あ、あんっ……!」
それは愛撫と呼ぶにはあまりに暴力的な、強すぎる快感で。
「あっ、そんなっ! まって……っ! イッちゃ……、っ……、あっ……、あぁ……!」
僕はあっさりと絶頂させられた。体がびくびく跳ね、縛られて体の下敷きになった腕が軋む。目の奥がチカチカする。安曇は僕の白濁を指で弄び、嘲笑う。
「欲求不満か? それで男を漁っていたのか」
「っ……、うぅ……!」
必死に逃げようとする僕を押さえ込み、精液をまとわせた指を僕の後ろの穴に無遠慮に差し込んだ。
「はぅ……っ!?」
セックスこそ経験ないが、自分でいじったりディルドを使ったりすることはあったので、案外すんなりと受け入れられてしまう。くちゅくちゅ抜き差しされ、浅い場所をこすられるたび、「あっ、あっ」と声が漏れる。そしてついに、彼の指先がその一点をかすめた。
「……っ! ああっ、んっ!」
「ここだな」
「ぁ、あんっ、あぁんっ! そこばっかだめっ、ひ、あぁっ!」
見つかった弱点、前立腺を執拗に責められる。自分では絶対にできないような、遠慮も容赦もない触り方。散々啼かされ、指が三本に増やされる頃には軽く何度かイって、ぐずぐずに蕩けてしまっていた。そんな僕を、安曇が冷めた目で見下ろす。
「……っ! ふ、ううぅ……っ」
彼の表情は、言葉よりも明確に、憎しみと蔑みの感情を伝えていた。涙がこぼれる。
「全く、どれだけ開発されているのだか……」
安曇が何か言っていたが、うまく聞き取れなかった。未だ着衣を崩していなかった彼が、衣服の前を寛げ性器を取り出す。
「っ……!?」
すでにバキバキに勃ち上がっているそれは、凶悪な大きさをしていた。僕だって平均サイズはあるはずなのに。全然、違う。
「む、無理……っ、そんな、入らない……」
怖気づく僕をよそに、安曇はベッド脇に置いたカバンの中からコンドームのパッケージを取り出す。ゴムなんか持ち歩いてるのか。流石はイケメンだなと、妙に感心してしまう。
僕は先程の余韻で動く気力もなくて、ゴムが装着されていくのをただ眺めていた。そうしてついに準備が整い、彼のペニスが僕の穴にあてがわれた。
「っい、たい……っ、ぐうぅ、う゛ぅ……、ふうぅぅ……っ!」
手を縛られ、脚を押さえつけられているせいで、彼が僕の中に割り入ってくる衝撃に、歯を食いしばってひたすら耐えることしかできない。指とも、ディルドとも違う……大きくて、硬くて、熱いもの。それが、少しずつ、少しずつ中に挿入ってくる。何とか奥まで入り切った頃には、じっとりと冷や汗をかいていた。自己開発の成果か、どうにか受け入れることはできたようだ。けど安曇のは僕が使っているディルドよりもずっと大きくて、挿入っているだけでもすごく痛い。それなのに彼は、すぐに腰を動かしはじめてしまう。
「っ、あ゛あ゛……、があ゛あぁ! ぐうう、うぅっ!」
身が裂けるほどの強烈な痛みに、なりふり構わず叫んでも、彼が腰を止めることはない。むしろ叫べば叫ぶほど抽出の速度が増していっている気がする。それはまるで、僕を痛めつけることを楽しんでいるようで。
「っ、キツすぎる、もっと緩めろ」
言うやいなや、また噛み付くように唇を塞がれた。うまく呼吸ができなくて、パニックで余計に締め付けてしまう。苦しい。痛い。こんなの酷い。これじゃただの強姦だ。なのに、なぜだろう。体を駆け巡る痛みとは違う感覚。それは確かな快感で。
「ふはっ……、緩めろと言ったのが、聞こえなかったか?」
パシッ
「あ、んっ!」
尻たぶを強く打たれ、鋭い痛みに、思わずまた中を締め付けてしまう。
「言うことが聞けないのか……仕置きが必要だな」
そう言って彼は、僕の尻を何度も打った。僕は打たれる度に、嬌声を上げてしまう。
「叩かれて、感じているのか……変態」
「ち、がうぅ、こん、なっ! あ、う゛ぅぅ!」
ピロンッ、と。不意に無機質な電子音が鳴り響いた。安曇が酷薄な笑みを浮かべ、僕にスマホを向けている。
(撮られて……る?)
「あっ!? いやぁっ! はっ、あ゛んっ、やめ、あ゛んっ! と、とっちゃ、やらっ! やらぁぁっ!」
「ははっ、随分と余裕があるようだなぁ?」
必死に顔を逸らそうとしたが、顎を無理やり掴まれ正面を向かされた。感じている顔を、至近距離で撮られている。こんなの嫌だ。恥ずかしい。なのに気持ちよくて、腹の中は蕩けそうなほどぐずぐずに熱い。
「くっ、……そろそろ出すぞ」
僕の中の安曇がビクビクと震え、彼が射精したことが分かった。
「あ、ぁっ、は、あぁぁ……ぁ……っ!」
無理矢理犯されているはずなのに、訳の分からない達成感で僕もイってしまった。そのイき顔も、薄くなった精液が半勃ちのペニスから情けなく流れ出る様子も、全部映像に収められてしまっていた。
それで終わりにはならず、すぐに硬度を取り戻した安曇のペニスが更に奥へ奥へと突き上げてくる。僕は舌を突き出し涙も涎も垂れ流して喘ぐみっともない顔の映像を残されながら、とっくに限界を越えていてもなお、安曇の気がすむまで何度も貪られ、蹂躙され尽くした。
僕は知っている。
安曇は冷たく見えるけど、本当は優しい人だ。僕はそれを知っている。だから彼がこんなことをする原因は、きっと僕にある。
(ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……)
遠のく意識の中、僕は高校時代のことを思い出していた。
声をかけてもらったあの日から、どうしようもなく安曇のことが好きだった。人を好きになること自体が初めてで、相手が男だったことに混乱した。僕はおかしいのだろうか。彼は本当に野宮さんと付き合っているのだろうか。とにかく、絶対に気づかれたくない。気味悪く思われたくない。
学校でこっそり盗み見ることすら怖かった。行き場のない想いを持て余し、つい安曇に抱かれる妄想をしてしまったり。その度に自己嫌悪するのに、それでも何度も思い描いてしまう。
『ヒノト、ヒノト……。いい子だ……、かわいいな、ヒノト……』
妄想の中の安曇は、いつだって優しくて頼もしくて、不慣れな僕を導き、甘やかしてくれて……。
応援ありがとうございます!
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