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第十二章 本願

本願(6)

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 僕の要求に明莉の目が大きく開かれた。

「ほ……本気? 秋翔くん? 本気で私に――フェ……フェラチオして欲しいの?」
「ああ、そうだよ。――明莉にしてもらいたいんだ」

 明莉は困惑したように眉を寄せる。

「私たち……友達だよね? 幼馴染だよね? ……それでフェラチオって。――嫌だよ。なんだかおかしいよ。――秋翔くん。なんだかおかしいよ!?」

 彼女の中に黒い疑惑が渦巻き始めている。――そう感じられる。

「でも僕らは恋人同士だろ? ――偽装だけどさ。それなら偽装の性交渉をしても――おかしくないんじゃないかな?」

 真白先生は詭弁のことをレトリックと言うのだと言っていた。
 それならこの論理だって立派なレトリックだろう。

「おかしくなくないよ……。おかしいよ。――どうして秋翔くんは、私にフェラチオ……して欲しいの?」
「それはフェラチオをして欲しいからだよ。恋人なら――するよね? 明莉は真白先生に――フェラチオしていたでしょ? ――水上にもした?」
「み……水上くんにはしてないわよ」

 思い切ってその腰に腕を回して引き寄せる。
 近づいた明莉が驚いて僕の顔を見上げた。

 至近距離で見る彼女の顔が可愛すぎて、どうにかなりそうだった。
 女の子らしい彼女の香りが鼻腔を突く。

「――明莉。これは大切なことなんだ。偽装恋人の僕たちが本当の恋人同士と同じようにする。――そして真白先生との関係を覆い隠していく」
「――覆い隠す?」

 僕は腕に力を入れて彼女を、ベッドから引きずり下ろした。
 明莉は少しバランスを崩しながらベッド前のカーペットに膝を突いた。
 そして少し怯えたような目で僕を見上げる。

 僕が大切にしてきた幼馴染の明莉。ずっと守ってきた明莉。
 その彼女から僕自身がこんな視線を受けることになるとは、思ってもなかった。
 でもこれは大切な過程なのだ。現実を虚構で上書きして、正しい世界線に至るために。

「――僕らは本当の恋人みたいにならないといけないんだよ、明莉。……そうすれば僕はこの動画を、誰にも見せない。真白先生を学校から追放したりもしないよ」

 跪いたまま、明莉は下唇を噛みしめる。
 しばらく逡巡した後に、彼女は上目遣いに僕を見上げた。
 その瞳は潤んでいて、――今にも泣き出しそうだった。

「――約束だよ……?」

 彼女の言葉に僕の全身が興奮する。
 ついに辿り着いた瞬間に全細胞が色めき立つ。

「うん。――約束する」

 真剣な表情で彼女に頷き返した。
 ――精一杯の誠意を込めて。

 明莉は少し膝を上げると、白いスカートを左手でと整えた。
 あらためて僕の前に跪くと、その両手を僕の太腿に置いた。

 彼女の手が制服越しに僕の肌に触れる。
 その接触面から彼女の温度が伝わり、その温度に触れた僕の細胞が歓喜の声を上げる。
 細胞の一つ一つが女神からの祝福を受けて「自らの存在意義レゾン・デートルを知った!」と恍惚とした表情を浮かべた。

「――一回きりだよ?」

 確認するみたいに彼女が言う。
 僕はイエスともノーとも言わずに、彼女のボブヘアを撫でた。
 少し苦しそうな表情を浮かべたまま、明莉は僕の内腿に両手を這わせていく。
 ちらちらと彼女は僕の顔を見上げて、僕は何度か頷いた。
 彼女は困った顔でまた視線を僕の股間へと向けた。

 僕の股間は完全に勃起していた。
 その怒張は制服の上からでもはっきりと分かった。

「――やっぱり秋翔くんも、……男性なんだね」

 明莉はおずおずとその手をファスナーへと伸ばすと、指を掛けてスライダーを下ろした。
 そのの動作がやけに手慣れていて、なんだか僕の胸を締め付けた。

 開いたファスナーの内側で僕の肉棒が下着を押し上げ外に出せと主張している。
 細くて白い指を伸ばして、明莉は僕の息子をその牢獄から救い出した。

 黒い制服のズボンの間から血管を浮かべた褐色の肉棒が躍り出る。
 ピンク色の明莉の布団の上で。女の子らしくて可愛らしい空間の中へと。

「……大きい」

 驚いたように、明莉が漏らす。

「――真白先生よりも?」
「それは……知らないわよ」

 答えにくそうに唇を尖らせる。

「……秋翔くん――本当にしなきゃ駄目?」

 明莉は往生際悪く眉を寄せた。

「――大きすぎて口の中に入らないとか?」
「そういうことじゃなくて……。それは大丈夫だと思うけれど」
「分かるんだ? 咥えてみなくても、分かるんだ?」

 経験があるから目測で分かるのだ。
 真白先生の肉棒を何度も咥えているから分かるのだ。
 そう考えると胸が痛んだ。
 何度も見た動画が頭の中に浮かぶ。
 二週間毎日見続けてきた明莉のフェラチオ。
 それが自分自身の肉棒に迫りつつある。

「――意地悪すぎるよ。今日の秋翔くん」
「ごめん。でもこれは僕との明莉の契約なんだからね。公平で公正な契約に基づく……」
「分かってる……わよ」

 彼女らが右手を伸ばして僕の肉棒を握る。
 彼女のひんやりとした手に包まれた瞬間、僕の股間から体中へと快楽が広がった。
 まるで彼女が握る僕の肉棒が世界の中心になったみたいだった。
 やがて左手も添えられる。

 彼女の丸いボブの頭を、僕は優しく両手で包んだ。
 股を開いて彼女の頭を自分の下腹部へと迎え入れる。
 ずっと好きだった幼馴染を――自分自身の股間へと。

「――ねえ、ズボンは脱ぐの? それともファスナーから出たままで大丈夫?」

 屹立する男性器を前にして明莉が尋ねる。
 興奮してそこまで考えていなかった。

「――僕はどちらでもいいけれど。……じゃあ、脱がしてもらおうかな」
「う……。言うんじゃなかったかも」

 明莉は仕方なさそうに、指を伸ばして僕のベルトを外す。
 器用にボタンも外すと、パンツと一緒に制服のズボンを引きずり下ろした。

 顕になった僕の股間からは、はちきれそうに膨らんだ僕の肉棒が姿を見せていた。
 それを明莉が両手で包み、上下させて擦る。
 肉棒を弄ぶ手付きは、森さんのそれよりも手慣れているようにさえ思えた。

「――ねえ、秋翔くん。私たちこれ以上やっちゃったら、今まで通りの幼馴染の関係じゃいられない気がするんだけど……。私たち、友達でいられなくなるかもしれない」

 そう言いながら肉棒を握った手を上下させる明莉。
 その「友達でいられない」の意味は――多分悪い意味でだ。
 脅迫して性行為を強要しているのだから、仕方のないことかもしれない。

 でも僕は信じている。偽装恋愛で展開するこの虚構が――いつか現実を覆うのだと。

「――変わらないものなんてないさ。僕は――それでも今、明莉に僕の肉棒をしゃぶってもらいたいんだ。……二週間前のあの日、理科実験室で真白先生にしていたみたいに」

 そう。あの日みたいに。全てが始まった――あの日みたいに。

「――どうなっても、知らないから……」

 拗ねたように明莉はそう言って、大きく口を開いた。
 そして僕の一物を右手で傾けると、頭を僕の股間へと接近させた。

 僕の性棒は――篠宮明莉の温かく湿った口によって柔らかく包まれた。

 それは女神の降臨だった。
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