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56.記憶喪失の妹
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結局馬車は、無事に最寄りの町まで辿り着いていた。
熊は馬車に興味を持たず、すぐに離れて行ったのである。
それからは御者から、平謝りされた。とはいえ、今回彼に罪があるという訳ではない。あんな所に熊がいることなんて、予想外だっただろうし。
「あの、それでどうなんですか? エムリーは……」
「これは、記憶喪失ですね。私も専門ではないので、詳しいことは言えませんが……」
「やはり、そういうことなのですね」
最寄りの町は、それ程大きな町ではない。そのため、診療所程度しかなかった。
とはいえ、この町医者の診断は急な貴族の患者にも、特に動揺せずに対応してくれた。恐らく場数を踏んでいるのだろう。その診断は、信頼できそうだ。
「念のため、大きな病院などで診てもらった方がいいですね。ただ、外傷や脳に異常なども見つかりませんでしたから、その点はご安心ください」
「あ、ありがとうございます」
先生から話を聞いた私は、エムリーの方に視線を向けた。
この話の最中、彼女はずっとニコニコしている。いつもならそれは表面上だけの笑みだと思うのだが、今は本心からの笑みだろう。
「あ、私もお礼を言わなければなりませんね。ありがとうございます、先生」
「いえいえ、お大事にしてくださいね」
「はい。お大事にします」
私は一瞬、エムリーの頭から花でも生えているのかと錯覚していた。
なんというか、彼女はとてもほんわかとしている。以前の妹を知っている身からすると、それはとても奇妙なことなのだが、とにかく彼女は人が変わった。
「お姉様、これから私はどうすればいいんですか? 確か、里帰りの途中だったのですよね?」
「え? ええ、そうね。まあ、ここからなら実家に戻って病院に行くのがいいかしらね」
「お父様とお母様に会うんですか? 少し不安です」
「大丈夫、二人とも温かく迎え入れてくれると思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうですとも」
今のエムリーは、幸か不幸か善良だった。
そんな彼女にはいつも通りの対応なんてできないし、正直私は困っている。
「ふふ、頼りになるお姉さんがいて良かったですね」
「はい。お姉様がいてくれて、良かったと本当に思います。何も思い出せないのが、とてももどかしいのですけれど」
エムリーの少し申し訳なさそうな顔に、私は思わずそんなことを言ってきた。それに私は、苦笑いを浮かべるしかない。
正直な所、彼女に記憶を思い出して欲しいのかどうかは、自分でもよくわからなかった。私としては今の彼女の方が絶対にいいと思うのだが、思い出さなくてもいいと言い切れないのだ。
まあとにかく、起きてしまったことは仕方ない。とりあえず私は、エムリーを実家まできちんと連れて帰ることにしよう。
熊は馬車に興味を持たず、すぐに離れて行ったのである。
それからは御者から、平謝りされた。とはいえ、今回彼に罪があるという訳ではない。あんな所に熊がいることなんて、予想外だっただろうし。
「あの、それでどうなんですか? エムリーは……」
「これは、記憶喪失ですね。私も専門ではないので、詳しいことは言えませんが……」
「やはり、そういうことなのですね」
最寄りの町は、それ程大きな町ではない。そのため、診療所程度しかなかった。
とはいえ、この町医者の診断は急な貴族の患者にも、特に動揺せずに対応してくれた。恐らく場数を踏んでいるのだろう。その診断は、信頼できそうだ。
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「あ、ありがとうございます」
先生から話を聞いた私は、エムリーの方に視線を向けた。
この話の最中、彼女はずっとニコニコしている。いつもならそれは表面上だけの笑みだと思うのだが、今は本心からの笑みだろう。
「あ、私もお礼を言わなければなりませんね。ありがとうございます、先生」
「いえいえ、お大事にしてくださいね」
「はい。お大事にします」
私は一瞬、エムリーの頭から花でも生えているのかと錯覚していた。
なんというか、彼女はとてもほんわかとしている。以前の妹を知っている身からすると、それはとても奇妙なことなのだが、とにかく彼女は人が変わった。
「お姉様、これから私はどうすればいいんですか? 確か、里帰りの途中だったのですよね?」
「え? ええ、そうね。まあ、ここからなら実家に戻って病院に行くのがいいかしらね」
「お父様とお母様に会うんですか? 少し不安です」
「大丈夫、二人とも温かく迎え入れてくれると思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうですとも」
今のエムリーは、幸か不幸か善良だった。
そんな彼女にはいつも通りの対応なんてできないし、正直私は困っている。
「ふふ、頼りになるお姉さんがいて良かったですね」
「はい。お姉様がいてくれて、良かったと本当に思います。何も思い出せないのが、とてももどかしいのですけれど」
エムリーの少し申し訳なさそうな顔に、私は思わずそんなことを言ってきた。それに私は、苦笑いを浮かべるしかない。
正直な所、彼女に記憶を思い出して欲しいのかどうかは、自分でもよくわからなかった。私としては今の彼女の方が絶対にいいと思うのだが、思い出さなくてもいいと言い切れないのだ。
まあとにかく、起きてしまったことは仕方ない。とりあえず私は、エムリーを実家まできちんと連れて帰ることにしよう。
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