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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【21】女神同士
しおりを挟む「相変わらず仲がいいわね。あなた達」
女神アルタナの視線が、ジークとコウジの繋がれた手に注がれる。それも指をがっちりからめた“恋人つなぎ”ってヤツだ。
やばい、机の下で手をつないだままだったと、コウジはジークの手を振り払おうとしたが、ぶんぶんふっても王子様の長い指は、おじさんの節くれだった指に絡んで離れない。
「なんで離さないんだよ。お前!」
「離す必要があるのか?」
「……ま、そうだな」
真面目に見返して来る剃刀色の瞳に、あ、こりゃ聞かないヤツだとコウジは早々に諦めた。みんなの前で男同士お手々繋ぐなんて恥ずかしいとか、まあ今さらだ。婚約だってしちまったんだし、いずれ結婚するらしいし。
ようするにおじさんは開き直った。いつもはツッコミ役のシオンも、チベスナみたいな表情でこちらを見ている。コウジだけならともかく、どうも彼女もこの王子様が“暴走”したときは遠慮するようだ。まあ、なにしろ黙っているだけで迫力ある鉄面皮、なに考えているかわからない男だ。
実際はただたんにおじさんとお手々をずっと繋いでいたいという、三歳児モードが発動したとコウジはわかっている。
どうにも、まともな幼年期を送ったと思えないジークは、最近こうしてコウジに甘えてくる。
それをよちよち、可愛いな~と思っている時点でコウジも重症な自覚はある。
まあ、王子様はおじさんとお手々つないでいるだけで大人しくしてくれるからいい。女神様の後ろの事務机から、鋭い視線が飛んで来るが。
前髪をがっちり七三分けして、事務服に懐かしの黒いアームカバー姿のアンドルは、血走った目でこちらを見ていた。自分はパートナーだったユイに捨てられたのに、なぜお前達は見せつける! とその恨み節が聞こえるようだ。
声が聞こえないのは相変わらず女神様に口を塞がれているらしい。その女神様は後ろを振り返りもせずに「手を休めていると、今日のノルマ“も”終わらないわよ」と言った。七三分けの元王子にして、今、社畜? いや、神畜か? のアンドルは猛然と書類整理をし出した。
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「で、女神様がここに俺達を呼んだってことは、例の聖女がらみか?」
「そうよ、“最近”あなたたちの世界から、妹のモルガナが、兄様にねだって聖女を一人召喚したときは、たんにわたしの真似をしたいだけかと思っていたけれどね」
なるほど女神アルタナからみると、女神モルガナは妹にあたるのか。そして、兄様とはコウジ世界の神のことだ。日本を担当している。
“最近”と女神様は口にしたが、聖女が呼び出されたのはこの世界の時間にして十数年前だ。まあ神様からすれば十年なんて瞬き一つどころか、半分にも満たないだろうけれど。
その聖女様は対面したロンベラスの話からすると十代後半の少女にしか見えなかったというから、そこらへん聖女様パワーなのか、女神様の加護とやらなのか。
「まさか、こんな悪だくみをしていたなんてね」
コウジ達の世界には魔法はない。しかし、異世界から呼び出した者は強力な異能を持つという。それが魔法少女であり、この世界に魔法をもたらしたわけだが。
だからモルガナに呼び出された少女も、歴代の聖女達の誰よりも強力な力を持つことになったという。
「……というより、あの聖女はモルガナと一心同体も同じ。だから、あの力はモルガナの力そのものよ」
それが魅了、洗脳の力というわけだ。歴代の聖女もこの力を持ち、強力な宗教国家を作り上げてきたという。
「自分の創り上げた世界であがめられて満足していると思っていたら、災厄でわたしの力が弱まった、その“一瞬”を狙ってくるなんてね」
この世界の国々は虚海によって隔てられていて、神々の力は本来干渉しあえないが、災厄で女神様の結界が“一瞬”弱まったその隙を突かれたのだという。
「“一瞬”ね。それってどれぐらいなんだよ?」
「そうね、地上の時で十年ぐらいかしら?」
「それは十分長いじゃないか」
まったく神様の時間感覚というのは……だ。
「聖女様がこの国の人間を骨抜きにして、ここが第二の神聖モルガナになるのには一年もいらねぇんじゃねぇか?」
「だからあなた達を呼び出したんじゃない? これ以上、モルガナの聖女にわたしの創造した大地を穢されるなんて、冗談ではないわ。
すみやかにあれを追い返しなさい」
『簡単に言ってくれるぜ』とコウジは内心でつぶやく。
「だが相手は災厄ではなく、同じ女神様だろう? しかも近寄ったとたん、魅惑、洗脳されるような相手にどうしろと?」
「安心しなさい」とアルタナは言う。
「私の祝福を受けたあなた達はモルガナの誘惑に精神を“汚染”されることは絶対にありません」
なにも安心は出来ない。ジーク達三王子とシオンにマイア、そしてコウジが誘惑されないとして、聖女と“契約”した十七人の王子が相手なのは変わりない。
どころか、この場合、引き連れてきた味方も敵に回る可能性がある。なにしろあの鉄の意志のロンベラス将軍が自分の足を短剣で刺しながら、正気を保ったぐらいなのだ。
「聖女の姿を見た者、その声のみの一瞬で魅了するとはあまりにもその力は強すぎる」
じっと考えこんでいたジークが口を開く。
「それほどに聖女の洗脳が完璧であるならば、かの国に暗殺組織があることも矛盾しているな」
たしかに国民のすべての心も魂も掌握出来ているならば、異端者を断罪する機関など必要ない。
それにアルタナは「そうね、せいぜいが聖女の周りにいるもの、その姿を見たものがしばらくのあいだ心を囚われる程度でしょうね」と答える。
「ただ、今のモルガナは後先考えずに、全能でもって聖女を依り代に、近づく者達すべてを誘惑している状態ね。
自分の創造した地から離れていては、そうも保たないでしょうに」
神は己の創造した大地の生命の息吹と人々の信仰心を受けて力を得るのだとアルタナは続けた。
だから今のモルガナは聖女の身体を依り代にして、ため込んだ力を放出している状態で、いつかは枯れると。
「とはいえ、その枯れる前にフォートリオンの半分ぐらいは、モルガナ女神の狂信者になって、その女神様の領土になっちまうんじゃないか?」
「だから、そうなる前に追い返しなさい! と言っているのよ」
コウジの言葉に女神がキレて、話が元に戻る。アルタナは「あの妹は自己顕示欲の固まりなのよ。自分の崇拝者だけの国を作って、あげくさらに人のものを欲しがるなんて」とブツブツ言っている。
「しかし、そのモルガナって女神の国はさっきのジークの言葉の通り、全員が崇拝者ってわけじゃないみたいだぜ」
異端者が出るのだから、女神様の洗脳は完璧でないという証だ。
「だいたい聖女の周りと、その姿を見たものがせいぜいひととき夢見心地になるっていうなら、どうやって永続的に国を支配しているのか、そっちが疑問だぜ」
宗教というのは強力な縛りになるとしても、それでもだ。しかし、それに幼い声が答えた。
「麻薬ですよ」
ピートだ。「かの有名な暗殺教団が、毒物の扱いに長けているのも、その麻薬の副産物とも言われていますね」と続ける。
「ロンベラス将軍が、聖女が豹変したとき甘い香りがしたと言っていたでしょう? 聖女が住まうモルガナ女神の神殿では常に麻薬混じりの、香がもうもうと焚かれているんですよ。多分その香りでしょう」
そして、その香によって人々は聖女を見て恍惚感におちいり、様々な幸福な幻覚を見てモルガナ女神に深く帰依するのだと。
「だからあの国の神官達の寿命は短いんです。もっとも彼らとしては、モルガナ女神の御許にいち早く逝けるわけですから、それを“祝福”ととらえているみたいですけどね」
逆に一般の民の寿命は普通だというが、彼らは生まれた時よりモルガナ女神への信仰をたたき込まれている。
身分の差も貧富の差もなく、文化の発展もない停滞した社会。少しでも神の教えに反するものは異端者として、ひそかに始末される。
「なにも知らない人々は、柵に囲まれた羊のように暮らしているんですよ。平和に」とピートはいささか皮肉な口調でいう。
「そのような国は淀んでいる。なんの発展もない」とコンラッドが吐き捨てるように言う。彼は民の暮らしを守り、国の将来を見据える内政のトップだ。がちがちの宗教国家の圧政に眉をひそめている。
「だからあの国は“広がらない”小さいのよ」
とアルタナが語る。
大地の息吹と人々の生命力こそ神が創造した世界を広げていくと。アルタナは勤勉のあまり人界に過干渉であったが、それゆえにフォートリオンの大地は広く豊かだ。
女神様の働き過ぎの“災厄”という副産物はあったにせよ。
また、フォートリオンはアルタナ女神のみの一神教国ではない。実は多神教なのだ。各地の土着の精霊達が土地神として町や村々に祭られている。
彼らが神として祭られることをアルタナは許したということだ。その人々の信仰を受けた精霊がまたその地を豊かに守護し、フォートリオンは発展してきた。
「モルガナの創造した地は、モルガナ以外を認めない。だからあの大地は初めの小さい形のままよ。
その縮こまっている状態を棚にあげて、わたしが育てたフォートリオンを欲しいだなんて許さないわ。
生まれたての大地で、赤ん坊の神が癇癪を起こして泣いているよう。ダダをこねないで自分の創造した大地を育てればいいのに」
アルタナは妹神をどこか哀れむようにため息をついた。
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