57 / 59
副委員長様の親友は休み明けに相談される(聴取室編)
しおりを挟む
※那須田目線です。
月曜の昼休み、珍しくCクラスに訪れたのは、風紀副委員長の佐藤瑞貴だ。お綺麗な【鬼の副委員長】様の突然の来訪に、すねに傷ある者は目をそらし、大多数は興味津々で聞き耳を立ててくる。
「那須田、ちょっといいですか?」
「ああ」
放課後にも会う予定だったが余程の緊急案件か?
「どうした?」
「例の同人誌の件、進展はありましたか?」
「同人誌? いや特には……」
「そうですか。わかりました。ではこうしましょう。どうせ黒幕はあの広報チビッコ委員長なんですから、これからサクッと拉致して口を割らせ……むぐっ!」
「落ち着けって」
次から次へとNGワードが出る口をふさぎ、なかば抱え上げるようにして教室から連れ出した。級友はあんぐりと口を開け、通行人からは何度も二度見されたぞ。風紀の副委員長が配下の俺に拉致されそうになってるなどと、通報でもされたらどうしてくれる。そんな愉快な報告書を、俺は藤堂様へは出したくない。絶対にからかわれる。
誰もいない聴取室へと佐藤を放り込んで一息ついた。
ここなら遮音対策もされている。遠慮なく話を聞けるだろう。
「それで? 何をそんなに怒っているんだ?」
「これが怒らずにいられるか!」
バシンッ! と勢いよく床へと叩きつけられた薄い本。
拾い上げてパラパラとページをめくってみる。なるほど。
「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……タイトル長すぎないか?」
「そこはどうでもいい!」
「【新歓鬼ごっこでドキドキ裏罰ゲーム編】……閉会式終わって間もないのに、土日に妄想フル稼働して仕上げたんだろうなあ」
「朝一で俺の机に放り込まれてた」
「それは……風紀っていうより、おまえがもて遊ばれてるとしか」
「なあ那須田、もう番屋半殺しにしていいか? 情報屋として使えても人間的にアウトだろう。玲一様にバレなきゃいいよなあ?」
「今のおまえも風紀としては完全にアウトだぞ」
俺たちは中等部から知り合い、価値観も行動もやたらと気が合った。早々に面倒臭がったコイツは、ふたりきりの時は素で接するようになり、何かあればこんな感じで相談もされる。相談内容のほとんどが藤堂様がらみなのと物騒なのが玉に傷だが……。
「そもそも副委員長なんかガラじゃねえんだよ。玲一様がやれって言うから仕方なく……」
「やれと言われて簡単に出来る仕事じゃない。あの人の見る目は確かだと思う」
「そういうこと真顔で言うんじゃねえよ。クソ真面目が」
この佐藤という男は実に器用だ。素はこんなに荒っぽい口調なのに、身構える相手や目上の者がいる場では、嫌味なほど丁寧な言葉を扱う。
敵とみなせば、針のように「デスマス」口調を扱い、チクチクと相手の神経を逆なでしている。如月会長に対する態度が良い例だろう。
ただし藤堂様に対してだけは、心から丁寧語を使っているのが良く分かる。いまだに緊張してたまに噛んでることも知っている。佐藤にとって、身が震えるほどの「特別」はあの人だけなのだ。俺はたぶん、親友ポジであることを信じたい。
「藤堂様には報告したのか?」
「……まだ」
「いま委員会室か? 報告してしまおう」
「……絶対にからかわれる」
……まあ、そうだろうな。
***
その藤堂様は委員会室で弁当を食べ終わり、くつろいでいるところだった。あくびを噛み殺し、涙目で気だるげに佐藤の話を聞く姿すら、壮絶な色気を放っている。俺は異性愛者なはずなのだが、上役が無駄に美形すぎて、目のやり場に困ってしまう。
「藤堂委員長。これは明らかに風紀委員会への挑戦状です。受けて立ちましょう。あの広報チビッコ委員長を拷問……もとい、尋問する許可をください」
「そうは言うが、犯人がハムナガだという証拠は? それに風紀への挑戦状なら俺の机にも入れてくるはずだ。これは風紀というより瑞貴自身への挑戦状だろう」
「……」
「ハムナガが犯人というなら、しっかり尻尾を掴んでからここへおいで。この件はおまえに一任している」
「……分かりました」
……ハムナガって、番屋先輩か?
内心首をひねりながらも、俺はふたりの会話に耳を傾けた。
藤堂様は渦中の同人誌を手に取ると、
「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……か。見てみろ那須田。こんなに長いタイトルが、こんな薄い本の背表紙に全部おさまっている。敵の技術力は超一流だ。あなどるなよ」
「はあ」
真顔でどうでもいい忠告をしてくれた。
……この人、完全に面白がってるな。
「那須田、行きましょう。満腹でお寝むモードな委員長に相談した私が愚かでした」
「待て瑞貴。その本は置いていけ」
「は?」
「放課後、生徒会室で如月会長と会う予定だ。ついでに見せてみよう」
「……何ですかソレ。初耳なんですが?」
「新歓の後始末だ。過激な写真が出回らないよう、今年は俺と如月がカメラデータを検閲する。ちなみにハムナガも同席予定だ」
「それを早く言え! 馬鹿だろアンタ!」
なんだかんだ言って、藤堂様は佐藤にとことん甘い。
一任すると言いながら、結局は力を貸してくれるようだ。これでしばらくは、大量に出回ってた同人誌も抑制されるだろう。
お調子に乗った番屋先輩は、小説どおり【イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて】……を体感するわけか。恐ろしい。俺なら即座に圧迫死する。
自業自得とはいえ、敵ながら少し気の毒に思った。
月曜の昼休み、珍しくCクラスに訪れたのは、風紀副委員長の佐藤瑞貴だ。お綺麗な【鬼の副委員長】様の突然の来訪に、すねに傷ある者は目をそらし、大多数は興味津々で聞き耳を立ててくる。
「那須田、ちょっといいですか?」
「ああ」
放課後にも会う予定だったが余程の緊急案件か?
「どうした?」
「例の同人誌の件、進展はありましたか?」
「同人誌? いや特には……」
「そうですか。わかりました。ではこうしましょう。どうせ黒幕はあの広報チビッコ委員長なんですから、これからサクッと拉致して口を割らせ……むぐっ!」
「落ち着けって」
次から次へとNGワードが出る口をふさぎ、なかば抱え上げるようにして教室から連れ出した。級友はあんぐりと口を開け、通行人からは何度も二度見されたぞ。風紀の副委員長が配下の俺に拉致されそうになってるなどと、通報でもされたらどうしてくれる。そんな愉快な報告書を、俺は藤堂様へは出したくない。絶対にからかわれる。
誰もいない聴取室へと佐藤を放り込んで一息ついた。
ここなら遮音対策もされている。遠慮なく話を聞けるだろう。
「それで? 何をそんなに怒っているんだ?」
「これが怒らずにいられるか!」
バシンッ! と勢いよく床へと叩きつけられた薄い本。
拾い上げてパラパラとページをめくってみる。なるほど。
「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……タイトル長すぎないか?」
「そこはどうでもいい!」
「【新歓鬼ごっこでドキドキ裏罰ゲーム編】……閉会式終わって間もないのに、土日に妄想フル稼働して仕上げたんだろうなあ」
「朝一で俺の机に放り込まれてた」
「それは……風紀っていうより、おまえがもて遊ばれてるとしか」
「なあ那須田、もう番屋半殺しにしていいか? 情報屋として使えても人間的にアウトだろう。玲一様にバレなきゃいいよなあ?」
「今のおまえも風紀としては完全にアウトだぞ」
俺たちは中等部から知り合い、価値観も行動もやたらと気が合った。早々に面倒臭がったコイツは、ふたりきりの時は素で接するようになり、何かあればこんな感じで相談もされる。相談内容のほとんどが藤堂様がらみなのと物騒なのが玉に傷だが……。
「そもそも副委員長なんかガラじゃねえんだよ。玲一様がやれって言うから仕方なく……」
「やれと言われて簡単に出来る仕事じゃない。あの人の見る目は確かだと思う」
「そういうこと真顔で言うんじゃねえよ。クソ真面目が」
この佐藤という男は実に器用だ。素はこんなに荒っぽい口調なのに、身構える相手や目上の者がいる場では、嫌味なほど丁寧な言葉を扱う。
敵とみなせば、針のように「デスマス」口調を扱い、チクチクと相手の神経を逆なでしている。如月会長に対する態度が良い例だろう。
ただし藤堂様に対してだけは、心から丁寧語を使っているのが良く分かる。いまだに緊張してたまに噛んでることも知っている。佐藤にとって、身が震えるほどの「特別」はあの人だけなのだ。俺はたぶん、親友ポジであることを信じたい。
「藤堂様には報告したのか?」
「……まだ」
「いま委員会室か? 報告してしまおう」
「……絶対にからかわれる」
……まあ、そうだろうな。
***
その藤堂様は委員会室で弁当を食べ終わり、くつろいでいるところだった。あくびを噛み殺し、涙目で気だるげに佐藤の話を聞く姿すら、壮絶な色気を放っている。俺は異性愛者なはずなのだが、上役が無駄に美形すぎて、目のやり場に困ってしまう。
「藤堂委員長。これは明らかに風紀委員会への挑戦状です。受けて立ちましょう。あの広報チビッコ委員長を拷問……もとい、尋問する許可をください」
「そうは言うが、犯人がハムナガだという証拠は? それに風紀への挑戦状なら俺の机にも入れてくるはずだ。これは風紀というより瑞貴自身への挑戦状だろう」
「……」
「ハムナガが犯人というなら、しっかり尻尾を掴んでからここへおいで。この件はおまえに一任している」
「……分かりました」
……ハムナガって、番屋先輩か?
内心首をひねりながらも、俺はふたりの会話に耳を傾けた。
藤堂様は渦中の同人誌を手に取ると、
「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……か。見てみろ那須田。こんなに長いタイトルが、こんな薄い本の背表紙に全部おさまっている。敵の技術力は超一流だ。あなどるなよ」
「はあ」
真顔でどうでもいい忠告をしてくれた。
……この人、完全に面白がってるな。
「那須田、行きましょう。満腹でお寝むモードな委員長に相談した私が愚かでした」
「待て瑞貴。その本は置いていけ」
「は?」
「放課後、生徒会室で如月会長と会う予定だ。ついでに見せてみよう」
「……何ですかソレ。初耳なんですが?」
「新歓の後始末だ。過激な写真が出回らないよう、今年は俺と如月がカメラデータを検閲する。ちなみにハムナガも同席予定だ」
「それを早く言え! 馬鹿だろアンタ!」
なんだかんだ言って、藤堂様は佐藤にとことん甘い。
一任すると言いながら、結局は力を貸してくれるようだ。これでしばらくは、大量に出回ってた同人誌も抑制されるだろう。
お調子に乗った番屋先輩は、小説どおり【イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて】……を体感するわけか。恐ろしい。俺なら即座に圧迫死する。
自業自得とはいえ、敵ながら少し気の毒に思った。
53
お気に入りに追加
1,543
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる