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第四章
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しおりを挟むさて…。
どうやって聞き出せばいいのか。
生憎こういうことには慣れていない…。
直接貴女は殿下を殺すつもりがおありで?なんて聞ければどれだけ楽だろうか。
もちろんそんな無礼すぎることは言わないけれど。
「…ジュゼッペ様。とても矛盾してはいませんか」
「矛盾…?」
「はい。…出会った頃、私より自分の方が殿下の婚約者にふさわしいと言っておりました」
「もちろん今でもそう思っていますわ」
「…本当にそうでしょうか?」
「えぇ。何を疑問に思う必要があるの?」
「…なら何故、会いに来ないことを受け入れるのですか。聡明であるジュゼッペ様なら明らかに殿下にその気が無いのをわかっているはずです」
「……」
「その気が無いのをわかって尚、まだ婚約者候補としていらっしゃるのは…もしかして殿下に害を与えるつもりで…?」
「それは違いますわ!」
ジュゼッペ様らしくない大きな声。
「なら、何故」
「……っ」
本当はこんなに追い詰めるなんてしたくない。
こんな悪役じみたこと。
でも、どこか心が焦っている。
殿下の命に関わるかもしれないから。
黙り込んだジュゼッペ様に、ヒルユが声をかけた。
「お嬢様……このままアイシア様に誤解をされてしまうくらいなら、真実を話した方が良いのではないでしょうか」
「……でも」
「今更…ギャルツ家のことを気にする必要など無いのでは…」
「……っ」
ジュゼッペ様は酷く複雑な顔をしていた。
話すべきか否か。
たったそれだけかもしれないが、きっと彼女にとっては何かをも変えてしまうほど大きなことなのだろう。
「……こんな恥ずかしい話。聞く方を不快にさせるだけですわ」
「お嬢様…」
「…私は別に、アイシア様に不快な思いをさせたいわけではありませんもの」
どこか寂しそうに笑う。
…もしかして遠慮しているのか。
なら、言える空気にするのが今私のできること。
「……なら今が不快です」
「え?」
「ジュゼッペ様は私に不快な思いをさせたくないんですよね?なら話してください。……ここまできて言わないのは逆に私がもやもやして不快にな。ますよ?」
ここまできて、なんて全然来るとこまできてない気がするけど。
不快…か。
どうやら殿下どうこうではなく、問題はジュゼッペ様自身にあるのかもしれない。
「いや…聞く方が不快に」
「それは聞いてから私が決めます。まだ聞いてもいないのに決めつけるのはいかがなものかと?」
「で、でも!」
「ジュゼッペ様。……別に私は話を聞いたくらいじゃ不快にはなりません」
「……でも」
「あー!もう!でもでもでもでもしつこいですよ!話すことが不安なことはわからなくないです。ですけど、まだ話してもいないのに決めつけないで下さい。………私を少しは信じてください」
「!!」
「もしジュゼッペ様が私を信じて話をしてくれるのなら、私はそれを決して蔑ろにせず、共に向き合うとここに誓いますわ。…抱える悩みは、私だけではどうにもならないかもしれないですが…できることはします」
「……どうして会って間もない私にそこまでしてくださるの?」
「どうして…ですか」
単純に言えば、自分と殿下のためなのだが。
でも純粋に放っておけない。
ただのお人好しでおせっかいかもしれないけど。
「別に、深い理由などありませんよ」
「え」
「ただ放っておけないだけですわきっと」
「そんな」
「私のおせっかいだと思ってくれてかまいませんわ。ですから適当に利用してください」
「…」
「私の好きでやるんですから。ジュゼッペ様は何も気負う必要はありませんわ。……ですからどうか、話を聞かせてもらえませんか?」
「っ…!」
ジュゼッペ様の肩の力が一気に抜けたのがわかった。
「ありがとう……アイシア様」
ジュゼッペ様は涙声で話し始めた。
彼女の行動の真実を。
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