上 下
25 / 34

25

しおりを挟む
 私とレイグスは、すぐに宿の外に出て行った。
 外にいる第二王子のヘルゼン様と会うためである。

「あなたは……」

 私達が出て行くと、ヘルゼン様はすぐに気づいた。
 私は、聖女として顔が知れている。彼も、だからわかったのだろう。

「ヘルゼン様、お久し振りです」
「アルメアさん……まさか、聖女であるあなたに、この町で出会うとは思っていませんでしたよ」
「ヘルゼン様、私はもう聖女ではありません。色々と事情があって、聖女をやめました」
「ほう……聖女をやめた。なるほど、なんとなく事情が見えてきましたね」

 私の言葉に、ヘルゼン様は少し真剣な顔になった。
 双子であるため、彼はビクトンとそっくりだ。だが、その顔つきは大きく違う。
 彼は、とても凛々しいのだ。あの情けない王子と顔は似ていても、内面は全く違うということがよくわかる。

「大方、ビクトンが何かやらかしたということですか?」
「そういうことです」
「なるほど、まったく、まさか、そこまで不甲斐ないとは……」

 ヘルゼン様は、私が聖女をやめた原因がビクトンであるとすぐに感づいた。
 それは、当然のことである。彼は、ビクトンが業務を始めた時に、王都から旅立った。その前は、私が普通に聖女を務めていたので、やめた原因は大方予想できるだろう。

「ヘルゼン様は、未踏の地の調査が終わったのですか?」
「ええ、いい成果は得られましたよ。自ら立候補した甲斐があったというものです」

 ヘルゼン様は、この王国の領土でもない地を探索する役目を担っていた。
 勇気ある彼は、自ら指揮を執り、未踏の地を探索していたのである。
 そのため、彼はこの国の内情をよく知らないのだ。恐らく、彼は普通に王都に戻ろうとしているだけだろう。

「しかし、あなたが元聖女であっても、どうしてこのような町にいるのでしょうか? 旅行というなら、わざわざ私に話しかけてきませんよね?」
「ヘルゼン様、あなたは今この国で何が起こっているのかご存知ですか?」
「……何か、起こっているようですね」

 私の質問に、ヘルゼン様は顔を歪めた。
 話が早くて、とても助かる。余計なことを説明する手間が省けるからだ。

「おかしいとは思っていました。この町にやけに人が多いのには、何か理由があるのですね?」
「ええ……最も、私もそれを完全に理解している訳ではありません。私の推測も混ざっていますが、構いませんか?」
「ええ、構いません。聞かせてください」

 私の言葉に、ヘルゼン様はゆっくりと頷いた。
 こうして、私は彼に色々な事情を説明するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!

naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。 サラッと読める短編小説です。 人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。 しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。 それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。 故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。

処理中です...