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第一部 夫の生殺与奪の権利、いただきます

やり直し王女、夫の生殺与奪の権利を握る 4

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 同盟国マグドネル国の要請を受けて戦に参加することが決まり、武装した兵士たちを送り出すこととなった日。
 ヴィオレーヌは父に無理を言って、彼らの見送りに顔を出した。

 ヴィオレーヌが戦場に出ることも考えたら、それは父に止められた。
 ヴィオレーヌが出たら戦況は変わるだろうし、恐らくマグドネル国が勝利を収めるだろう。
 けれども同時に、父が必死に隠していたヴィオレーヌの実力が外部に漏れることになる。
 マグドネル国が圧力をかけてヴィオレーヌを奪い取り戦に利用しようとする可能性もあったし、下手をすれば脅威とみなされて近隣諸国からモルディア国が攻め入られる可能性もあった。

 ヴィオレーヌが奪い取られた場合、マグドネル国の現王は野心のある男で、ルウェルハスト国に勝利したのち、ヴィオレーヌを兵器として近隣諸国に攻め入ろうとするだろう。
 同盟国の要請だから仕方なく戦争に協力することになったが、父は基本的に争いごとを好まない性質だ。娘が兵器として利用されるのは絶対に避けたいと言った。

 ヴィオレーヌとしても、ここでマグドネル国側が勝利した場合、また違った嫌な未来が発生する可能性があって、それならば下手なことはしない方がいいと思われた。
 けれども自国の兵士たちが傷つき命を落とすのはどうしても耐え難く、見送りに来た際に、彼らが死なないように全員に守りの聖魔法をかけた。
 人数が人数だったので、全員に魔法をかけ終えた後、力を使いすぎてヴィオレーヌは倒れたが、自分が数日寝込むだけで彼らの命が助かるなら安いものだ。

「まったく姉様は無茶するんだから」
「本当だよ。しばらく安静にしているんだよ?」

 幼い双子の弟たちが枕元でぷんぷん怒るのを苦笑して見やり、モルディア国の指揮を執るため戦場に向かった騎士団長を心配する義母を見る。

「お義母様、おじいさまにも守りを授けました。大丈夫ですよ」

 義母の父なので騎士団長とヴィオレーヌには血のつながりはないが、「おじいさま」と呼ぶことを許してくれた騎士団長のことをヴィオレーヌも大好きだった。絶対に死なせたくない。

「ええ、わかっていますよ。ヴィオの力を疑っているわけではないの。ただ……、こんな戦、したくないわね、と」
「そうですね……」

 ヴィオレーヌも、できることなら戦はしたくない。
 けれど、避けて通れぬのなら、自国の兵士たちは何が何でも守らねばならない。
 ヴィオレーヌはそののちも、追加で兵士が国を出立する時には全員に守りを授け、いつしか彼女はモルディア国の聖女とささやかれるようになっていた。

 そして、四年の月日が経ち、ようやく戦争が終結する。
 四年にもわたって繰り広げられた戦で、マグドネル国にもルウェルハスト国、もちろんモルディア国にも多大なる被害を出したが、ヴィオレーヌの守りの聖魔術のおかげでモルディア国の兵士は誰一人死ぬことなく自国に戻ることができた。
 マグドネル国はそれを怪訝がったが、モルディア国の兵士は誰一人としてヴィオレーヌに守りの聖魔術のことは口にせず、ただ、モルディア国の聖女の祈りが神に届いたのだと言った。

 そして、未来はヴィオレーヌの経験した通りに進む。
 マグドネル国の王女に代わりルウェルハスト国に嫁ぐことが決まったヴィオレーヌは、ぎゅっと拳を握り締めて虚空を睨んだ。

(今度は絶対に生き延びてみせるわ)

 モルディア国の平和のために、ヴィオレーヌはどんな手段を用いてでも敵国で生き抜く決意を固めたのだ。


 ――そして、ヴィオレーヌは夫となるルーファスに、剣を突きつけた。


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