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知りたくなかった事実
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「どうした、元気がないようだが」
朝食後すぐにやってきたクロードは、遥香の顔を見て心配そうに眉を寄せた。
彼は入れ替わった遥香を心配して、時間の許す限りそばについていてくれる。今日も例外なく部屋にやってきたのだが、今朝から暗い表情を浮かべている遥香にすぐに気がついたようだった。
クロードは侍女がいては遥香の気が抜けないと判断したのか、部屋にいた彼女たちを全員控室に下げると、ソファに座る遥香の隣に腰を下ろす。
クロードは手を伸ばし、遥香の目尻に触れる。
「少し赤くなっている。泣いていたのか? ……不安か?」
クロードは遥香の元気がないのは、元の世界に戻れないからだろ思ったらしい。
遥香は頭を振り、きゅっと唇をかんだ。
言っていいのかどうかはわからない。クロードはリリーが好きで――、弘貴が遥香ではなくリリーを愛していたのだと告げれば、彼はどんな顔をするだろう。
クロードを困らせてしまうかもしれない。
それでも、誰かに甘えたいほど遥香の心は弱っていて――、弘貴に似ているクロードの顔を見ていると、泣いては駄目だと思うのに、自然と涙が溢れてくる。
「……っ」
必死に嗚咽をかみ殺して泣き止もうとしていると、クロードにぎゅっと抱きしめられた。
「すまない。できるだけ早く、元に戻る方法を探してやるから――」
クロードが謝ることなんて何もない。遥香とリリーが入れ替わったのも、遥香が泣いているのも、すべて彼のせいではないのだから。
クロードの白いシャツに、遥香の涙が吸い取られていく。
顔をあげなくてはと思うのに、クロードの胸は温かくて、遥香は縋りついてしまっていた。
「……夢を、見たの」
「夢?」
「いつもの夢。リリーと、弘貴さんがいた」
「ああ、その夢か」
クロードはそれほど夢を見ないらしい。それでも忘れたころに、同じように弘貴の暮らす世界の夢を見るという。
「夢を見て帰りたくなったのか?」
クロードの手が遥香の髪を撫でていく。
体はリリーだが、中身はクロードよりもずっとと年上なのに、どうしてかクロードの方が遥香よりも大人びていて、――気がつけば、遥香は彼に甘えてしまう。
「……そうじゃないの」
瞬きをすれば、涙があふれてクロードのシャツへと吸い取られる。このままでは彼のシャツをぐしゃぐしゃにしてしまうかもしれない。そう思って顔をあげようとしたのだが、頭におかれたクロードの手にやんわりと阻まれてしまった。
「そうじゃないなら、どうした?」
あやすように頭が撫でられ、背中がリズミカルに叩かれる。
優しいところも弘貴とよく似ていると思えば、もう、止まらなかった。
「弘貴さんが……、好きだったのはわたしじゃなかったみたい」
「なに?」
クロードの手がぴたりととまった。
「ずっと不思議だったの。どうしてわたしなんだろうって。……でも、やっとわかった。弘貴さんはずっと、……ずっと、リリーが……好きだったの」
言葉にすればぎゅっと胸のあたりが締め付けられて、声が震える。弘貴はリリーが好きだった――、遥香は、かわりだったのだと、発した自分の言葉に打ちのめされそうだった。
「わたし……、愛されてなかった、みたい……」
「そんなはずは……」
「だって、弘貴さんが言っていたもの。……ずっと夢で見ていたって、守ってあげたいと思っていたって、……このままずっと一緒にくらそうって、言っていたもの……」
「………」
「好き……、だったのに……」
クロードが眉を顰める。遥香を抱きしめる腕に力がこもった。
そのまま遥香もクロードも何も言わなくなってしまったので、遥香のしゃくりあげる声だけが部屋に小さく響く。
やがて、クロードは遥香を抱きしめたまま口を開いた。
「……結婚の日取りが決まっている」
「え……?」
「決定しているから、後にずらすことはできない」
突然何を言い出すのだろうと、遥香はクロードの腕の中で顔をあげた。
クロードと視線がぶつかって、その青い瞳が真剣な色を宿していることに驚く。
クロードはじっと遥香の瞳を見つめると、彼女の目尻に溜まった涙を指の腹でぬぐいながら続けた。
「このまま、元に戻らなければ……、俺は、お前と結婚式をあげようと思っている」
遥香は大きく目を見開いた。
「もちろん、俺はリリーを愛している。それは変わらない。でも……、このままずっともとに戻らなければ、俺はお前を、リリーのかわりではなく、『遥香』として向き合いたいと思う。俺は決してお前を放り出したりしない。……だから、もう泣くな」
それは、クロードが言える精いっぱいの言葉のように思えた。
気を遣わせてしまったのだと思うと同時に、彼の優しさに、遥香はまた泣きたくなる。
「おい、……泣くなと」
クロードが戸惑った表情を浮かべた。
遥香の涙はまだしばらく止まらなくて――、彼の腕の中に身を預けながら、もしかしたら、傷ついた心はクロードのそばにいれば少しずつ癒えるのかもしれない――、そんなことを思った。
朝食後すぐにやってきたクロードは、遥香の顔を見て心配そうに眉を寄せた。
彼は入れ替わった遥香を心配して、時間の許す限りそばについていてくれる。今日も例外なく部屋にやってきたのだが、今朝から暗い表情を浮かべている遥香にすぐに気がついたようだった。
クロードは侍女がいては遥香の気が抜けないと判断したのか、部屋にいた彼女たちを全員控室に下げると、ソファに座る遥香の隣に腰を下ろす。
クロードは手を伸ばし、遥香の目尻に触れる。
「少し赤くなっている。泣いていたのか? ……不安か?」
クロードは遥香の元気がないのは、元の世界に戻れないからだろ思ったらしい。
遥香は頭を振り、きゅっと唇をかんだ。
言っていいのかどうかはわからない。クロードはリリーが好きで――、弘貴が遥香ではなくリリーを愛していたのだと告げれば、彼はどんな顔をするだろう。
クロードを困らせてしまうかもしれない。
それでも、誰かに甘えたいほど遥香の心は弱っていて――、弘貴に似ているクロードの顔を見ていると、泣いては駄目だと思うのに、自然と涙が溢れてくる。
「……っ」
必死に嗚咽をかみ殺して泣き止もうとしていると、クロードにぎゅっと抱きしめられた。
「すまない。できるだけ早く、元に戻る方法を探してやるから――」
クロードが謝ることなんて何もない。遥香とリリーが入れ替わったのも、遥香が泣いているのも、すべて彼のせいではないのだから。
クロードの白いシャツに、遥香の涙が吸い取られていく。
顔をあげなくてはと思うのに、クロードの胸は温かくて、遥香は縋りついてしまっていた。
「……夢を、見たの」
「夢?」
「いつもの夢。リリーと、弘貴さんがいた」
「ああ、その夢か」
クロードはそれほど夢を見ないらしい。それでも忘れたころに、同じように弘貴の暮らす世界の夢を見るという。
「夢を見て帰りたくなったのか?」
クロードの手が遥香の髪を撫でていく。
体はリリーだが、中身はクロードよりもずっとと年上なのに、どうしてかクロードの方が遥香よりも大人びていて、――気がつけば、遥香は彼に甘えてしまう。
「……そうじゃないの」
瞬きをすれば、涙があふれてクロードのシャツへと吸い取られる。このままでは彼のシャツをぐしゃぐしゃにしてしまうかもしれない。そう思って顔をあげようとしたのだが、頭におかれたクロードの手にやんわりと阻まれてしまった。
「そうじゃないなら、どうした?」
あやすように頭が撫でられ、背中がリズミカルに叩かれる。
優しいところも弘貴とよく似ていると思えば、もう、止まらなかった。
「弘貴さんが……、好きだったのはわたしじゃなかったみたい」
「なに?」
クロードの手がぴたりととまった。
「ずっと不思議だったの。どうしてわたしなんだろうって。……でも、やっとわかった。弘貴さんはずっと、……ずっと、リリーが……好きだったの」
言葉にすればぎゅっと胸のあたりが締め付けられて、声が震える。弘貴はリリーが好きだった――、遥香は、かわりだったのだと、発した自分の言葉に打ちのめされそうだった。
「わたし……、愛されてなかった、みたい……」
「そんなはずは……」
「だって、弘貴さんが言っていたもの。……ずっと夢で見ていたって、守ってあげたいと思っていたって、……このままずっと一緒にくらそうって、言っていたもの……」
「………」
「好き……、だったのに……」
クロードが眉を顰める。遥香を抱きしめる腕に力がこもった。
そのまま遥香もクロードも何も言わなくなってしまったので、遥香のしゃくりあげる声だけが部屋に小さく響く。
やがて、クロードは遥香を抱きしめたまま口を開いた。
「……結婚の日取りが決まっている」
「え……?」
「決定しているから、後にずらすことはできない」
突然何を言い出すのだろうと、遥香はクロードの腕の中で顔をあげた。
クロードと視線がぶつかって、その青い瞳が真剣な色を宿していることに驚く。
クロードはじっと遥香の瞳を見つめると、彼女の目尻に溜まった涙を指の腹でぬぐいながら続けた。
「このまま、元に戻らなければ……、俺は、お前と結婚式をあげようと思っている」
遥香は大きく目を見開いた。
「もちろん、俺はリリーを愛している。それは変わらない。でも……、このままずっともとに戻らなければ、俺はお前を、リリーのかわりではなく、『遥香』として向き合いたいと思う。俺は決してお前を放り出したりしない。……だから、もう泣くな」
それは、クロードが言える精いっぱいの言葉のように思えた。
気を遣わせてしまったのだと思うと同時に、彼の優しさに、遥香はまた泣きたくなる。
「おい、……泣くなと」
クロードが戸惑った表情を浮かべた。
遥香の涙はまだしばらく止まらなくて――、彼の腕の中に身を預けながら、もしかしたら、傷ついた心はクロードのそばにいれば少しずつ癒えるのかもしれない――、そんなことを思った。
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