異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【11】邪魔もの暴風にご用心!

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 そのとき。
 ぴゅうううううううううううううっ!
 とばかり、二人のあいだに突風が吹いた。
 あまりに強い風にイスラフェルの金竜の巨体がぐらりと揺らぐ。
 思わずリョウは目の前のシャルムダーンにしがみつき、シャルムダーンの形の良い唇が、リョウの唇があった箇所を空振りした。

「王よ!巨大な砂嵐にたどりつきました!」
「ノワルよ!お前、以前から無骨者と思っていたが、よい雰囲気の我らを邪魔するか!」
「邪魔したのは砂嵐であって、私ではありません」

 その答えにたしかにそのとおりと、シャルムダーンのたくましい胸に抱きしめられた姿勢のままのリョウは思った。
 その赤銅色の広い肩越しに巨大な黒い砂嵐が見えた。離れた場所に米粒のように見える人々は、必死に結界を張っている神官達と兵士に魔法を使える街の有志だろうか?
 金竜イスラフェルさえぐらついた暴風だ。後方についてきている飛竜達は、風に煽られてふらふらと今にも墜落しそうに危うい。乗っている竜騎兵達も必死の様子だ。

「我らはこれ以上は近づけません」

 ノワルが叫ぶ。

「では、お前達は下に降りて、結界を張る者達の援護に回れ!砂嵐には我らで向かう!」
「申し訳ありません。王と救世主様にして……リョウ様だけでお行かせするなど!」
「なに、俺とリョウさえいれば十分だ。リョウの強さはお前もよく分かっているだろう」

 シャルムダーンの金色の瞳に『良いな?』と見つめられて、リョウはこくりとうなずいた。
 飛竜達は地上へと降りて行き、二人を乗せたイスラフェルは砂嵐のただ中へと突入した。
 中は当然さらにすさまじい暴風だった。だけでなく、四方八方から砂が叩きつけられる。これだけでもヤスリの中に放り込まれたように傷を負いそうだ。
 しかし、それはシャルムダーンが短い呪文のひと言によって、自分達の周囲に見えない結界を張って、それを弾いた。

「ありがとうございます」
「自分の妻を守るのは当然ことだ」
「妻じゃありませんけどね」

 それは毎度きっちりお断りする。
 突風にイスラフェルがよろめいたのは一度きり。あとはその大きな翼で風を切り裂いて進んでいく。安定したその背は頼もしい。

「僕も魔法を習った方がいいですね」
「救世主ならば使えるだろう。よし、俺が手取足取り腰取り教えてやろう」
「あなたじゃない教師を希望します。イムポテプさんとか」

 腰取りのひと言が余分だと、ジトリと横目でリョウは目の前の王様を見る。

「なんと!リョウはあのような老人が好みなのか!」
「僕は枯れ専じゃありません!」

 そんな軽口を叩いている間に、あれほど吹いていた風が突然止んで、渦を巻く砂の壁の真ん中、ぽっかりと丸く穴があいた所に出た。
 ここが砂嵐の中心、いわゆる台風の目のような場所だろう。そして、その中心には。
 なんだか真っ黒なモヤモヤに覆われた、形容しがたい何かがいた。
 その黒いもやの中で光る真っ赤な瞳が、こちらを見た。
 ごおっ!
 そのとたん、真っ黒な炎がこちらに向かい一直線に吐かれた。

「イスラフェル!」

 シャルムダーンが己の金竜の名を叫ぶ。
 イスラフェルはかっと口を開けて、そこから同じく黄金のブレスを吐いた。
 金と黒のブレスが空中で激突しせめぎ合うが、じりじりと金色のブレスが押していく。
 真っ黒な炎を輝くブレスが陵駕し、その黒い身体に到達するか?と思われたが。
 相手の黒い炎が消えた瞬間にイスラフェルもまたブレスを止め、地上にふわりと降り立った。
 それととても自然な仕草に見えた。シャルムダーンは高いその背から飛び降りる。同時に腰の県を抜き放っていた。
 ノワルにはキンキラの鞘の剣を与えたくせに、シャルムダーンの剣は作りこそしっかりしているが、黒い鞘の飾り気のないものだった。
 そして、ぎらりと輝く剣は、いや、あれは刀だ……と、そんなに詳しくないリョウもわかる。
 東方渡りのこの業物わざものを、シャルムダーンは一目で気に入ったのだとあとで聞いた。
 剣に飾りがないのは、戦いには不要だという最もな返事だった。
 だったら、なぜノワルには黄金の鞘なんだ?と聞いたら。

「あいつは元奴隷だ。王たる俺が与えた黄金の剣を見れば、誰もがあいつを軽んじることはない」

 このときも【チョット】この王様を見直したリョウだったが、すぐに。

「ん?宝石の剣が欲しいのか?ならば、我が王家の秘宝のエメラルドをちりばめた短剣を、愛の証としてそなたに贈ろう!」
「真面目にいりませんから!本気ですから!そんな実用的でないもの!」

 まったく、その評価は少し浮上しては、奈落に落ちる残念王だった。
 とはいえ、今は戦闘中。普段は残念でも、剣を構えたそのシャルムダーンの横顔は、獅子のように勇ましい。
 思わずリョウはみとれかけて、そんな場合じゃないと自分も、イスラフェルの背から「えいっ!」とばかり飛び降りた。その背の高さは民家の二階、どころか三階ぐらいありそうだったが、平然と着地した。地球の重力下では運動神経は並の自分なら、普通に骨折だったはずだ。
 やっぱり自分は救世主なのか?……認めたくないけど。
 そして、空中から自分の剣を取り出す。
 今度はプラスチックのオモチャじゃなくて、シャルムダーンが握ってるような【本物】ください!
い 心の中で叫んで、光とともに現れたのは……。
 白い鞘の見事な作りの日本刀。
 なんか見覚えがありすぎる感じに悪い予感がする。
 すらりと抜いてみれば。
 刀の根元?というのかなんというか知らない。とにかくそこに金色の三つ葉葵のご紋が輝いていた。

「余の顔を見忘れたか?って……無駄だよ。僕はここでは全員にとって初顔なんだから」

 脱力して、リョウは思わずつぶやいた。

「おお、聖剣が俺とおそろいとは、なんともうれしいぞ!黒と白のまさしく夫婦めおと剣だ!」
「なんですか!その夫婦茶碗みたいな言い方!」

 本当に、神様。
 脱力系アイテムばっかり出すの止めてください。
 年末のバラエティショップのパーティグッズコーナーじゃないんですから。




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