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第八章 勉強会
勉強会(14)
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森さんの口内に舌を差し入れる。彼女は少し抵抗して僕の手から逃れようとした。
体を寄せて彼女の背中に左腕を回す。
それは彼女を逃さないという決意。
それは彼女を一人にはしない決意。
それは親友として彼女を守る決意。
――やがて彼女は抵抗を止めて僕の舌を受け入れた。
ちろりと彼女の舌が動き、彼女の口腔の中で僕と彼女の舌先が触れ合う。
背中をまさぐる僕の左手が彼女のブラジャーのストラップに触れた。
より近くへと体を寄せると,彼女の胸の先端が僕の胸板に当たった。
香奈恵さんと比べると、ずっとささやかな膨らみ。
左手の指先で触れる肋骨の骨の形さえも、どこか森美樹の華奢さを感じさせる。
つながったままの二人の口で吐息が循環して、二人の内側が――繋がった。
「……森さん」
「――悠木くん……」
僕らは唇を離す。微かに唇を開いたまま。
口の中にピンク色の舌先が見えた。
彼女の柔らかい唇は、まるで小さな蕾だった。
「悠木くんは、こういうことをして……大丈夫なの? その――明莉ちゃんのこととかあるし」
そう言って少女は伏目がちに視線を落とした。
――彼氏の親友としたキスに戸惑うように。
初めてではないのだけれど。
「――森さんはどう? 水上のこと……大丈夫?」
「……わかんない」
そう言って栗毛の彼女は切なそうに眉を寄せた。
僕はそんな彼女の頭をゆっくりと撫でる。
「そうだよね。――わからないよね」
僕がくしゃくしゃと彼女の髪の毛を冗談っぽく掻き回す。
森さんは左腕で僕の手を照れくさそう払った。
「――もうっ」
「ごめんごめん」
僕らはベッドの脇、卓袱台の前、カーペットの上、至近距離で向かい合う。
「――明莉のことは一番好きだよ。――特別さ。誰かと比べるとか、誰かに気移りするとか、そんなことはありえない」
「――うん」
どこか安心したように、森さんは頷いた。
――世界の原則というものは人に安心感を与えるらしい。
「だからこそ僕は森さんのことを大切に思えるんだ。――大事にしたいと思うんだ。――親友として」
「――親友として」
彼女が僕の言葉を繰り返す。
僕ら二人のリズムを同期させるように。
「そう、親友として。――僕たち親友なんだよね?」
「そうだよ。親友なんだよ、あーしたち。いろいろ心を許せる親友同士」
「じゃあ悩みだって分かち合える、大切なものだって見せ合える……ってことかな」
「うん。まーねっ!」
森さんは嬉しそうに頷いた。
「あ……そうだ」
僕はポケットの中に手を突っ込み、自分のスマホを取り出す。
いつも彼女を撮影しているスマホだ。
森さんは不思議そうに首を傾げた。
「――日曜日、森さんから電話が掛かってくるまで『自堕落に寝ていた』って言っていたでしょ?」
「あ……うん、そういえば言っていたよね。『呼ばれなかったら、一日中自堕落に寝ていた~』とかなんとか」
「それはさ、土曜日に夜遅く、明け方までこれを作っていたからなんだ――」
スマホでクラウドストレージのフォルダを開き、ファイルを選択する。
ダウンロードを終えると、僕は画面を横に向けて二人の前に持ってきた。
二人が顔を寄せ合って覗き込める位置に。
そして動画を再生した。
「――あ、これって屋上?」
まず映し出されたのは――空。
学校の屋上から見上げた冬の寒空。
僕らの青春を包み込む遥かなる天井。
やがてカメラはその角度を下ろす。
コンクリートの屋上でフレームが横に滑る。
そして一人の少女が現れた。
屋上の柵に腕をかける少女。
そして彼女はカメラの方へと振り向いた。
「あ……これ、私」
森さんが少し照れくさそうに漏らす。
僕はその頭を左手で優しく撫でる。
やがて少女の顔はアップになり、少し儚げな表情からなだらかに笑顔へと変化した。
カメラを構える相手を信頼してきっているみたいに。
そして何かを口にする。音は聞こえない。
――そこからBGMが流れ始める。
廊下を歩く彼女。
遊園地の彼女。
教室の彼女。
図書室の彼女。
友達と笑い合う彼女。
――その全ては森美樹で、その全てが青春のポートレートだった。
映像を森美樹は無言で見つめ続ける。
スマホで撮った映像の一つ一つが、編集され、連ねられ、一つの物語を成していた。
彼女の物語を。――森美樹の物語を。
やがてエンディング。
三分ほどの短い動画は――黒い画面へとフェードアウトしていった。
しばらく経ってから、ようやく森さんが口を開いた。
「――これ、悠木くんが作ったの?」
ベージュ色のパーカーを着た少女が、至近距離で僕を見上げる。
「作ったっていうか、僕は編集しただけだけどね。――演じたのは森さんだよ。だからある意味で、これは森さんの作品さ」
僕がそういうと、森さんはゆっくりと首を振った。
「ううん、これは悠木くんの作品だよ。――あーしはただ撮ってもらっただけ。――それを作品にしたのは、悠木くんだよ」
彼女はまぶたを閉じる。
「――私って、悠木くんにはこんな表情を見せているんだね……」
「森さん――?」
閉じたまぶたのその端から、光る雫が微かに揺らめいた。
そしてそれは一本の線となり森美樹の頬を流れ落ちたのだ。
やがて開かれた彼女の瞳は潤んでいて、その中で光は儚げに揺れていた。
「……やだなぁ。あーし、涙なんて、見せちゃ駄目なのに。涙なんて見せたって、悠木くんのことを困らせるだけなのに。――親友だもんね。悠木くんは――あーしの親友だもんね?」
彼女の頬を伝う涙は止まらずに、細い線を描く。
そしてその言葉には微かな嗚咽が混じり始めた。
――だから、僕は。
「――悠木……くん」
――僕は彼女の背中両腕を回し、抱きしめた。
そしてそのまま立ち上がり、彼女の上体をベッドの上へと仰向けに横たえた。
「悠木くんのこと、……秋翔くんって呼んでいい? この前お願いした時は断られちゃったけど。――親友だから」
ベッドの上で僕を見上げて、彼女が囁く。
「いいよ。二人の時ならね。……じゃあ、僕も美樹って――呼ぼうか? ――親友だから」
「うん――いいよ、秋翔くん」
「――美樹」
そして僕はその唇の上に、また自らの唇を落とした。
親友の彼女の――唇に。
体を寄せて彼女の背中に左腕を回す。
それは彼女を逃さないという決意。
それは彼女を一人にはしない決意。
それは親友として彼女を守る決意。
――やがて彼女は抵抗を止めて僕の舌を受け入れた。
ちろりと彼女の舌が動き、彼女の口腔の中で僕と彼女の舌先が触れ合う。
背中をまさぐる僕の左手が彼女のブラジャーのストラップに触れた。
より近くへと体を寄せると,彼女の胸の先端が僕の胸板に当たった。
香奈恵さんと比べると、ずっとささやかな膨らみ。
左手の指先で触れる肋骨の骨の形さえも、どこか森美樹の華奢さを感じさせる。
つながったままの二人の口で吐息が循環して、二人の内側が――繋がった。
「……森さん」
「――悠木くん……」
僕らは唇を離す。微かに唇を開いたまま。
口の中にピンク色の舌先が見えた。
彼女の柔らかい唇は、まるで小さな蕾だった。
「悠木くんは、こういうことをして……大丈夫なの? その――明莉ちゃんのこととかあるし」
そう言って少女は伏目がちに視線を落とした。
――彼氏の親友としたキスに戸惑うように。
初めてではないのだけれど。
「――森さんはどう? 水上のこと……大丈夫?」
「……わかんない」
そう言って栗毛の彼女は切なそうに眉を寄せた。
僕はそんな彼女の頭をゆっくりと撫でる。
「そうだよね。――わからないよね」
僕がくしゃくしゃと彼女の髪の毛を冗談っぽく掻き回す。
森さんは左腕で僕の手を照れくさそう払った。
「――もうっ」
「ごめんごめん」
僕らはベッドの脇、卓袱台の前、カーペットの上、至近距離で向かい合う。
「――明莉のことは一番好きだよ。――特別さ。誰かと比べるとか、誰かに気移りするとか、そんなことはありえない」
「――うん」
どこか安心したように、森さんは頷いた。
――世界の原則というものは人に安心感を与えるらしい。
「だからこそ僕は森さんのことを大切に思えるんだ。――大事にしたいと思うんだ。――親友として」
「――親友として」
彼女が僕の言葉を繰り返す。
僕ら二人のリズムを同期させるように。
「そう、親友として。――僕たち親友なんだよね?」
「そうだよ。親友なんだよ、あーしたち。いろいろ心を許せる親友同士」
「じゃあ悩みだって分かち合える、大切なものだって見せ合える……ってことかな」
「うん。まーねっ!」
森さんは嬉しそうに頷いた。
「あ……そうだ」
僕はポケットの中に手を突っ込み、自分のスマホを取り出す。
いつも彼女を撮影しているスマホだ。
森さんは不思議そうに首を傾げた。
「――日曜日、森さんから電話が掛かってくるまで『自堕落に寝ていた』って言っていたでしょ?」
「あ……うん、そういえば言っていたよね。『呼ばれなかったら、一日中自堕落に寝ていた~』とかなんとか」
「それはさ、土曜日に夜遅く、明け方までこれを作っていたからなんだ――」
スマホでクラウドストレージのフォルダを開き、ファイルを選択する。
ダウンロードを終えると、僕は画面を横に向けて二人の前に持ってきた。
二人が顔を寄せ合って覗き込める位置に。
そして動画を再生した。
「――あ、これって屋上?」
まず映し出されたのは――空。
学校の屋上から見上げた冬の寒空。
僕らの青春を包み込む遥かなる天井。
やがてカメラはその角度を下ろす。
コンクリートの屋上でフレームが横に滑る。
そして一人の少女が現れた。
屋上の柵に腕をかける少女。
そして彼女はカメラの方へと振り向いた。
「あ……これ、私」
森さんが少し照れくさそうに漏らす。
僕はその頭を左手で優しく撫でる。
やがて少女の顔はアップになり、少し儚げな表情からなだらかに笑顔へと変化した。
カメラを構える相手を信頼してきっているみたいに。
そして何かを口にする。音は聞こえない。
――そこからBGMが流れ始める。
廊下を歩く彼女。
遊園地の彼女。
教室の彼女。
図書室の彼女。
友達と笑い合う彼女。
――その全ては森美樹で、その全てが青春のポートレートだった。
映像を森美樹は無言で見つめ続ける。
スマホで撮った映像の一つ一つが、編集され、連ねられ、一つの物語を成していた。
彼女の物語を。――森美樹の物語を。
やがてエンディング。
三分ほどの短い動画は――黒い画面へとフェードアウトしていった。
しばらく経ってから、ようやく森さんが口を開いた。
「――これ、悠木くんが作ったの?」
ベージュ色のパーカーを着た少女が、至近距離で僕を見上げる。
「作ったっていうか、僕は編集しただけだけどね。――演じたのは森さんだよ。だからある意味で、これは森さんの作品さ」
僕がそういうと、森さんはゆっくりと首を振った。
「ううん、これは悠木くんの作品だよ。――あーしはただ撮ってもらっただけ。――それを作品にしたのは、悠木くんだよ」
彼女はまぶたを閉じる。
「――私って、悠木くんにはこんな表情を見せているんだね……」
「森さん――?」
閉じたまぶたのその端から、光る雫が微かに揺らめいた。
そしてそれは一本の線となり森美樹の頬を流れ落ちたのだ。
やがて開かれた彼女の瞳は潤んでいて、その中で光は儚げに揺れていた。
「……やだなぁ。あーし、涙なんて、見せちゃ駄目なのに。涙なんて見せたって、悠木くんのことを困らせるだけなのに。――親友だもんね。悠木くんは――あーしの親友だもんね?」
彼女の頬を伝う涙は止まらずに、細い線を描く。
そしてその言葉には微かな嗚咽が混じり始めた。
――だから、僕は。
「――悠木……くん」
――僕は彼女の背中両腕を回し、抱きしめた。
そしてそのまま立ち上がり、彼女の上体をベッドの上へと仰向けに横たえた。
「悠木くんのこと、……秋翔くんって呼んでいい? この前お願いした時は断られちゃったけど。――親友だから」
ベッドの上で僕を見上げて、彼女が囁く。
「いいよ。二人の時ならね。……じゃあ、僕も美樹って――呼ぼうか? ――親友だから」
「うん――いいよ、秋翔くん」
「――美樹」
そして僕はその唇の上に、また自らの唇を落とした。
親友の彼女の――唇に。
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