転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

53.研究院 2

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研究院の外観は大貴族の屋敷に匹敵するほどの大きさだった。

横に長い薄茶色の4階建て。その上に石手摺りに凭れかかる人影があるから屋上あり。中心の玄関塔の他に左右に階段塔が4ヶ所。
あれ? 2階の手前上がテラスになってない? あそこで大学キャンパスチックなランチタイムを過ごしたら楽しそう。パラソル付きテーブルセットを持ち込んで……強い海風がここまで来るから飛ばされちゃうそうです。残念。

「シュシュ、その折り畳みの屋根は面白そうだぞ。遠征の天幕の代わりにはならないか?」

パラソルテーブル? ん~、それならワンタッチテントがいいですね。

「大人ひとり用のなら何となく覚えています。ランド職人長に作ってもらって、わたくしたちの秘密基地にしましょう。ランタンを持ち込んで寝るまで怖い話をするのです。楽しいですよ~」

「シュシュの怖い話は本当に怖いからなぁ」

「どれが一番怖かったですか?」

映画をゼスチャー付きで色々披露しているのだ(※ルベールの指導の成果)

「……死体が動くやつ」

ゾンビですね。

アルベール兄さまは?

「街が霧に閉ざされるやつだろう……あの結末はない」

あぁ、二度と観たくないと誰もが言う絶望系の。

「わたくしは残酷な性格サイコパスの養女が周りを潰していくやつですかね」

「死体に追いかけられるよりましだろ~?」

そうですか? でしたら……

他のゾンビシリーズを紹介しようとしたら、天井がコンコンとノックされた。

『もうすぐ到着です』の合図だ。

窓の外を見ると、玄関塔の前には結構な人数のお迎えが待ち構えていた。
研究院の事務官(制服を着てます)と、たぶん警備員的な職員(制服姿ね)
そしてアルベール兄さまが事前に手配していたウチの近衛騎士が3人。馬車と並走していた騎乗近衛が6人だから。今回は全部で9人の騎士。私服の、もしくは院生に扮した護衛はもっといるはずね。ご苦労様です。

馬車の扉を開けるのはキャビンの外後台デッキに乗っている侍従の役目だ。
キッチリ開けられて声をかけられるまで私たちは動かない。降りる準備態勢になるのもお行儀が悪いとされているのですよ。今日初めて知りましたけど。

『乗る前に決められた回数』を侍従がノックして、そこで初めて内鍵が開けられます。

これは安全対策ね。外に危険はありませんよという合図なのだ。

侍従と護衛が安全と判断しないとノックはされないし、ここで違う回数のノックがされると「異常事態が発生しているが、直接お知らせできない」という状況になっているということ。そんな時は座席の下から防具と武器を出します。その後はたぶん、私がそこに押し込まれる。

侍従によって静かに扉は開けられた。

ステップを下すガショッという音はしない。
なんとアルベ I(改)くんのキャビン内には階段がついているのだ。マイクロバスのステップみたいなやつ。
でもまだ私はひとりで降ろさせてはもらえない。1段2段は従者の延ばされた手にエスコートされて、最後の地面着地にはやっぱり抱っこされちゃう。ピョンと飛び降りるのは乗る前から禁止されております。

むむっ、院生たちが遠巻きにこちらを見ている。

目立つ新式馬車が注目されているのか、貴賓客が気になるのか。
はっ『プリン』って聞こえた。あれだ、プリン王子だってみんな知ってるんだ。そうよね、何度も来ているって言ってたし……くはっ、アルベール兄さまがプリンに反応してる。やっぱり嫌なんだ。笑いたい……我慢、我慢だ。お行儀良くしなくちゃ。あ、ベール兄さまにはバレた。けど、彼の口元もフニュッてなっている。手を伸ばしてきたのでキュッと握る。ギュッと握り返された。また握り返す。ふたりで我慢大会だ。


「足元、お気お付けください」


ベール兄さまと一緒に上ばかり見ていたら、目の前に階段が迫っていた。

だってつい見ちゃう案件があるのです。
外装は重厚でいかにも歴史がありそうな古めかしさがあるのですよ。
その煤けたような石の間々から、白くて小さな石膏像が顔を覗かせているのですよ。

彼らはチャッピーと呼ばれる学問の女神ハイエットの御使いです。
本が大好きでみんな手に本を抱えて笑っています

その可愛らしい精霊たちがあちこちにいるのですよ。
みんなこちらを見ているのですよ。
おいでおいでしているのですよ。

子供が目を奪われるのは当然でしょう。

まぁ、でも注意してくれてありがとう。お陰で転ばずに済みました。誰に注意されたかわからないけど。


では、チャッピーに招かれていますからね。楽しくお呼ばれいたしましょう。るん♪


「うわぁ、凄い!」

「きゃぁ、可愛い!」


解放されている大扉の正面奥には、両手を広げた女神ハイエットの巨大レリーフが出迎えの姿勢で待ち構えていた。
その両脇には広い湾曲階段があり、手摺り飾りには本を運んでいるようなチャッピーの姿があちこちに見られる。
3階分もありそうな高い吹き抜けの天井からも、こちらを見下ろして『こっちだよ』と手招くチャッピーたちの姿が………うはぁ~、このあいだ行った神殿よりも神殿っぽいんですけど~。

「あの精霊たちの指す方向に書物館がある。学問書しかないから、シュシューアが言っていた図書館とは違うがな。行ってみるか?」

「いえ、結構です」

「どうせシュシュには読めないしな」

むっ、そんな理由ではございません。

「きっとそこも魔導部の資料室と同じですよ。わたくしは見たことがあるのです。あんな部屋にいたら肺が腐って数分で死んでしまうのです」

アルベール兄さまもベール兄さまも、入ったことがあるのか否定はしなかった。




………続く
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