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57.両親の考え

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「まさか、記憶喪失とは……」
「そういうものがあるとは認識してはいたけれど……」
「ああ、実際に周りでそのようなことが起こるとは思っていなかったことだ」

 お父様とお母様は、エムリーの記憶喪失にかなり驚いているようだった。
 それは当然のことである。私だって、まだ事実を完全に受け入れられている訳ではない。未だに信じられないことなのだ。

「まあ、それ以外に問題がなかったということを喜ぶべきだろか」
「そうですね。確かに怪我がなかったことは何よりです」

 お父様とお母様は、そんなことを話しながら笑顔を浮かべていた。
 二人は、エムリーのことを本当の娘だと思っている。例の事実が判明してから、両親とは初めて顔を合わせるので、私は改めてそのことを実感していた。
 そういえば、エムリーはそのことも忘れてしまっているのだろうか。そのことについては、話し合っておかなければならないかもしれない。

「お父様、お母様、エムリーの出自のことなのですけれど、今の彼女にそれを話しますか?」
「……そのことか。確かに、考えるべきことではあるな」
「どちらがいいかは、微妙な所ですね。でも、事実を隠していると、いざ知った時に傷つくかもしれません。早く話しておいた方がいいのではないでしょうか。それがあの子のためになると、私は思います」
「ああ、私も気持ちは同じだ」

 お父様とお母様が言っている通り、エムリーに事実は話しておくべきだろう。
 何かの拍子に知って傷つけるよりも、その方がいい。実際に、記憶を失う前の彼女はひどく憔悴していた訳だし、ここは家族会議の場を設けて、きちんと話しておいた方が良さそうだ。

「イルリア、先に言っておく。私達は、エムリーのことを……」
「お父様、言われなくてもわかっています。私も今更、エムリーのことを妹でないなんて思うことはできませんから」

 私は、お父様の言葉を遮った。
 エムリーとは色々とあった訳だが、それでも彼女は妹でしかない。それはずっと思っていたことだ。
 仲の悪い姉妹、それが私達の関係性である。それ以上でもそれ以下でもない。

「そうか。お前がそう思ってくれているならそれでいい」

 お父様は、そのように短く言葉を返してきた。
 両親は、私達の関係をどう思っているのか。それは実の所不明だ。わかっているような気もするし、わかっていないような気がする。
 まあ、どちらにしても、その真偽は今はそれ程重要ではない。今はそれよりももっと重大なことに、対処しなければならないのだから。
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