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14.かけるべき言葉

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「ふう……」

 イルヴァド様は窓際で風を浴びながら、ゆっくりとため息をついた。
 彼の表情からは、疲労が読み取れる。お兄様と話して、そうなったということだろう。

「大丈夫ですか、イルヴァド様」
「リフェリナ嬢……大丈夫です」

 私が隣に立つと、イルヴァド様は笑顔を返してきた。
 その笑顔は明るい。私に対して、暗い顔は見せないように努めてくれているようだ。
 それは紳士的な気遣いということだろうか。それとも、まだ信用できない私相手に気が抜けた顔はできないのだろうか。それは少し、気になる所である。

「……しかし、ラヴェルグ様は流石ですね」
「え?」
「これでも自信を持ってこの場に臨んだつもりでしたが、まんまとやられてしまいました。僕は未熟者ですね……まだまだ精進しなければなりません」

 イルヴァド様は、少し自嘲気味に笑みを浮かべていた。
 それに対して、なんと言葉をかけるべきか、私は少し迷ってしまった。
 彼がお兄様に押し負けたのは、紛れもない事実である。その部分を誤魔化すことなんて、彼も望んではいないだろう。それなら、それは認めた上で言葉をかけるべきかもしれない。

「イルヴァド様はお兄様よりもまだ若いのですから、それ程落ち込む必要はないと思いますよ。増してやここは私達の居城なのですから、不利なのは当然のことです。むしろ立派に戦ったといえるのではないでしょうか」
「リフェリナ嬢は、お優しい方ですね。まだ完全に味方ともいえない僕に、そのような言葉をかけてくれるなんて……」

 私の言葉に、イルヴァド様は少し嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。
 少しでも元気が出てくれたなら、私としても嬉しい。
 ただ、今言ったことは私の本心である。イルヴァド様はお兄様所か私よりも年下だ。そんな彼は、まだ悲観する必要もないだろう。

「……あ、まさか、それも作戦とか?」
「いいえ、私はお兄様程腹芸が得意という訳ではありませんから」
「そうなのですか?」
「ええ、もちろん、できないという訳ではありませんけれど、それでも先程の言葉は私の心からの言葉です」
「そ、そうですか? それなら安心できますけど……」

 お兄様の大胆な言葉があったからか、イルヴァド様は少し私のことも警戒しているようだった。
 しかし、私も未熟者である。お兄様のように、常に自分が有利になるような言動などはできない。
 それに仮にできたとしても、この場ではそのようなことをする必要はないだろう。彼は完全に味方かはわからないが、少なくとも今から協力する予定なのだから。
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