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43.メイド服の母

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「……こちらにいらっしゃいましたか」
「あら……」
「あっ……」
「あれは……」

 レセティア様も含めて、私達は中庭に向かって来ている人がいることに気付けなかった。
 話に集中していた故に、周囲の状況が見えていなかったのである。だから声をかけられて、やっとそれがわかった。
 その声の主がお母さんであることは、すぐにわかった。しかし、その姿を見て私は固まる。お母さんは、メイド服に身を包んでいたのだ。

「お、お母さん?」
「クラリア、ロヴェリオ殿下と話していたのね?」
「あ、うん。その恰好は?」
「これからは、ヴェルード公爵家で働かせてもらえることになったのよ」
「お母さんが、メイドに?」
「ええ、まあ、元々そうだった訳だから、元鞘に納まったということかしらね……」

 お母さんがこちらでお世話になると言っていたのは、どうやらメイドとして、という意味だったようである。
 それは驚くべきことだった。ただ、納得ができない訳でもない。お母さんは、働かずにヴェルード公爵家にお世話になろうなんて思わない人だ。それは、少し考えればわかることだった。村にいた頃もお母さんは、働き者だったのだから。

「……カルリア、よく似合っているわね。私からすれば、やはりその姿の方が馴染み深い訳だし」
「お褒め頂き、ありがとうございます。とはいえ、この年になってまたこのメイド服に身を包むというのは、案外恥ずかしいものですね。ここのメイド服は、なんだか可愛らしいですし」
「あら、メイド長はあなたよりも年上よ?」
「慣れというものが、あるのかもしれませんね」

 お母さんとレセティア様の会話を聞いて、私は自分が思っていたことが間違っていなかったということを悟った。
 二人は仲が良いのだ。それもきっと、かなり親密な仲である。多分、主従とかそういったこと以上のものが感じられる。
 レセティア様にとって、私は妾の子というよりも、親友とか妹の娘みたいなものなのかもしれない。あの友好的な雰囲気から考えると、私としてもそちらの方がしっくりくる。

「でも、似合っているのは本当よ? クラリアもそう思うわよね?」
「あ、はい。お母さん、すごく似合っているよ」
「そ、そうかしら?」

 レセティア様から声をかけられて、私はお母さんの姿を改めてみた。
 こうして見てみると、本当によく似合っていると思う。一体何を、恥ずかしがる必要があるのだろうか。それが私には、よくわからない。

「私も着てみたいなぁ」
「あら? そういうことなら、着てみる?」
「え? いいんですか?」
「ええ、もちろん外の人には見せられないけれど、屋敷の中で着る分なら問題はないわ」
「奥様、それは……」
「大丈夫よ。私が責任を持つから」

 私の何気ない一言に、レセティア様はとても明るい声色で答えてくれた。
 一方で、お母さんの声色は少し重たい。やはりこれは、駄目な提案だったのだろうか。
 ただ、私としても着てみたいという気持ちはある。ここはレセティア様の言葉に、甘えることにしよう。
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