風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

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生徒会副会長様は気が気でない(生徒会室編)

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※副会長視点です。


「……如月会長は?」

 先程まで埋まっていたはずの会長席が、ぽっかりと空いている。
 五分後には風紀委員(おそらく佐藤か那須田あたり)と広報委員長がここへ来る予定だ。あの番屋先輩も来るとなると、我々だけではいささか荷が重い。焦る背中にツウ…っと冷汗が流れた。

「目を離した隙に逃げられましたか。こんなことなら椅子に縛り付けておくべきでした」
「いやいや、伊織ちゃん落ち着こ? カイチョーさんは隣の会議室にいるから。先に風紀と広報と三者会議するんだって」
「は? どういうことですか?」
「さあねえ。その間に見とけって、コレ置いてったけど?」

 そう言って、会計の倉持がピラピラ振ってきたのは一枚の生写真だ。彼の前には、他にもたくさんの写真が束になって置かれている。

「廃棄候補はこのNG箱に入れとけってさ」

 箱にはすでに、倉持が入れた何枚かの写真が入っていた。

「ったく。さすがは番屋先輩。検閲ギリギリのきわどい写真ばかりだよ。今回ばかりはカイチョーさんに泣きついて大正解だったね」
「デジタルデータではないのですか?」
「手に取った方が見やすいだろうって、番屋先輩が印刷して持ってきてくれたんだ。新歓で生徒会役員が写ってる分は、これで全部だってさ」
「そうですか。また随分と親切な……」
「こんなあからさまに恩を押し売りされると、あとが怖いよねえ? なんてったって、あの番屋先輩だし?」
「背に腹はかえられません」

 視界に入った自分の写真を、くしゃりと握り潰す。ニーハイソックスのそのまた上の、メイド服に微妙に隠されていた肌色領域にまで、しっかりピントが合っている。無駄にカメラマンの腕が良すぎるのが、つくづく腹立たしい。

 近づいてきた書記の長峰雄一郎(ながみねゆういちろう)が、私の手からそっと写真を引き抜いた。

「……それ駄目、伊織。俺たちが除いた写真、あとで風紀が検閲する。くしゃくしゃにすると……怒られる」
「……」
「……会長にも、怒られる」

 写真は丁寧にシワを伸ばされた後、NG箱へと入れられた。

「……ありがとうございます。でもあなたは気楽でいいですよね。罰ゲームを受けていないのですから」
「鬼ごっこに……勝ったから。……捕まらなければいい。そういう、ルール」

 あふっと呑気にあくびをされて、一瞬殺意が生じた。

「……長峰。私たちは鬼に捕まったわけではありません。味方のはずの会長に捕まり、笑いながら鬼への生贄にされたのです」
「……会長は……そういう人。……背中をみせて、人を育てるけど……こっちが、背中向けちゃ……駄目。……すぐ、やられる」
「私たちの上役は猛獣かなにかですか。そういえば、双子も見当たりませんね。どこへ行ったのです?」
「お花……摘みにいくって、……ふたりで、出てった」
「そうですか。では双子がらみの写真があれば、別にしておきましょう」

 私たちはとりあえず写真の束を三つに分け、一枚ずつ手に取っては確認し、気に入らない写真があればNG箱へと入れていった。

「はい。こっちの束終わりっと。次のちょうだい……って、伊織ちゃん。いくらなんでもNG多すぎない? なんでこの写真ダメなのー? うさ耳ポーズ可愛いのに。笑って許せる範囲じゃない?」
「ダメもとでチャレンジです」
「俺のに比べたら全然ありじゃん。見てよコレ。断然NG」

 渡された写真には、ハチミツまみれの極太バナナを嫌そうにくわえた倉持がいた。

「まあ、可愛い子ちゃんの小さなバナナなら何本でもパクっとイケるけどね。さすがにコレは無いわー」
「腐ったバナナにあたって、病気になっても知りませんよ」
「……終わった……次、見る……」
「はいよ。じゃあ雄一郎はコレ。伊織ちゃんはこっちね」

 たまに無駄口を挟みながらも、作業は滞りなく完了した。

「「ただいまぁ」」
「お、帰ってきたな。連れション双生児」
「「誰が連れション双生児だ!」」

 双子のことは倉持に任せ、私と書記は自席へと戻ることにした。生徒会の仕事(主に会長に押しつけられた案件)は今日も山積みだ。偉そうな上役が戻る前に少しでも処理しなければ……と切り替えた矢先に、諸悪の根源(会長)が、生徒ふたりを引き連れ戻ってきた。ひとりは広報委員長の番屋信長で、もうひとりは……

 え? は?

(……なぜ、藤堂先輩が?)

 如月会長と並び立つ圧倒的な存在感に、部屋の空気が瞬時に引き締まる。そんな我々などお構いなしに、彼らは応接用のソファセットへ向かった。会長は長椅子へと、藤堂先輩と番屋先輩はその向かい側の一人掛けソファへと、それぞれ腰を下ろす。

「ヒック……うぇえ」

 なぜか番屋先輩は半泣きだった。小動物のようにフルフルと震えながら、ハンカチ片手にしゃくりあげている。涼しい顔のふたりとはあまりにも対照的だ。

 内心で首を傾げつつも、とりあえず三人分の紅茶とクッキーを用意し、黙ってテーブルに並べてみた。
 その際、藤堂先輩と目が合ってしまい、慌てて視線をそらす。何故だろう。この人の上目遣いは刺激が強すぎて、心臓に悪い気がする。その証拠になかなか動悸がおさまらない。

「……ヒック。か弱い僕を密室へ連れ込み、ふたりがかりで泣いて許しを請うまでガンガンせめ抜くなんて酷すぎる。嫌だやめて、助けてって何度も叫んだのに……ヒック。いくら可憐な僕が気になるからって、力で押さえつけて言いなりにするなんて……ヒック」
「軽く説教しただけだろうが。いつまでも縮こまりやがって」
「キミたちに説教されれば、誰だって縮こまるよねっ!」
「あっ、それ以上縮まらねえか。もう立派なチビッコだもんな?」
「きいぃいいぃ~~!」

 会長、それ以上煽らないでください。
 火の粉が我々(生徒会役員)に向かって、いまにも飛んできそうです。

 会話から察するに、番屋先輩が何かしら仕出かして、二人からお灸を据えられたのだろう。恐らく……いや百パーセント、会長の前に置かれた同人誌が原因だ。先程から、チラチラといかがわしい表紙が目に飛び込んできて眩暈がする。せめて裏返して欲しい。あなた達には羞恥心というものが無いのですか?

「ふん。いつ来てもここの空気は最悪だ。気分が悪い。こんなまずそうなクッキー数枚でごまかされるものか」
「ハムナガ。いらないなら貰うが?」
「黙れ藤堂。誰がいらないとまで言った? ようやく喋ったかと思えば、クッキーで頬を膨らませながら、ねだってくるんじゃない。もうお皿空っぽって可愛すぎか! クールビューティが甘党って、ギャップ萌えで僕を仕留めにかかってるよね! あざとい! 尊い! 何をボサッと突っ立っている副会長! ありったけのクッキーを風紀委員長に持ってこい! 今すぐにだ!」

 よく分からないが、客人にクッキーは好評だったようだ。
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