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37.伝えておくべきこと(アドルグside)
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クラリアを除くヴェルード公爵家の兄弟達は、一つの部屋に集まっていた。
妹や弟からの視線を受けながら、アドルグは考える。兄弟達に、一体どこまで事情を話すべきなのかを。
「……アドルグお兄様は、事情を知っているようですね」
「む……」
「良ければ、教えていただけませんか? 正直、私達としてはよくわからないのです。もちろん喜ばしいことではありますけれど、クラリアのお母様が両親と一緒に帰って来たということが、私にはわからないのです」
そんな風にアドルグが悩んでいると、イフェネアから問いかけられた。
自分を除くと長姉であるイフェネアが、今は兄弟達のまとめ役であることをアドルグは悟る。妹達の意思は一つだ。事情を自分から聞き出そうとしている。それを理解したアドルグは、ゆっくりとため息をついた。
「もちろん、何かしらの複雑な事情があるということなのでしょうね」
「ウェリダンお兄様? それはどういうことですか?」
「母上は寛大な方ですが、いくら何でも浮気相手とあのように親しく話すとは考えにくいでしょう。あまり考えたくないことではありますが、例えば彼女が父上の被害者であるなどというなら、この状況にもある程度は納得できます」
自分が屋敷を立つ前とは明らかに変わったウェリダンの言葉に、アドルグは頭を抱えることになった。
弟にどうしてそのような変化があったのか、それを聞きたいというのに聞けない今が、彼にとってはもどかしいものである。
さらに両親がしたことについても、進んで話したいことという訳ではなかった。
その恥ずべき事柄は、悪意などがあった訳ではないが、子供の立場で知ると辛いということは、誰よりもアドルグ自身がわかっていたことである。
「ウェリダン兄上、僕は父上がそのようなことをする人だとは信じたくありません……もしかしたら、クラリアには何か特別な事情があるのではありませんか?」
「オルディア、あなたはどのような予測を立てているのですか?」
「……例えば、クラリアには何か保護するべき理由があって、父上の子として扱っているなどということです。その場合、僕達はクラリアと血が繋がっていないということになりますが、まあそれは些細なことでしょう」
兄弟達が予測を話しているのは、自分が切り出さないからだということをアドルグは理解していた。
このままでは話がどんどんとそれてしまう。それを危惧したアドルグは意を決して、自分が知っている事情を兄弟達に話すことにした。
「オルディア、クラリアは間違いなく俺達の妹だ。それに父上はひどい男という訳でもない。もちろん問題はあった訳だが……」
「そうなのですか?」
「おやおや、それなら一体何があったのでしょうか?」
「父上と母上は当時メイドだったカルリアを巻き込んだそうだ。当時の三人は、それが許容できる関係性ではあったそうだが……」
言葉を発しながらアドルグは、弟達が固まっているのを感じていた。
ウェリダンやオルディアの想定よりも、事態は深刻なものではないといえる。
ただそれでも、受け止めるには時間がかかるということは、アドルグもわかっていた。故に彼は、兄弟達が事態を受け入れるまで待つのだった。
妹や弟からの視線を受けながら、アドルグは考える。兄弟達に、一体どこまで事情を話すべきなのかを。
「……アドルグお兄様は、事情を知っているようですね」
「む……」
「良ければ、教えていただけませんか? 正直、私達としてはよくわからないのです。もちろん喜ばしいことではありますけれど、クラリアのお母様が両親と一緒に帰って来たということが、私にはわからないのです」
そんな風にアドルグが悩んでいると、イフェネアから問いかけられた。
自分を除くと長姉であるイフェネアが、今は兄弟達のまとめ役であることをアドルグは悟る。妹達の意思は一つだ。事情を自分から聞き出そうとしている。それを理解したアドルグは、ゆっくりとため息をついた。
「もちろん、何かしらの複雑な事情があるということなのでしょうね」
「ウェリダンお兄様? それはどういうことですか?」
「母上は寛大な方ですが、いくら何でも浮気相手とあのように親しく話すとは考えにくいでしょう。あまり考えたくないことではありますが、例えば彼女が父上の被害者であるなどというなら、この状況にもある程度は納得できます」
自分が屋敷を立つ前とは明らかに変わったウェリダンの言葉に、アドルグは頭を抱えることになった。
弟にどうしてそのような変化があったのか、それを聞きたいというのに聞けない今が、彼にとってはもどかしいものである。
さらに両親がしたことについても、進んで話したいことという訳ではなかった。
その恥ずべき事柄は、悪意などがあった訳ではないが、子供の立場で知ると辛いということは、誰よりもアドルグ自身がわかっていたことである。
「ウェリダン兄上、僕は父上がそのようなことをする人だとは信じたくありません……もしかしたら、クラリアには何か特別な事情があるのではありませんか?」
「オルディア、あなたはどのような予測を立てているのですか?」
「……例えば、クラリアには何か保護するべき理由があって、父上の子として扱っているなどということです。その場合、僕達はクラリアと血が繋がっていないということになりますが、まあそれは些細なことでしょう」
兄弟達が予測を話しているのは、自分が切り出さないからだということをアドルグは理解していた。
このままでは話がどんどんとそれてしまう。それを危惧したアドルグは意を決して、自分が知っている事情を兄弟達に話すことにした。
「オルディア、クラリアは間違いなく俺達の妹だ。それに父上はひどい男という訳でもない。もちろん問題はあった訳だが……」
「そうなのですか?」
「おやおや、それなら一体何があったのでしょうか?」
「父上と母上は当時メイドだったカルリアを巻き込んだそうだ。当時の三人は、それが許容できる関係性ではあったそうだが……」
言葉を発しながらアドルグは、弟達が固まっているのを感じていた。
ウェリダンやオルディアの想定よりも、事態は深刻なものではないといえる。
ただそれでも、受け止めるには時間がかかるということは、アドルグもわかっていた。故に彼は、兄弟達が事態を受け入れるまで待つのだった。
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