異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【12】涙のキッス

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 いや戦闘だ! 脱力してる場合じゃない! 
 と、気を取り直したリョウは、刀をかちりと両手で構えた。同時にシャルムダーンもまるで鏡合わせのように、同じポーズで。

「「参る!」」

 声も揃っていた。これが新春特番? ならば、クライマックスの殺陣シーンだ。
 ただし、ばったばったと斬られる。いや、刈られる? のは。
 黒いモヤモヤから飛び出してきた、触手? のようなものだった。
 それをスパンスパンと切り捨てていく。霞にように見えたそれだが、しっかり実体がある手応えだ。
 そのクセ、斬られたそれは地に落ちたとたん、じゅわ~と蒸発するように消えてしまうけれど。
 まあ、残ったまま地面でぴったんぴったんされたら、それはそれで気持ち悪い。だいたい斬った数考えたら、地面を埋め尽くしてうっかり踏んでスッ転びそうだし。
 伐採? を終えたら、黒いもやもやした塊は、なんだか二回りも小さくなったように見えた。大きさはだいたいイスラフェルと同じぐらいか? 
 そうなると輪郭? らしき物も見えてくる。足は四つで長い首に長い尻尾。背中にあるのはまだもやもやした塊だけど、大きな翼? 

「どうやら、疲れて来たようだな」

 触手? の攻撃が止んだのに、シャルムダーンが告げる。

「ええ、なんだかあの黒いもやもやが無くなれば無くなるほど、力が無くなるみたいですね」

 なんか初めに感じていた禍々しさもなくなってきたような……とリョウは思う。

「弱っているとて、魔族ならば情けは無用!」

 シャルムダーンが剣を構えて走り出すのに、リョウも同じく続いた。
 狙うはもやもやが晴れて、見えてきた魔物の頭部だ。いつものならば弱点のはず。魔物が生き物かどうかわからないけれど。
 だが、その二人の前に大きな姿が立ちふさがった。

「なぜだ!? イスラフェル! どうして、我らの邪魔をする!」

 シャルムダーンが驚く。リョウも大きく目を見開いて、自分達の前に立ちふさがる金竜を見た。
 後ろ脚で立ち上がり背の翼を広げる姿は、後方のもやもやを庇っているようだ。

「なにがダメなのだ!?」

 シャルムダーンが苛ついたように叫ぶ。
 金竜に選ばれたシャルムダーンには、イスラフェルの声が分かるのだと、事前に説明は受けていた。

「彼は惑っているだけだ? 彼を殺してはいけない? 一体どういうことなんだ!?」

 リョウもその言葉に戸惑った。
 そして、金竜の背後でしばしの休息をとった、その黒いもやは。
 再び赤い瞳を光らせ、渾身の力を込めるかのように身体くねらせて、そして。
 真っ黒な炎のブレスを吐いた。
 それはその背に庇うイスラフェルの背に直撃だった。
 イスラフェルがさらに大きく翼を広げて、自分が阻んでいた主人であるシャルムダーンと、リョウを庇う。

「リョウ!」

 さらにはシャルムダーンがリョウに覆い被さって、その大きな身体が包んだ。
 黒いブレスが放たれたのは、一瞬。
 リョウは思わず、目をぎゅっと閉じた。
 そして、すぐに開いたその時……。

「イスラフェル!」

 輝いていた金竜は見るも無惨な姿になっていた。黒くすすけて、広げていたその翼は皮膜が燃えつき、骨が露わになっている。
 そして、自分にずっしりと寄りかかってくる長身の重み。それを支えきれず、尻餅をついてリョウは大きく目を見開いた。

「シャルムダーン!」

 それは絶叫だった。自分でも喉がぴりぴりと痛んだが、そんな痛みなんかどうでもいい。
 自分をかばったシャルムダーンの背は、真っ黒に焼けただれていた。

「あ、こんな……こんな……僕を庇って」

 ぽろぽろと涙が自然にこぼれた。

「泣くな」

 自分の膝にうつ伏せていたシャルムダーンが顔をあげて、手を伸ばす。頬に添えられたそれに、リョウは自分の手を添えて上から握りしめた。

「そなたは俺が守ると言っただろう?」
「二人とも生きると約束もしました」
「大丈夫だ。俺は死なない」
「ちっとも大丈夫じゃないじゃないですか!」

 ひっくと成人男性が惹き付け起こすほど泣くなんてみっともないと思うが、涙は止まらない。

「泣くな」

 ともう一度言われて、頬にそえられた手に引き寄せられるまま、身を屈めた。
 そのまま唇が重なる。
 自分からキスをしたとも言う。
 あ、これファーストキスだったけど、ま、いいかと思う。
 男、二十七歳、ずっと彼女なし。どうせ、童貞ですよ! 
 冴えないリョウだもの。
 それが男とはいえ、こんな美形と初キッスとか幸運じゃない? 
 いややっぱり男だから、幸運でもないのか? 
 なんて、しくしく胸が痛みながらぶつぶつと。
 いや、それよりも。
 本当に自分が救世主というなら。
 彼と彼の竜を救ってください! と願った。
 心の底から。
 ヘンテコな聖剣が出たときよりも、何百倍も本気で。
 ふたりの重なった唇から、閃光が広がる。
 それは砂嵐どころか回りの砂漠を包みこむほど大きな大きな輝きだった。




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