妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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38.優先するべきこと(アドルグside)

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「……まあ、遺恨があるとかそういう訳ではないというなら、喜ぶべきことと言えなくはないのかもしれないわね」

 長い沈黙を破ったのは長女であるイフェネアだった。
 しかしそれも、なんとか言葉を絞り出したという感じだ。それを悟ったアドルグは、ゆっくりとため息をつく。

「少々理解できない事柄ではあるけれど、姉上の言う通りと言えば言う通りでしょうね。まあ、喜ぶべきことなのかは少々考える必要があるとは思いますが……」
「ウェリダン、もちろんそれは私もわかっているわよ? とはいえ、クラリアが生まれてきたことは喜ばしいことではあるし……」
「姉上、それは僕もわかっています。しかし、貴族にとってこれは重要な問題です。それに父上と母上の道楽によって、一人の女性の人生が狂わされている訳ですからね」
「それは……そうだけれど」
「……いえ、僕もクラリアのことを否定したい訳ではありません。どうやらこれは、僕達にとっては中々に厄介な問題ですね」

 クラリアと親しい関係にあるためか、イフェネアとウェリダンの歯切れは悪かった。
 今回の件は非難されるべき事柄であるということは、二人も充分わかっている。しかしそれを強く否定すると、クラリアが生まれたことを否定することになるため、言葉を詰まらせているのだ。
 そのことについては、アドルグも考えていることではあった。ただ彼の中では、それは一つの結論で落ち着いている。

「要するに、お父様とお母様は最低だってことだよね?」
「オルディア、それは言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎなんてことはないさ。僕達は貴族だからね。こういう所はきちんとしておかなければならないだろうさ。というか、貴族じゃなくてもまずいことかもしれないね」
「うーん。まあ、私もお父様とお母様は駄目駄目だとは思うけど」

 双子の姉弟は、概ねアドルグが抱いているのと同じような感想を抱いていた。
 今回の件については、アドルグは父と母に全ての責任があり、そのことについては責められるべきだと思っている。
 国王から充分にお叱りを受けたものの、それでもまだ充分ではないとアドルグは思っていた。少なくとも彼は、断固とした態度を取り続けるつもりだ。

「それぞれの意見はあると思うが、重要なことは一つだ」

 そこでアドルグは、再び言葉を発した。
 ヴェルード公爵家の後継ぎとして長兄として、彼にはこの場を取りまとめる役目があった。故に全員を見渡してから、一度間を置く。

「お前達が優先するべきは、クラリアのことだ。その笑顔を守ることが最優先事項であるというおことを決して忘れるな」
「それはもちろん、わかっていますよ、お兄様」
「言うまでもないことですね」
「でも、重要なことだよね?」
「ああ、そうだとも」

 アドルグの言葉に、兄弟達はしっかりと答えた。
 それを見ながら、彼は安心する。ヴェルード公爵家の絆が、万全であるということがよくわかったからだ。
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