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介護保険拒否編

在宅介護、介護保険拒否編 6話

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 市販されている介護本ではほとんどの場合3年以内で介護保険のサービスを利用できている。公的なサービスを受けられないと家族が看るしかなくなる。

 その家族も通常なら高齢者に介護が必要になる頃には孫も独立している。子供の世代と孫の世代が協力をして面倒を見てそれでもきつい。
 徘徊はなかなか止められない。下の世話もきつい。食事も工夫しなければいけない。専門医の方は自宅、在宅での介護は3年が限界だと言う。子供世代と孫の世代が協力をしても3年が限界。介護サービスを利用してもキツイ。俺の場合はどうだろう? ワンオペ介護11年。そのうち8年がサービス拒否。
 認知症がなければ、もう少し楽だが。それでも大人の世話は子供とは違う。皮膚が弱ってるので強く握れないのに身体は重い。すぐ骨折するから目を離せない。大便の量も子供と違って多いし雑食の分臭い。育児も大変なのはわかるが、育児経験者も介護の方がキツイという人が多いと思う。未来に向かって子育てするのと違って希望がない。弱っていく一方となる。ゴールが見えない。休みもない。

 3年。俺の体感でも3年ごとに問題が変わっていくのを感じた。活発に徘徊していたころ、そこから3年でシモの世話が増えていった。さらに3年で外に行くことが減って、漏らしながら家じゅう歩き回ることが増えた。さらに3年で寝たきり。3年ごとに問題が変わり、対処方法もガラッと変える必要がでてくる。どちらにしても、介護サービスを受けなければ、一人で対処するしかない。

 母に責められながら母の介護をする。母は自分が弱っているところを誰にも見せたくなかった。親戚と会話することを禁じられる。病院にも行かない。介護サービスも拒否する。そして病識がない。自分は「いつまででも大丈夫生きていける」「お前が働かんのなら私が働く」「コンビニでもどこでも雇ってもらえる」「お前はどこにでも行け」「外にでも行け県外でもどうでもええわ」
 無茶苦茶な事を言い始める。たまに外からお客さんを呼ぶこともあった。息子が働かんどこが口聞いてくれるとこないんか? そしてお説教。
「ニートとか言いやがって」「お前そんなんでどないすんや」
 お客さんにどう言い返しても信じてくれない。母はお客さんの前ではしっかりする。
 
 人というものは自分と同じ環境や境遇の人に共感するようにできている。男なら男、女なら女、年寄りなら年寄り。母と同年代のお客さん方は、俺のような若者を「けしからん」と思っている。
「けしからん奴だ! 言い聞かせてやる」
 正しさを疑っていない。さぞ気持ちよかったでしょうね。一方的に正しさを押し付けお説教をするのは。俺の住んでいる田舎は年寄りばかりだ。母の年代の方ばかりなんだから母の味方をする人の方が多い。
「あんなに苦労したのにお母さんのことを大事にしなさいよ」などと何度も言われている。こちらの苦労なんか誰も心配してくれなかった。言い返したら「けしからん」呆れた顔をして「親不孝者」を見る目つきを返される。こちらの事情を何も知らないくせに。
 内からも外からも責められる。父は何度も倒れ、足に菌が入り蜂窩織炎となった。足の指が腐りそうなので切り落とすしかなかった。 味方と言える人はいなかった。手伝ってくれる人はいなかった。
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