42 / 100
42.力強い抱擁
しおりを挟む
「……可愛い」
「え?」
少しの沈黙の後、ヴェルード公爵夫人はゆっくりと口を開いた。
その言葉に、私はロヴェリオ殿下と顔を見合わせることになった。驚いて彼の方を見たら、彼も私の方を見ていたのだ。
つまりこれも、いつものヴェルード公爵夫人ではないということだろう。というか、今の言葉は一体何に向けての言葉なのだろうか。
「まあ、あの人とカルリアの子供だものね。それは当たり前かしら?」
「え、えっと……」
「抱きしめてもいい?」
「あ、はい……」
私が頷くと、ヴェルード公爵夫人がゆっくりと姿勢を低くして、そっと手を伸ばしてきた。困惑しながらも、私はその抱擁を受け入れる。
どうやら、先程の発言は私に向けてのものだったようだ。夫人がお母さんとは友好的な関係であるということは聞いていたが、私に対しても友好的ということだろうか。
「はあ……」
「あの、ヴェルード公爵夫人……」
「その言い方は、少し硬いわね。レセティアと名前で呼んで頂戴」
「レセティア様、ですか?」
「ええ……ああ、あなたともっと早く会いたかったわね」
ヴェルード公爵夫人改めレセティア様は、少し泣きそうな声を出していた。
お母さんはレセティア様に仕えていたと聞く。もしかして、私が思っていた以上に親しい関係であったのだろうか。その辺りについては、今度聞いてみた方がいいかもしれない。
何はともあれ、レセティア様が私に対しても友好的であることは確実だ。私を強く抱きしめて、髪をゆっくりと撫でてくれているし、それは間違いない。
「うーん……連れて帰っちゃおうかしら?」
「え?」
「叔母上、何を言っているんだよ?」
「ああ、ごめんなさい。色々と感慨深いものがあって」
ロヴェリオ殿下の呼びかけに、レセティア様はやっと私のことを離してくれた。
その様子に、ずっと見ていたロヴェリオ殿下は少し呆れているようだった。そんな彼に対しても、レセティア様は目を細めて笑っている。
どうやらそちらに対しても、結構な愛を向けているようだ。子供好き、ということなのだろうか。思っていたよりも、ずっと親しみやすい人なのかもしれない。
「ロヴェリオ殿下とこうして顔を合わせるのも、結構久し振りでしたね。最近は、私の方が色々と忙しかったから、ゆっくりと話せる時間がなくて……」
「叔母上って、そんな感じでしたかね? もう少し堅い印象があったんですけど……」
「あら? 私にそんなイメージを持っていたのですね。まあ確かに、公の場では気を引き締めていますけれど……最近会っていなかった弊害かしらね?」
「……そ、そうだったのか。知らなかった」
ロヴェリオ殿下は、叔母様のことはそれ程よく知っている訳でもなかったようだ。
思い返してみると、私が来てからのことを考えても、二人は確かにあまり顔を合わせていなかったような気がする。単純に二人とも忙しい訳だし、そういった時間に恵まれなかったのだろうか。
そのためロヴェリオ殿下は、公的なイメージに印象が引っ張られていた。そういうことなのだろう。
「え?」
少しの沈黙の後、ヴェルード公爵夫人はゆっくりと口を開いた。
その言葉に、私はロヴェリオ殿下と顔を見合わせることになった。驚いて彼の方を見たら、彼も私の方を見ていたのだ。
つまりこれも、いつものヴェルード公爵夫人ではないということだろう。というか、今の言葉は一体何に向けての言葉なのだろうか。
「まあ、あの人とカルリアの子供だものね。それは当たり前かしら?」
「え、えっと……」
「抱きしめてもいい?」
「あ、はい……」
私が頷くと、ヴェルード公爵夫人がゆっくりと姿勢を低くして、そっと手を伸ばしてきた。困惑しながらも、私はその抱擁を受け入れる。
どうやら、先程の発言は私に向けてのものだったようだ。夫人がお母さんとは友好的な関係であるということは聞いていたが、私に対しても友好的ということだろうか。
「はあ……」
「あの、ヴェルード公爵夫人……」
「その言い方は、少し硬いわね。レセティアと名前で呼んで頂戴」
「レセティア様、ですか?」
「ええ……ああ、あなたともっと早く会いたかったわね」
ヴェルード公爵夫人改めレセティア様は、少し泣きそうな声を出していた。
お母さんはレセティア様に仕えていたと聞く。もしかして、私が思っていた以上に親しい関係であったのだろうか。その辺りについては、今度聞いてみた方がいいかもしれない。
何はともあれ、レセティア様が私に対しても友好的であることは確実だ。私を強く抱きしめて、髪をゆっくりと撫でてくれているし、それは間違いない。
「うーん……連れて帰っちゃおうかしら?」
「え?」
「叔母上、何を言っているんだよ?」
「ああ、ごめんなさい。色々と感慨深いものがあって」
ロヴェリオ殿下の呼びかけに、レセティア様はやっと私のことを離してくれた。
その様子に、ずっと見ていたロヴェリオ殿下は少し呆れているようだった。そんな彼に対しても、レセティア様は目を細めて笑っている。
どうやらそちらに対しても、結構な愛を向けているようだ。子供好き、ということなのだろうか。思っていたよりも、ずっと親しみやすい人なのかもしれない。
「ロヴェリオ殿下とこうして顔を合わせるのも、結構久し振りでしたね。最近は、私の方が色々と忙しかったから、ゆっくりと話せる時間がなくて……」
「叔母上って、そんな感じでしたかね? もう少し堅い印象があったんですけど……」
「あら? 私にそんなイメージを持っていたのですね。まあ確かに、公の場では気を引き締めていますけれど……最近会っていなかった弊害かしらね?」
「……そ、そうだったのか。知らなかった」
ロヴェリオ殿下は、叔母様のことはそれ程よく知っている訳でもなかったようだ。
思い返してみると、私が来てからのことを考えても、二人は確かにあまり顔を合わせていなかったような気がする。単純に二人とも忙しい訳だし、そういった時間に恵まれなかったのだろうか。
そのためロヴェリオ殿下は、公的なイメージに印象が引っ張られていた。そういうことなのだろう。
871
お気に入りに追加
3,250
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる