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30.変えるべき現状

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「ランペシー侯爵と話はついた。ランペシー侯爵家は、今回の件の非を全面的に認めて、誠意を見せてくれた。貴族として、こちらがランペシー侯爵家に求めることはもうない」
「そうですか……」

 ランペシー侯爵とアルペリオ侯爵令息が屋敷を去ってから、私とロンダーはお父様に呼び出されていた。
 お父様は、ことの顛末を淡々と教えてくれている。その事務的な態度は、物悲しい。やはり親友との別れに、色々と思う所があるのだろう。

「しかしだ、今回の件において私はあることを知った。ランカーソン伯爵夫人のことだ。あの女の存在は、凡そ許容できるものではない」

 そこでお父様は、少しだけ表情を変えた。
 それはいつもの凛々しい侯爵としての表情だ。

「ランカーソン伯爵夫人という悪鬼羅刹が跋扈しているこの現状は、誰かが変えなければならない。いつまでもあのような愚物をのさばらせておけるものか」
「お父様……私達も気持ちは同じです」

 お父様は、基本的に厳格な人である。そんなお父様にとって、あの伯爵夫人の振る舞いは許せないものなのだろう。
 また、ランペシー侯爵の仇討ちの気持ちもあるかもしれない。今回の件で決別することになったが、それでも心はまだ親友なのだろうから。

「しかし父上、彼女は父上に怯えていましたが、本当に権力者達を味方にすることができます。そうなったら、こちらの勝ち目も薄くなってしまうのではありませんか」
「あまり私を侮るな、と言いたい所だが、確かにあの女が完璧な行動をすれば、こちらの戦況は悪くなるだろう。それができるかとは思えないが、念には念を入れて、今回は味方を集めておくとしよう」

 お父様は、とても冷静だった。ランカーソン伯爵夫人をあれだけ痛烈に打ち負かしても、決して油断はしていないようだ。
 実際の所、彼女の力というのは未知数である。念には念を入れておくべきなのは、間違いないだろう。

「ロンダー、クルレイド殿下に助力を求めることは可能か?」
「……クルレイドさんに、ですか?」
「ああ、お前達の話によれば、第二王子はランカーソン伯爵夫人に対してお怒りのようだ。こちらに手を貸してくれるかもしれない。親しいお前から、話を持ち掛けて欲しいのだ」
「わ、わかりました。多分、クルレイドさんなら協力してくれると思います」

 お父様の言葉に、ロンダーはゆっくりと頷いた。
 確かに、クルレイド様なら心強い味方になってくれるだろう。私も味方と聞いて、最初に思い浮かべたのは彼の顔だ。

「……父上、そういうことなら姉上も王都に連れて行っていいですか?」
「レミアナを? 別に構わないが……何かあるのか?」
「姉上は直接の被害者ですからね。同情してもらえるかと」
「なるほど、レミアナは構わないか?」
「はい、もちろんです」

 お父様の言葉に、私は頷いた。
 当然のことながら、私もやれることは全力でやるつもりだ。これ以上あのランカーソン伯爵夫人を自由にさせるつもりはない。


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