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【10】僕もあなたも死にません!
しおりを挟むシャルムダーンとて、突如現れた災害を報知しておいたわけではないという。
住民を避難させるように指示を出したのは、たしかに適切だ。
それから神官達と兵士達、それに魔法を使える住民達にも志願を募り、結界を張らせて砂嵐を足止めしたのも。
そして、自身も砂嵐の現場に向かおうとした。
これまでも自分という救世主? 無しで、何度も魔軍を退けてきたとはいうから、この王様もそれから竜騎兵団長たるノワルも、なかなかの実力なのだろう。
「とはいえ、これまではせいぜいが小競り合い程度。今度のような大きな災いはなかった。救世主もおらず、俺達だけでは負ける。そんな確信めいた予感はあった」
シャルムダーンはその口許にらしくもない、皮肉な笑みを浮かべる。どこか寂しげな。
「でも、あなたは行くつもりだった?」
「当然だ。それが王だからな」
「…………」
リョウはシャルムダーンとともに、金竜イスラフェルの背に乗っていた。その後ろにノワル以下の竜騎兵達がまたがった飛竜が続く。
二人が向かっているのは、砂嵐に襲われているオアシスだ。海のように広がる砂漠に、ぽつんぽつんとあるオアシスは、まるで島のように思えた。
「出立する直前に、神託を受けたイムホテプが駆けつけたのだ。俺は砂嵐に向かう行く先を変えて、神託のままにイスラフェルに乗り、空高く飛び上がると、異世界へと続くあの扉をくぐった」
「……そして僕は拉致されたと」
まったく、異世界の神様だが知らないが、とんだはた迷惑なご神託だ。
そういえば、こっちに来る時、頭に聞こえた声はその神様かな? と思う。やけに軽い安請け合いだったけど。
「僕をイスラフェルに乗せたまま、直接嵐に向かったら良かったのに」
この世界についたとたん、混乱のまま連れてこられたら、リョウにとってはさらに迷惑だが、しかし、それが一番効率的だろう。
そう、効率的にスピーディーに! それは現代ビジネスに求められる要素だ。
お役所仕事はいまだ真逆だけどね。
ははは……とリョウは心の中で乾いた笑いをたてた。
「お前の意思の確認がいるだろう?」
「僕が戦うかどうか?」
「それもあるが、いきなりこの世界に連れて来たのだ。まず状況を説明する必要がある」
「それはご親切にどうも。その心があるなら、いきなりこちらの世界に拉致するのも、止めて欲しかったんですけどね」
「拉致ではなく招待だ。それに危急の時だ、王ならば……」
「誘拐は誰でもダメだと僕は思いますよ!」
王様だからってなんだって許されると思うな! である。
とはいえ、リョウとしてはちょっとこの王様を見直した。
まあ、ここに来てからその【チョット】を連発してるんだけどね。
それでもリョウが戦うかどうか、その意思を確認しようとしてくれようとしたことだ。
「それで僕が救世主なんかいやだ。戦うなんて出来ないって言ったら?」
「そのときは俺と兵士達のみで行くつもりだった」
「…………」
救世主がいなければ負ける予感を確実に感じていたと、シャルムダーンはさっき言った。
イスラフェルの大きな背の上。振り返って見たシャルムダーンの黄金の瞳は、嘘は言っていなかった。
「じゃあ、ここで僕が戦うのはやっぱり嫌だと言い出したらどうします?」
ちょっと意地悪な質問だと思う。
この国の危機だというのに、それを見捨てる救世主なんてだ。
だけど、そんなの知ったことじゃない。自分はこの世界の住人じゃないと主張する権利は、リョウにはある。
「そなたが本当に嫌ならば、今から安全なところに避難させてから、俺と兵士達のみで嵐に挑もう」
「あなたも兵士も死ぬ予感があるのに?」
これも意地悪だと自分でも想ったけど。
「むろんだ」
シャルムダーンが深く頷く。金色の瞳には一つの心の揺れも、惑いもない。
「そなたは救世主だが、我が妻でもある。妻を守れなくて、なにが夫か」
「妻になった覚えはありませんし、僕だって男ですから、男のあなたに守ってもらう必要はありません」
真顔で“妻”だなんて言わないで欲しい。自分は男、男、男とリョウは呪文のように、心の中で唱える。
そなたを守る……なんて、ちょっといいな……なんて思っていないんだからね!
「だいたい、あなたが嵐に挑んで亡くなったら、僕は未亡人じゃないですか!」
いや、妻になる気はないけど、戻さなくたって、シャルムダーンが死んだらおしまいではないか。
────え? あ、そうか、死ぬ可能性があるのか。
とそこまで考えて、リョウの背がぞくりとした。今さら感じた死の恐怖。
それも自分ではなくて、シャルムダーンが死ぬと思ったら……なんて。
「ああ、安心しろ」
黙りこんだリョウになんと思ったのか、シャルムダーンが後ろからリョウを抱きしめるようにして、耳元でささやき。
「ノワル!」
そして、振り返って飛竜にまたがりついてくる、竜騎兵団長に呼びかける。
「我が遺言を書き留めてくれ。我が全ての私財はリョウに譲り渡すことにする。東の白の離宮も与え、年百枚の大金貨を国庫より支給する」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
リョウは慌てた。こちらの経済はわからないが、王の私財となれば莫大だし、離宮ってつまりお城一つですよね? それに大金貨年間百枚ってたぶん大金ですよね? 一年間余裕で暮らせるぐらいの。
そしてノワルは飛竜の背の上。取り出した羊皮紙に羽ペンでさらさらと書き込んでいく。
「ああ、地位の保証も必要だな。リョウは次代王の大兄同然の扱いとして、大公の地位を贈ることにする。実の兄同然だからして、次代王とてリョウを妻に迎えることは出来ない! 完璧な遺言であるな!」
「さすが、我が王にございます」
悦にいるシャルムダーンにノワルも深くうなずき、そして書き上げた羊皮紙に向かい、なにやら呪文を唱える。と、それは鳥の形になって飛んで行った。
「よし、これで我が遺言は、王都で留守を守るイムホテプの元に届く。神官長預かりの遺言は絶対ゆえ、俺の死後そなたは安心して……」
「出来る訳ないじゃないですか! だいたい、僕は今、あなたと一緒に現場に向かっているんですよ! あなたが死ぬなら、僕が死ぬ確率だって同じじゃないですか!」
「たしかに夫婦は同じラクダの背の上。その運命は生涯共にというからな!」
「僕はあなたと夫婦になった覚えはありません!」
カラカラと笑うシャルムダーンに、あんな大げさな遺言、からかわれたんだかなんだか……と思うが。
「大丈夫だ」
ふわりと後ろから包むこむように抱きしめられる。
「そなたは絶対に死なない」
「どうして?」
「なぜならこの俺がそなたを絶対に守るからだ。たとえこの命尽きようとも、そなたを守ることを誓おう」
振り返ったリョウはぽぽぽと自分の頬に、熱が昇るのを感じた。なぜ乙女のようにときめいているのだ! とか、これは間近に見た金色の瞳の良すぎる顔のせいだ!
絶対にそうだ……と思いたい。
「僕もあなたも死にません!」
リョウは自分の混乱を振り払うように叫んだ。なんかどこかで聞いたようなフレーズだけど。
「僕だってあなたを守ります!」
え? え? これ余計恥ずかしい言葉じゃないか?
目の前の金色の目が見開かれて、リョウはかああっと真っ赤になって俯く。
「リョウ、顔を上げてくれ」
「や……です」
小さな声しか出ない。シャルムダーンの大きな両手で顔を包むこむようにして、上を向かせられる。
「ああ、熟れた果実のように真っ赤で愛らしい顔だ」
この平凡な顔のどこが愛らしいんだ! と内心で反論するが、近づいてくるシャルムダーンの顔に反射的にぎゅっと目をつぶってしまう。
唇に熱い吐息がかかる。
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